トオルの受難、ふたたび ~5~
でも、本当のところ、ハルトはトオルに止めてもらって少しだけホッとしていた。
ほんとうは、
自分の中に、こういう感情がなければ、もっと楽にユウリと一緒にいられただろうとハルトは思う。なにもなくても幸せそうに笑うユウリが傍に居るだけで、ハルトは幸せな気持ちになれるのだから。
洗濯物が干せたと言って喜んで報告に来るユウリや、テレビで聞きかじった英語をつたなく喋って照れたように笑うユウリが、ただただ愛おしくて可愛くて心が暖かくなる。
なのに、
ユウリと過ごす、なんともいえないのどかな日常の、あどけない寝顔やなんでも一緒にしたがる子供みたいに素直な感情に、ハルトの気持ちは今にも弾けそうに膨らんでしまう。
膨らむ何かを満たすものが、もしもあふれてしまったなら、きっと大変なことになる。零れては絶対にいけないものだとわかるから、なんとか破裂させないようにと、ハルトは気持ちを平坦に保とうと頑張ってはいるのだけれど、そんなハルトの葛藤を露ともしらないユウリは、なんの気なしにその膨らみをちょんちょんと突っついてくる。
ユウリにそんな気がないことは百も承知しているけれど、その些細な仕草ひとつひとつにときめいてしまうのはどうにもならなくて、ハルトは目いっぱい悩んでいた。
それでも、
慣れたキスに瞳を潤ませて何か言いたそうにするユウリに、その言葉尻を探しながら探し通せない自分は、その先にあるものが幸せだとは思っていないのかもしれなかった。
その答えはきっと、自分の中にしかない。けれどそれは、普通の恋愛の経験すらないハルトにとって、難しすぎる疑問だった。
「ランチーっ!」
図書室での不穏な会話を全く知らないユウリが、ガンガンと派手にフライパンを鳴らしながらやってくる。
「ほわっほわっのパンケーキ! 出来たてやでぇ!」
その屈託のなさに「ふっ」と笑いながら、二人揃ってダイニングに行くと、三人分のランチがきちんとセッティングされていて、トオルがビックリしてしまう。
「ユウリ、これ、ひとりでやったん?」
「うん、そうやよ。夕食やって、最近はほとんど、俺が作っとるんよ」
綺麗な狐色のパンケーキには、クリーム色のマッシュポテトと真っ赤なミニトマトが添えられて、ほかほかと湯気の立つポタージュにはちゃんとパセリまで散らしてあった。
目の前のふたりはというと、ハルトがユウリを「よしよし」と撫でていて、嬉しそうに首をすくめて笑うユウリがいる。
胸がほっこりと暖かくなるような光景に、トオルは幸せな気分で席に座っていた。




