トオルの受難、ふたたび ~2~
「こ……、この麦茶、俺らの?」
「あぁ」
問いかけに応える声も、トオルには不機嫌そうに聞こえる。図書室に入るなり、どっかりとソファーに腰を落とすハルトに、銀のトレイを持ったトオルがそろそろと近づく。
「……めっちゃ怖いんやけど……」
「なにが?」
「顔」
「生れつきや!」
もちろん顔ばかりではなく色んな意味でおどおどしてしまっているトオルに、ハルトは気づけない。今は自分の悩みで頭がいっぱいだった。
「どないしたん?」
そーっとトレイを置いて、ハルトの前に座ったトオルが問いかける。すると、
「おまえ、ロボット、くわしいんやんか」
軽いデジャブを感じながら、トオルが応える。
「そんな、くわしいってほどや、ないけど……」
「やけど、俺よりはくわしいやん」
そこまで聞いて、トオルが話の先を促す。
「ユウリのこと?」
それまで俯いていたハルトの視線が、まっすぐにトオルに向けられる。
「……そぉや。ユウリのことや」
「なんやの? 言うてみぃ。俺、聞いてもわからんかもしれんけど、聞くだけやったら聞くで」
「……あんなぁ……」
一瞬の沈黙。
トオルはそれに焦れることも無く、ゆっくりとハルトの言葉の続きを待つ。すると、ハルトが「ふっ」とひとつ大きく息を吐いて「あんな!」と、力強く同じ言葉を繰り返す。
「だから、なに?」
それを切り返すトオルの声音はひどくやわらかくて、ハルトは追い詰められたような気分になってしまう。なので、
「……ユウリに、……キス以外のこと、…………教えてもええと、……思う?」
最後の方はもはや聞き取れないほど、小さな声になってしまう。
「はぁ?」
これ見よがしに、大きな溜息とともに問い返すトオルの前で、ハルトは真赤になってしまっている。
ユウリとハルトに芽生えつつあるささやかな独占欲は、幼い恋愛しか知らないハルトにとって「恋」と呼ぶしかない感情だった。
ハルトの父は、ユウリに「恋愛の機能」はついていないと言った。けれど、ただの「好き」以上の感情がふたりの間に流れているとしか思えない今の状況に、ハルトはほとほと悩んでしまっていた。そして、悩んだ末に出した結論は、とっても現実的ではあったけれど現実的ではなかった。
なにせ、相手は機械なのだ。
それでも、色んなことに不安になってしまう自分たちに、もしも確実なつながりを求めるとしたらそれしか方法はないような気がして、トオルに頼ってしまったハルトだった。
一方、トオルはと言うと、
「ハルト、おまえ、それ、本気で言ってるん?」
ユウリから「キス」の話しを聞いてしまった時から、嫌な予感はしていた。
変なところで真面目なハルトが、軽い気持ちでキスなんか教えないだろうと思っていた。だからきっと、ゆくゆくは……、なんて、善からぬことも思っていたけれど、これはあまりに展開が速すぎないか?
トオルの頭の中がしっちゃかめっちゃかになってしまう。




