トオルの受難、ふたたび ~8~
ハルトの性格はよく知っている。繊細だけれど頑固で、ちっちゃなことで落ち込みやすい。
自分の好きな面ももちろんあるだろうけれど、多分、それ以上に自分の嫌いなところの方が見つけやすい性分だろう。だからあんなに落ち込みやすいんだろうといつも思う。
そんなハルトが、ユウリに自分にそっくりになって欲しいなんて望むわけがない。むしろ、同じだったら大問題だ。
「なに? それ? 俺とハルト、同じやったらあかんの?」
「あのね、ユウリはユウリで、ハルトじゃないやん? 俺はハルトか?」
「トオルや。ハルトやない」
「そういうこと。俺とハルトは違うし、ユウリとハルトも違うんよ」
なんとなく納得がいっていなさそうなユウリに、トオルが続ける。
「あんなぁ、ユウリがハルトと同じものを好きになろうとする努力とか、そういうんはすっごく良いことやと思うで。でもな、無理することはいっこも無いんよ。ユウリがハルトと違うってことも、それが当然ってことも、ハルトは知ってると思うで」
外に出たがるユウリにいつも手を焼いていたハルトはきっと、出不精の自分とユウリとでは趣味が違うだろうなんてことは、ずいぶん前からわかっているはずで、それがなんの障害にもならないことまでわかっているだろう。
「俺、釣り、嫌いなわけ、ちゃうよ……」
「うん。だからそれもきっと、わかってるって。今度ハルトに聞いてみ? 多分、俺と同じようなこと、言うと思うよ」
「ほんま?」
「うん」
こうやって、少しずつ、ユウリは大人になっていくんだろう。
そんなことを思うトオルは、そこはかとなく寂しいような気持ちになってしまう。
そこで初めて、ハルトがユウリに対して特別な繋がりを持ちたがった気持ちが、少しだけわかったような気がした。
ハルトはきっと、今トオルが感じている寂しさの何十倍もの寂しさを感じたんだろうと、妙に納得してしまう。
それでも、
「本、選んで欲しかったんやないんか?」
これ以上の回答はトオルにも準備できそうになくて、さらっと話しを逸らすと「あっ、そうや!」と、ユウリが本棚に向かう。その背中を追いつつ、トオルは最初の意地悪なひらめきに従ってロマンチックな恋愛小説を選んで渡す。
「これ読んだら、俺、経験値? 上がる?」
「もっちろん! きっとハルトがビックリするくらい、上がるよ」
これを読んでしまったら、ハルトの「キス」の嘘は、あっという間にばれてしまうだろう。
ま、でも、嘘と言いきれない部分もあるし、ユウリもそれで納得してしまうかもしれないし、その先はきっと「神のみぞ知る」という状況で。
そんなことを思い浮かべてくすくすと笑うトオルの脳裏に、午前中の切羽詰ってユウリのことを相談してきたハルトの姿が浮かんだ。
ハルトが機械相手に本気になるなんて、最初は思ってもみなかった。
けれど、ユウリは機械であって機械とはいえない、とてつもなく優しい存在だから、ふたりの未来なんて結局は自分にはわからないだろうと諦める。
「ハルトが、ビックリするん?」
「うん、きっとね」
「やったら俺、一生懸命読む!」
ぎゅっと本を抱きしめて、ユウリが続ける。
「俺、ずっとハルトとおれるよう、努力せなあかんねん」
「え?」
「やって、俺、機械やん?」
抱きしめた本を大切そうに抱え直して、ユウリがはっきりと言う。
「機械やから、ハルトはもしかしたら俺のこと、いらんようになってまうかもしれんやろ? そうなってしまったら哀しいから、俺は努力せなあかんねん」
ユウリの言葉は、トオルを唖然とさせた。




