04
「それで何があったの?」
調理を終え、夕食の場につきながらそう尋ねてきた。
「それがですね……」
ハヤトは湖で指輪を見つけた後、何をしていたのかを話した。
「そう……。あのヌシみたいなのは海龍だったのね……。しかも、ヌシの後ろには洞窟があったと……」
「はい。あれは、ヌシがその洞窟を守っているようにも見えました」
「それに、洞窟の先には広場があって、そこに像があったと」
女性にそこで見つけた像の姿を話し、海人族に関係があるのではないかと尋ねた。
「確かに話を聞く限り、その像は海神様の像に間違いないわ」
「でも、何故こんなところに海神様の像があるのでしょう?」
「うーん。ただの推測になるけどいい?」
ええ、と頷く。
「恐らくだけど、私のようにあの村から出て、ここに辿りついた人が昔にいたんじゃないかしら? だって、海にいるはずの海龍がここにいるなんておかしいでしょ? 多分その人と一緒に来たんだと思うの」
「それは確かにあり得そうですが、では何故洞窟の先に広場なんてものが作られていたのでしょうか?」
「それは私にもわからないわ。でも、もしかしたら、当時は像を目立つところに置けない理由が、何かあったのかもしれないわね」
「そう言えば、確かにヌシは入口を守るようにしていましたね」
「じゃあやっぱり、何かがあったんでしょうね」
女性は大して気にもしていないようだった。
「でも、あなたの話を聞いて、長年の謎が解けたわ」
「謎ですか?」
「そう、この家のことよ。来た当初にはあったから、ずっと不思議だったのよ。でも、その海人族の人が使っていたってことなら納得だわ」
湖の畔に建てられたこの家。当時、その人はここに住んでいた。そして、湖の中に隠された場所へ赴いては、神に祈りを捧げる。そういった毎日を、過ごしていたのかもしれない。
「そうだ。話に夢中で忘れるところでした」
ハヤトは肝心な指輪を、慌てて懐から取り出し女性に渡した。
「ありがとう。正直もう見つからないかと思っていたから、本当に嬉しいわ」
女性は渡された指輪を、大事そうに抱えていた。
「そんな大切なものだとは。それが一体どういったものなのか、聞いてもいいですか?」
「これはね、子供の頃に、親から貰った物なの」
女性は子供の頃を懐かしむように話をしてくれた。
「家出しておいて何を言ってるんだって思われるかもしれないけれど、私は別に親のことが嫌いってわけではないのよ。確かにあの時はカッとなってすぐ家を出てしまったけど、今となっては私のことを想ってだってわかってるから」
一時の感情で行動してしまったことを、彼女は後悔しているようだった。
「だから、この指輪は今まで大切にしてたんだけど、あの時に失くしてしまって本当に悲しかったのよ。けれど、それを取り戻してくれて本当に感謝している」
「そんなに両親のことを大事に想っているのに、村へ戻ろうとは思わないのですか?」
「あんな別れ方をしてしまったから、今更戻っても到底受け入れてもらえるとは思ってないわ。自業自得だと理解はしているもの。だから、少し寂しくはあるけれど、ここで一生を過ごすことに決めているわ」
そう自嘲する彼女の顔には、出来ることなら戻りたいといった感情がにじみ出ていた。
翌日。天気も快晴で絶好の旅日和の朝。ハヤトとアーリアはこの場所を発とうとしていた。すると、見送りに来ていた女性からハヤトは何かを手渡された。
「これはあの指輪ですよね? どういうことですか?」
「あなたたちは色んな所を旅しているのよね。だったら、もし私の故郷である海の村に立ち寄ることがあったら、この指輪を渡してほしいの」
女性はそうお願いしてきた。
「僕たちは気ままに旅をしているので、あなたの村に立ち寄るかはわからないですよ? それでもいいのですか?」
「ええ。もし寄ることがあった時でいいわ。それを渡して、私は元気にしているって伝えてほしいの」
彼女がそう真剣な表情で見つめてくるので、ハヤトは断ることが出来なかった。
「はぁ……。仕方ないですね、わかりました。もし立ち寄った場合には、渡しておきますよ」
「ありがとう。恩に着るわ」
女性の感謝を受けながら、ハヤトは懐からあるものを取り出した。
「これを」
手に持った小さな水晶のようなものを渡すと、彼女は不思議そうに見つめていた。
「これは何?」
「大切な指輪を渡すんですから、それの代わりです。大事に持っておいてください」
「そう。なら、ありがたく受け取らせてもらうわ」
水晶を受け取ったことを確認すると、ハヤトたちは出発することにした。アーリアが元の姿に戻った時は驚いているようだったが、すぐに気を取り直していた。
「ここ数日間、泊めてくれてありがとうございました」
「こちらこそ。久しぶりに人と話せて楽しかったわ」
「お姉さん、ありがとうにゃ。アタシも楽しかったにゃ」
三者お互いに言葉を交わし、ハヤトとアーリアはこの地を旅立った。
その様子を、女性は姿が見えなくなるまでずっと見送っていた。
ハヤトたちは、川に沿って移動をしていた。
「あの人にはああ言ったけど、あそこまで聞かされたら無視は出来ないなぁ……」
「いつものように、自分には関係ないって無視するかと思ってたにゃ」
「……まぁ、実際そのつもりだったけど。でも、海の村って伝統的なイメージがして、何か面白そうじゃない?」
「……あの人のためじゃなくて、自分のためだったかにゃ……」
女性の家を旅立ってから暫くの時間が経ち、やがて遠くに海らしきものが見えた。海のそばには小さな村らしきものもあり、あれが女性の故郷なのかもしれないと思った。
「あれがそうなのかにゃ?」
「川に沿って移動してきたから、話を聞く限りではあの村だと思うけど……」
あの村で正しいのかは半信半疑だったが、ひとまず村の近くで広そうな場所を見つけ、地上へと降りることにした。
その村は、それほど大きいわけではなく、ここからでも村の全体が見渡せる程だった。短い草が雑多に生え、所々に木造の家が点在している。そして、村の横には幅の広い川が流れており、その流れる先には砂浜が広がっていた。
村には囲いのようなものはなく、入口と呼べるものは見当たらなかったため、二人は勝手に村へと入ることにした。
村の中で住民を何人か見かけたが、皆見知らぬ侵入者である自分たちを警戒の目で見ていた。そして、その人たち全員が耳の辺りに扇状のヒレのようなものがあり、あの女性と同じく海人族なのがわかった。
「皆、耳にヒレがあるにゃ」
「海人族だね。ということは、やっぱりここで間違いなさそうだ」
ここがあの女性の村であると確信すると、近くにいた村人に話を聞くため声をかけた。
村人は最初、こちらを警戒しているようだった。けれど、ある人の身内を探していると言い、巫女に選ばれた女性のことを伝えると、村人は女性の身内がいる場所を教えてくれた。
二人は村人に感謝し、女性の身内がいるという場所に向かうことにした。




