05
そんな半ば一騎打ちのような戦いだったが、膠着状態に陥っていた。聖剣の力を借りた勇者の猛攻だったが、魔王には上手く凌がれていた。勇者の力は減る一方だが、魔王の方は減っているようには見えない。
このままでは負ける。何とかしなければ。
ユウヤは内心でそんなことを思っていたが、表情にはおくびにも出さずに魔王の相手を続けていた。
「そろそろ限界ではないのか、勇者よ」
勇者に魔法を打ちながら、そんなことを言う。
実際にまだ力は少し残っているが、あまり余裕がないのも事実だ。そのため、何かきっかけが欲しいと思っていた。
そんな願いが通じたのか、突如空中から複数の氷の刃が飛来してきた。恐らく、魔眼の力がようやく解け、ニーナが放ったのだろう。幸い勇者・魔王の両方に当たりはしなかった。けれど、これが膠着状態を破る一手になった。
ユウヤは後方から飛んでくる敵味方を問わない攻撃に、自らも被弾する覚悟を持って魔王に迫った。
一方の魔王は、そんな勇者と上から迫りくる魔法の対処に追われていた。牽制の意味も込めて勇者に撃っていた魔法も、飛来する魔法に手を取られて打ち止めとなっていた。
ニーナの攻撃によってユウヤは傷ついていたが、それによって自身が倒れることはないとわかっていたので、残った力を使ってかまわず魔王に攻撃を仕掛ける。
その状況でもかろうじて凌いでいた魔王だったが、自身に迫る氷刃の一つを見逃した。眼前に迫ったころに気付き、慌てて対処し何とか事なきを得た。
「そこだぁっ!!」
しかし、魔法の対処に気を取られ、肝心の勇者を自由にしてしまっていた。気が付けば背後に回り込まれ、今まさに剣で突かれようとしていた。
「このっ!!」
魔王も全力をもって横に回避しようとした。けれど勇者の方が一歩早く、聖剣が魔王の体を貫いた。
ユウヤにより、魔王の体を聖剣が貫いた。暫くはそのままだったが、やがて魔王は膝から崩れ落ちていった。
ユウヤは倒れ伏す魔王を上から見下ろしていると、魔王の体から何か黒い靄のようなものが抜け出してきた。その靄は近くにいたユウヤに取りついたかと思うと、体の中に溶け込むように消えていった。
「何だこれは!?」
突如起きた現象に驚いていると、力ない様子の魔王が口を開いた。
「くっくっくっ……。勇者よ、それは魔王の力だ」
「魔王の力だと!?」
「その力は失われることはなく、力を持つ者が倒れると倒した者に移譲される。こうして魔王の力は継承されていくのだよ」
それを聞いて、ユウヤは呆然としていた。
「フフフ。最後にその顔が見れて満足だ。これから頑張るんだな、新たな魔王よ……」
最後にそれを言い残し、魔王は塵となって消えていった。
呆然としていたユウヤだったが、このままここにいても仕方ないと思い直し、仲間たちの元へと戻ろうとした。けれどそこにいたのは、自身に剣を向けるルイスと、どうしたらいいのか戸惑っている様子のニーナとケイトだった。
「な、何でこっちに剣を向けてるんだ……?」
心の奥底では理解しつつも、頭では理解をしたくなくて、恐る恐る聞いていた。
「このままお前を討伐する!」
そう言うと、ルイスはユウヤに向かって剣で攻撃をしてきた。
その様子に、ユウヤは慌てて攻撃を剣で受け止める。
「ルイス! 何で仲間に剣を向けるんだ!」
「仲間とは笑わせるな魔王!」
そして、ルイスは後ろの二人に告げる。
「ニーナ、ケイト。あれは既に勇者なんかじゃない! 魔王だ! 見てみろ! 奴の聖剣も既に力を失っている! 俺たち三人で倒すぞ!」
そう言われても二人はまだ迷っていた。けれど、平和のためだとルイスに言われ、しぶしぶ協力することとなった。
三人の連携によりユウヤは苦戦していた。魔王戦後であまり力が残っていなかったということもあるが、何より仲間に攻撃をしたくなかったからだ。このまま続ければ、こちらだけが一方的に攻撃されるので、いずれやられてしまうだろう。
仕方なく、ユウヤは三人を説得することを諦めて、ここから逃げ出すことにした。三人の連携の隙をつき、ユウヤは近くの窓へと一目散に向かう。そのまま窓を割って魔王城から脱出すると、残った体力を使い、近くの森へと敗走していった。
追撃を心配して夜まで森に身を潜めていたユウヤだったが、暫くしても追ってこない様子を見て、ひとまず安心することとなった。
「あの様子では、王国に戻ったとしても、多分同じようなことになりそうだな。そうなると、もうあの国には戻れないか……。それに、王国から追手が向けれらるかもしれないし、なるべく離れた方がいいかもな」
そんなことを考え、独り言ちた。
「王国を離れるとなったら、二度と村にも戻れないか……。よし。最後に一度村の様子を見てから離れよう」
ユウヤは家族に最後の別れを告げるため、故郷の村へと向かうことを決意した。
翌日から、ユウヤは故郷の村へ急ぎ足で駆けていった。恐らく仲間たちは馬車で戻っているため、このままでは向こうが先に王国へと着くだろう。
そして、王国に自分のことも伝えられてしまう。そうなれば、周囲の警戒が強まり、村へ戻ることは二度と敵わないだろう。出来ればそうなる前に村へと到着したい、ユウヤはそう考えていた。
急ぎ足といっても、勇者の足だ。常人よりも遥かに早い速度で進んでいた。けれど、人の身である以上体力というものがある。
休憩を挟みつつ、なるべく急いで走っているが、やはり馬車の速度には敵わない。そのことは理解しつつも、皆に会いたいという一心で、諦めずに走り続けた。
その頑張りの甲斐あってか、十数日ほどでユウヤはようやく故郷の村へと戻ってくることができた。しかしながら、そこに待っていたのは、自分が待ち望んでいた光景ではなかった。




