トオルの受難、ふたたび ~6~
三人でのどかな昼食を終え、今度こそゆっくりと本を読むつもりだったトオルのもとに、今度はひょっこりとユウリが顔を出す。
いったい、今日は何の厄日だ? とひとりごちて顔をあげれば、閉じたドアの向こう側を不満そうに見つめるユウリがいる。
「ハルトは?」
「ん、今な、勉強中札がかかっとる」
昼食前の会話を思い出して「頭冷やしとるんやろな」なんて心で思いながら、ちろりとユウリに目をやれば、ハルトの「部屋に入っては駄目!」な札を思い返しているのか、唇を尖らせている。
その寂しそうな、拗ねたような表情はやっぱり可愛いくて、面倒事ばかり持ってくるふたりはけれど、トオルにとって決して嫌な存在ではなくて、むしろ「噛ませ犬」でもふたりの間にかかわらせてもらえるだけ楽しいかも、なんて馬鹿なことを思ったりもする。
「新しい本、選ぶんやっけ?」
「あっ、うん」
「今度は、どんなんが知りたいん?」
さっきと同じように問いかけると、小首をかしげながら「俺、あとなに覚えなあかんのやろ?」と本棚に向かって歩き出す。
そこでまた、トオルに「ピン」と悪魔のひらめきが起きる。
本棚の前に立つユウリにそっと近づいて、こそこそっと「小説、読みとうない?」と聞いてみる。トオルが声を潜めるので、ユウリもつられて声を潜める。
「小説って、嘘っこの話?」
「うん。そう」
「……でも、嘘の話って、読む必要あるん?」
「あんな、人間には、脳があるやろ?」
とうとうと話し出すトオルに、ユウリは真剣に聞き入る。
小説の登場人物がある出来事に遭遇する場面を読んだ時と、その出来事が実際に自分の身に起こった時に、人の脳は同じ部位が反応する。だから、架空の話しであってもそれを読むことで、人間は自分の経験値をあげることが出来る。
トオルの説明を、うんうんと素直に聞いていたユウリがぽつんと問う。
「俺も、人間と同じように、経験値? あげること出来るんかなぁ?」
「ユウリは多分、俺らより上がるのは早い、思うで」
「ほんま?」
「あぁ」
もともと、人間よりはるかに物覚えの良い機械だ。経験値だって多分、あっという間に上昇するだろう。そして、その架空の物語は、……たくらみ心満載のトオルが本棚を物色し始める。すると、
「やったら、今、悩んでることも、解決出来るんかなぁ……」
ユウリがぽつんと、そんなことを言う。
「ん? なんか悩んどんの?」
悪魔のささやきはさておき、ユウリの頼りない一言が引っ掛かって、トオルがユウリをふりかえる。ユウリはというと、めずらしくもじもじと言い淀んでいる。




