トオルの受難、ふたたび ~7~
「どうしたん?」
優しく問うトオルを、きゅっと唇をかみしめて見上げたユウリが、ひょいとトオルの手を取ってソファに座らせる。
そして、その正面に座ると「ふー」と一息ついて、そろそろとハルトと一緒に釣りに行ったんだと話しだした。ふんふんと聞いていると、「ハルトと一緒で楽しいはずなのに、俺、寝てもうたん」と、しゅんと肩を落とす。
「興味ないんやったら、釣りは暇かもなぁ」
「あっ、あんな、興味ないわけやないん。多分、今は、好きでも嫌いでもないんやと思う」
よく知らないのであればそれはもっともな事で、だとしたらこれから覚えていけばいいだけの話しで、何をそんなに悩んでしまっているのかトオルは不思議になって首を傾げてしまう。
「それで?」
元気のなくなってしまったユウリに話しの先を促すと、なんとも切なげな視線を向けてくる。
「あんなぁ、そんで、……気付いたん。俺、ハルトの好きなことは俺も全部好きやと思っとったんやけど……ちゃうかもしれんって。俺は俺で別に違うもんが好きで、ハルトとは一緒やないのかもしれんって。……それがなんや少し、寂しいみたいやねん」
「えーと……それは……」
これがハルトなら「なんだ? 惚気かよ」と茶化してしまいそうなセリフだったけれど、ユウリはいたって真面目な表情で、真剣に悩んでいるのがわかる。なので、返事に窮してしまったトオルはぽりぽりと自分の頭を少しかいて、多少の間をあけて口を開く。
「普通のことやと思うで」
ユウリの言いたいことはわかる。
ハルトが大好きだから、ハルトが好きなことなら多少自分が苦手なことでも好きになりたいと思ってしまっているんだろう。けれど人と人なら、趣味の違いや性格の差異はあたりまえで、普通のことだと思う。
「……でも、自分が好きなもん、嫌いや言われたら、面白くないやろ?」
「ハルトが、そう言ったん?」
「いや! ハルトはそんなん、言わんよ。言わんけど、……もしも俺やったら、嫌やなぁっていうか……、寂しいって、思うような気がすんねん……」
ヒューマノイドは、日に日に人間らしく賢く、繊細に育っている。
「まっ、そりゃ少しは寂しく思うかもしれんけど、ハルトは多分、「しゃぁない」って、諦めるんやないかなぁ」
「諦める言うんは、無理することやろ? 俺、それが嫌やねん。ハルトが楽しいこと、俺も楽しくなきゃあかん、思うねん。やって、おかしいやろ? 一緒にいるんに、一人楽しくないの」
人の好みなんて千差万別で、それこそ些細なすれ違いなんて日常茶飯事なのに、この健気なロボットはなにもかもハルトと同じでいたいんだろうか? そんなことをふと思って、トオルは質問を変えてみる。
「ユウリは、全部が全部、ハルトと同じになりたいん?」
「なりたいっ!」
間髪いれずに応えるユウリは、その考えに少しも疑問を感じていないようで、トオルはどうしたものかと考えながら、ため息交じりに「同じになんて、なったらあかんねんでぇ」と独り言みたいに呟く。
「いや。俺は、ハルトと同じがええもん」
聡く気づいたユウリが、当然と言わんばかりに繰り返す。
「あんなぁ、ユウリ。もしも、もしもやで、ユウリがハルトと同じやったら、ハルトはユウリの事、好きにはならん、思うで」
単純にそう思ったから、トオルはそのままを口にした。




