09
お互いに剣を打ち付けあう中、ユウヤはルイスに話しかけた。
「ルイス。なぜ村への襲撃に加担したんだ? 他の二人みたいに拒否することも出来ただろう」
ルイスはこちらの攻撃を受け止めながら、先ほどの問いに答えた。
「拒否? そんなこと考えもしなかったな」
「どうして?」
「どうしてだと? そんなの、お前が悔しがる顔を見たかったからさ!」
受け止めていた剣を弾き、再び攻守交替する。
「そんな呑気な言葉が言えるってことは、何も気づいてなかったんだな」
「何の話だ?」
「俺はお前のことがずっと憎かったってことさ!」
ルイスは目一杯力を込めて打ち込んできた。ユウヤも攻撃を食らうわけにはいかないので、当然それを受け止める。
「僕はお前に何かしたか?」
「お前自身は何もしてないかもな」
「ならば――」
何故と続けようとしたところ、言葉を被せるように告げてきた。
「お前が勇者だったからだよ」
「勇者……だから?」
「ああそうさ。俺とお前。いつも二人で前衛として戦ってきたな。だけど、称賛されるのはいつも勇者だけだ」
そう言うと、怒りをぶつけるかのように攻撃はさらに苛烈になった。
「どれだけ苦労しても、称賛されるのは勇者のみ。俺だって同じように戦っているのにも関わらずな」
「勇者パーティとして活動してたんだから仕方ないだろ。それを言えば、あの二人はどうなるんだ」
「あの二人はまだいいさ。攻撃魔法と回復魔法という、パーティでの独自性を持っていたからな。だけど俺はどうだ? お前と同じ剣で戦っているにも関わらず、お前には勇者の力や聖剣の力がある。どう見てもただの劣化だ」
「それは……」
ユウヤは攻撃を受けた反動で、一旦距離を離す。
「そんなの惨めじゃないか……。あれだけ頑張ってきたのに、お前なんていなくても同じみたいに思われるのは……」
ルイスは、少し悲しそうな表情でそう言った。けれどすぐに元の表情に戻すと、ユウヤへの攻撃を再開した。
「お前が魔王を倒し、奴に代わって魔王になったあの時、これは好機だと思った。お前をパーティから追い出せば、名声は俺たち三人のものになる。そうすれば、俺も勇者と比べられることはなくなると」
「だからあの時、すぐ攻撃をしてきたのか……」
「万が一にも四人で帰ることにはなりたくなかったからな」
ユウヤも攻撃を受ける合間に少しずつ反撃をしていたが、それらは難なく躱されていた。
「だけど、それなら目的はもう達成していたじゃないか? 何故関係ない村まで襲った?」
「関係ない? お前が生まれた村じゃないか。俺はお前に関わる全てが憎かった。だから、王に命令された時は内心とても喜んでたさ。お前にも自分の無力さを味わわせることが出来るってな」
ユウヤは、受け止めていた剣を渾身の力で振り払い、ルイスを無理やり後退させた。
「君の考えはわかった。僕のせいで辛い思いをしていたことも……。だけど、僕が憎いというだけで、関係ない村を襲撃したことは許すことは出来ない」
「許すことは出来ない、とは偉そうに。だったらどうするってんだ?」
「君を殺すよ」
そう言うと、急に笑い出した。
「はははははっ。何を言うかと思えば。お前、魔王になって勇者の力は失ったんだろ? 現に聖剣の力は失ってるじゃないか。今まで剣は互角だったのに、どうやって俺を殺すつもりだ? 魔法を使うとか言うなよ? 当然こちらは撃たせる時間は与えないからな」
そう言うと、周囲の騎士団が剣を構えなおした。
「もちろん魔法なんて使うつもりはないよ」
その言葉が終わるや否や、ルイスの視界から姿が消える。目を開いて驚いていると、急に胸から熱いものを感じた。ゆっくり視線を下げれば、そこには消えたはずのユウヤと、その手に持った剣が自身を貫いているのが見えた。
「ぐふっ」
「……勝手に勘違いされても困るけどね。確かに聖剣の力は使えなくなったけど、勇者の力まで使えないと言った覚えはないよ」
ユウヤはルイスから剣を引き抜く。
「今までは手を抜いていたってことか……舐めやがって……」
ルイスは最後にそう言い残し、地面へと倒れていった。
「騎士団よ! そいつを殺せ!」
思うところがあって、地面に倒れた元仲間を見続けていたが、どうやらそんなことをしている時間はないようだ。
王の命令を受けて周囲から迫ってくる騎士団に、ユウヤは魔法を放つ。暗い闇を思わせるかのような力の奔流。それを受けた騎士たちは次々と倒れていった。一人、また一人と倒れていくと、気付けばそこに立っているのは二人しかいなかった。
「何なんだそれは!?」
「これは魔王が持っていた闇魔法の一つです。これに触れると、耐性のないものは死に至ることになります」
あの時魔王から受け継いだ力。それは、まるで昔から持っていたかのように感じられ、使い方もすぐに理解することができた。先ほど使った闇魔法もその内の一つで、体に触れると生命エネルギーを吸い取って、生物を死に至らしめる。
「よくも我が国の兵を!」
自国の兵を全滅させられ、王は怒り心頭になっていた。
「王よ!」
そんな王へと呼びかける。
「あなたは国家の安全を考えた結果、村をあのようにしたのかもしれない。それは、国の主としては正しい選択なのだろう。だけど僕にとって、あの村は大切な故郷だった」
そして、一呼吸おいて続ける。
「だから、国のためとか、人々のためとかは僕には関係ない。悪いけど、僕のために死んでください……」
それを聞き、王は怒り狂った。
「貴様! 今まで勇者として育ててやったのに、その物言いは何だ! 誰に対してものを言っている!」
「それは感謝してます。こうして戦えるようにしてくれたのは。けれど、村をあんな風にしたのだけは許せない。だから、大人しく復讐されてください」
そう言うと、ユウヤは王へと手のひらを向けた。
「今までありがとうございました。そして、さようなら……」
ユウヤは、先ほど騎士たちに放ったのと同じ魔法を王へと放った。王は魔法を受けると、糸の切れた人形のように崩れ落ちていった。
ユウヤが復讐を終えた余韻に浸っていると、何やら部屋の外が騒がしくなってきた。恐らく、メイドか誰かが倒れている騎士を見つけたのだろう。
部屋の扉が開かれ、メイドたちが中に入ってきた。そして、中の惨状を見るや否や悲鳴をあげた。
その隙にユウヤは扉を駆け抜け、窓を割って城から脱出した。そしてそのまま走っていき、国の外へ出ることに成功した。国を出ても暫くは走り続け、追手が来ないことを確認するとようやく足を止めて立ち止まる。
「これで僕も立派な犯罪者か……」
来た道を振り返り、遠くに見える今まで育ってきた国を眺めていた。最後はこんな結末になってしまったが、様々な思い出があった場所でもあるため、何とも言えない気持ちだった。
「さて。やるべきことは終えたし、本格的に旅を始めたいけど、このままじゃ手配書ですぐにばれてしまいそうだな……。そうだ!」
ユウヤはいい案を思いついたとばかりに、自身の黒髪を銀に、目の色を黒から碧に、魔力を使って変化させた。
「これで多少はマシになるかも。後は名前も変えておこうか。そうだな……。物語の勇者様から取って、『ハヤト』とでも名乗ろうかな」
こうしてハヤトは、生まれた村と、育った国を離れて旅をすることになる。いつか、村の皆と再び会えることを夢見て……。
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