トオルの受難、ふたたび ~4~
「ハルト、おまえ、ユウリに「キス」は挨拶やって、教えたんやって?」
トオルに問われて、ハルトは自分が口を滑らせたことに気がついて、真っ赤になって両手で口元を覆う。
「なんでそないな嘘、教えたん? やから俺が、とばっちり食うんやないんか!」
一週間の鬱々が、ポンと破裂してしまう。トオルが腰を浮かせてハルトに詰め寄る。
「いや、俺が教えたんちゃうねん! 俺からやない!」
「おまえ以外、誰がおんねん!」
「まて! 待て、トオル! ちゃんと話すから」
てなかんじで、事の顛末を説明しだすハルトだったけれど、なんとも可愛らしい話の展開に、怒っていたはずのトオルが思わず「ぷっ」と吹き出してしまう。
「笑い事ちゃうでぇ。あいつ、ほんま、悪気がないだけに始末におえんのよ」
「そうやなぁ」
もう、そう応えるしかなくて、トオルが笑んだまま頷く。そして、
「……しゃぁないか」
ふつりと呟いて、
「しゃぁないよな。……ハルト、ユウリが好きなんやから。……しゃーないよなぁ」
自分の言ったことに、腕組みしてうんうんと頷く。そして、おもむろに、ハルトに顔を近づける。
「あれやわ、ハルト、これはユウリに聞くんが、一番ええよ。ユウリがええ言うなら、それもアリやろ」
「……トオル、」
「俺、ほんまは嫌なんやけどな。なんか今の二人の距離感、すごい好きやから。けど、ずっとそのままでおって言うんは、結局は俺のエゴやし。俺に決める権利はあらへんねん」
トオルが諦めたように笑う。
「あれやわ、もう。ハルトとユウリは、人智越えてしまってんのやろうから、そうゆう繋がりも、あってもええんかもしれん」
トオルの言葉に、少しだけビックリしてハルトが口を開く。
「ほんまに? トオル、ほんまにそう思うん?」
ハルトが、さっきまでの悲愴さを残した表情で首を傾げる。その迷うような表情に、トオルが綺麗に笑って応える。
「もう、ええよ。そゆのも。……けどな! ハルト!」
「な、なん?」
「ユウリって、今、いくつくらいなん?」
「いくつくらいって、……半年?」
「そうやなくて、精神年齢」
「あっ、あぁ、いくつくらいやろ? 幼稚園? いや、小学校……?」
「大人には、なっとらんよな」
「あぁ、まだやな」
「だとしたら、それって、違法やないんか?」
「……トオル……」
「あれやで、そういう、法に引っかかるような事は、したらあかん思うよ。子供にそんなん教えたら、犯罪やからな」
「トオル……、おまえ!」
「それがクリアできるんやったら、ええんちゃうか?」
ニヤッと意地悪く笑うトオルに、ハルトが盛大に息を吐き出す。
「やったら、無理や言うことやん」
「無理ちゃうやん。ユウリが大人になればいいんやから」
トオルの言葉に、困り果てた表情が向けられる。
「たった半年で小学生やろ? あと半年もしたら、俺らに追いつくんちゃう?」
だから、そうなる前に、ユウリが成長してしまう前に、自分だけのものにしてしまいたいと思っていたハルトだった。
でも、トオルの言うことは、もっともだと思う。反論の余地なんて、一ミリもない。
「でもな、今回の「キス」みたいに、中途半端な教え方は無しやで」
「そんなん、どうやって教えるんよ」
「知らんがな、そんなん。それを考えるんは、ハルトの使命や!」
ビシーっと指をさされて、ハルトは脱力するしかなかった。




