08
城に着くと、相変わらず門には兵士が立っていて、己が職務を全うしていた。さすがに正面からの侵入は無理そうなので、どこか人のいない場所から壁を乗り越えることにした。
侵入できそうな場所を探して城の周囲を歩いていると、見覚えのある場所を見つけた。
「あー、そう言えばこの場所だったか。懐かしいな……」
そこには壁に小さな木の板が立てかけられていた。それをどければ、子供が通れるくらいの小さな穴があった。
「よく隠れて抜け出して、外に遊びに行ったなぁ」
王国に来てすぐの頃。当時は村での出来事もあって、何があろうと上手くできる、そんな根拠のない自信を持っていた。
けれど、訓練が始まれば失敗続き。挙句の果てに、勇者のくせにこの程度も出来ないのかと怒られてばかり。自分の持っていたちっぽけな自信は粉々に打ち砕かれた。
そうして少し訓練に嫌気を差していたところ、ある少年と出会った。
名も知らぬ少年は、どうやって城内に入り込んだのかわからないが、訓練が終わる頃に現れては遊びに行こうと誘ってきた。
その時は訓練で気持ちが凹んでいたため、気晴らしでもしようと軽い気持ちでついていった。
城壁でも特に人が来ない場所に連れてこられると、そこには丁度自分たち程度が通れる穴があった。城内の人に内緒で、二人でその穴を通って城の外に出た。
城の外に出て、二人で城下町を歩き回った。町中には、人々の喧噪で溢れていた。人々の様子を見て、自分が魔王を倒さないとこの人たちの笑顔を守れない。その時改めて、自分が頑張る理由を思い出した。
あれからたまに、少年とは隠れて遊びに行くことがあったが、いつしか少年の姿を見ることはなくなった。その頃になると、自分も訓練に打ち込むようになっていて、あまり遊びに行こうという気持ちもなくなっていた。
「あの少年はどうなったのだろうか……」
どこの誰ともわからない、名も知らぬ少年。彼との出会いが無ければ、今の自分は存在しなかっただろう。
「感傷に浸っている場合じゃないな。見つからないうちに、早く中へ入ろう」
時が経ち、使えなくなってしまった出入り口を横目に、ユウヤは壁を飛び越えた。
敷地内への潜入を果たすと、すぐさま城へと向かった。とりあえず玉座の間に行けば何かわかるだろうと考え、城の中に入ると、誰にも見つからないよう細心の注意を払って移動した。
長年生活していたこともあり、どこにいれば見つからないとか、人通りの少ない通路とかを把握しているため、玉座の間までは誰にも見つかることなく向かうことができた。
そうして玉座の間に着けば、扉の前で二人の騎士が見張りをしていた。扉が閉まっていて、しかも見張りがいるのならば、中で何か話をしているのだろう。いずれにしろ騎士が邪魔になるため、二人を気絶させることにした。
ユウヤは物陰から一気に迫ると、二人を素早く昏倒させた。倒れかかる二人を抱え、音がしないようにゆっくり地面へ横たえる。幸い気を抜いてくれていたこともあって、簡単に事が済んだことは幸運だった。
ユウヤは扉に耳を澄まし、中の会話を聞き取ろうとした。すると、部屋の中ではルイスと思われる声と王の声が聞こえてきた。
「ところで先のパレードの様子はどうだった?」
王が問うた。
「はっ。国民は喜んでいるようでした。……ただ、他の三人がいないことを残念に思っているようでもありました」
それにルイスが答える。
「国民にはちゃんと伝えたはずだが、それを理解していないのだろうか?」
「いえ。皆ちゃんと理解はしているようでした」
「ふむ……。ならば時間が経つにつれて、皆忘れるだろう」
口髭をいじりながら、そんなことを言った。
「それにしても、魔法使いと僧侶。あの二人が故郷に帰ってしまったのは残念だった」
ふと、王がそんなことを言った。
「ええ、仰る通りです。あの二人がいれば、村への襲撃も楽に済んだのですが……」
「それは仕方がない……。魔王討伐の報酬として故郷に帰りたいと言われたら、叶えてやるしかないからな」
「あいつらは心が弱かったのです。何せ村の襲撃に協力するよう言われたら、『人殺しするくらいなら故郷に帰る』って言い出したのですから」
ルイスはあきれた様子をしていた。
「あれは魔王の生まれた村。ならそこにいる者を殺しても、『人』殺しにはならないというのに……」
「人と同じ見た目をしているから嫌だったのではないか?」
「それを言えば、魔王も人と同じような姿をしていましたよ」
そんな風に話をしていると、王は真剣な顔つきをして、話題を切り替えてきた。
「ところで勇者、いや今は魔王か。奴は逃げたと言っていたが、本当に放っておいて大丈夫なのだな?」
「魔王と言っても一人しかいませんからね。何も出来やしませんよ。それにもし現れたとしても、こちらの方が数も多いですし、何なら俺が倒してやりますよ」
わざわざ探し出して殺すなど面倒なことはやりたくなかったので、ルイスはそう適当なことを言った。
「ならば安心というものだ。して――」
二人の会話を扉の外で聞いていたユウヤだったが、ようやく事情が呑み込めた。けれど、まだ一つだけわからないことがあった。それを確かめるためにも、直接問いただす必要がある。そう思って、目の前の扉を開け、部屋へと入った。
ユウヤが部屋に入ると、王とルイスが会話を中断し、突如割り込んできた自分という侵入者に目を向けた。この場にいる騎士団を含めた全員から視線を向けられる中、ユウヤは顔を隠しているフードを取った。
「ユウヤ……。いや、こんなところまで何の用だ、魔王」
逃げ出したはずの男がここにいる理由を、問いただそうとした。
「何の用? そんなこと聞かなくてもわかるだろう?」
「……お前、村に行ったのか」
「ああ。それに、先ほどまでの会話は部屋の外で聞かせてもらったから、お前たちが元凶だということも知っている」
「なら、何が目的なんだ?」
そう問われ、視線をルイスから王へと向ける。
「王よ! 村に騎士団がいたということは、あなたが指示したのだろう。何故あのようなことをしたのか是非お聞かせ願いたい!」
ユウヤが王に向けて問うと、王は尊大な態度でその問いに答えた。
「そんなもの、貴様が魔王だからに決まっているだろう。わかり切ったことを聞くでない」
王はさも当然と言った顔をしていた。
「それならば、私を倒すだけでいいはずです。何故関係のない村を襲撃したのですか?」
「関係ないとはよく言う。あの村は貴様の生まれた場所だろう? 村を残せば、貴様と協力して人類に仇なす可能性があった。それに貴様を討伐した後、もしかしたら次の魔王があの村から生まれるかもしれないではないか」
「そんなあり得ない可能性のために……」
「あり得ないだと? その根拠はどこにもないだろうに。そんなものを信じるくらいなら、初めから可能性を排除した方が早い」
王の説明に納得は出来ないが、一応の理解はすることができた。
「……なるほどわかりました。理由を話していただき、感謝します」
「貴様。平然としているが、このままこの場から逃げれると思ってないだろうな? 魔王が目の前にいて、逃がすわけがないだろう」
そう言うと、周囲で待機していた騎士団がユウヤを逃がさないように取り囲んだ。
「ルイスよ。確かこいつを自身の手で倒したいと言っていたな。――王として命ずる! ルイスよ、この魔王を倒せ!」
「はっ。承知しました」
王に一礼した後、ルイスは剣を抜きユウヤに対峙した。そして、地面を蹴り、ユウヤへと迫っていく。
それをユウヤも剣を抜いて応戦する。部屋中に、剣戟の音が鳴り響いた。




