06
そこには村と呼ぶには程遠い景色が広がっていた。焼け落ちた建物、辺りから立ち込める焼け焦げた匂い。村の周りを囲う柵は燃え尽きてしまっていて、どこからが村だったのかもわからない。
村は焼き払われていた。
ユウヤには意味がわからなかった。何故こんなことになっているのか。村の皆はどうなったのか。
「そうだ……。家族を探さないと……」
目の前の現実を受け入れたくなくて、暫く現実逃避をしていたが、家族のことに思い至るとようやく動き始めた。
村の中を歩き回っていたが、どこかしこも悲惨な状態だった。昔よく遊んでいた広場。仲が良かった友人の家。牛飼いのおじさんの所。どこも焼け焦げていて、全く原型を留めていない状態だった。
そんな変わり果てた村の様子を見ながら歩いていると、ようやく自分の家を見つけた。他と同じように無事ではなく、柱が何本か燃え残っているだけだった。
ユウヤはその家だった物の中に入り、何かを探すように歩き回った。
「そんな……」
ユウヤの視線の先には、焼けてしまい元が何だったのかわからなくなっている、人型のものがあった。
「母さん……。セリン……。あ、ああああああああぁ」
家族の名前を呼ぶと、もう止まらなかった。目からは涙が溢れ、周囲を気にせず喚き散らすように泣き叫んだ。
どうして自分の家族が。騎士団が守ってくれていたんじゃないのか。胸の内には色んな想いが渦巻いていた。けれど、今はこの悲しみを、ただ吐き出すことしか出来なかった。
暫く泣き叫んだことで、ユウヤはようやく落ち着くことができた。
「それにしても、何でこんなことになっているんだ?」
冷静になって考えてみれば、この村は騎士団によって守られていたはずだ。もし魔物や魔族に襲われたならば、村に騎士団の死体も転がっていないとおかしい。にもかかわらず、ここに来るまでに見た村の中には、騎士団と思われるような鎧を付けた死体は全く見かけなかった。
「何かが起こって、村から騎士団が離れる事態になったとしか考えられないな」
様々な予想を立て、これからどうするかを思案していた。
「お前、ユウヤか?」
すると、急に自身の名を呼ぶ声が聞こえた。振り返れば、そこには初老の男性が一人立っていた。
「牛飼いのおじさん?」
「ああ、そうだよ。その呼び方をするってことは、やっぱりユウヤか。……それにしても、大きくなったなぁ」
牛飼いのおじさんと呼ばれた男性は、昔を懐かしむようにしみじみとした様子で答えた。
「そうだ、おじさん。この村に一体、何があったの?」
おじさんなら何か知っていると思い、ユウヤは尋ねた。すると、おじさんは暗い表情をしてその疑問に答えてくれた。
「この村は襲われたんだ……」
「村が襲われた? 盗賊程度なら騎士団で対処できるはず……。一体何に?」
「――その騎士団に、だ……」
その答えを聞き、ユウヤは目を見開いた。
「騎士団が……。一体何で?」
村を守っていたはずの騎士団がどうしてそんなことを、と驚きを隠せないでいると、おじさんが当時の様子を話してくれた。
「俺はその時、王国で買い物をするため、村から離れていたんだ。そして、用事を済ませて戻ってくれば、遠くで村が燃えているのが見えた。何とかしないとと思い、急いで村の近くまで来てみれば、周囲に複数の人影を見つけた。燃えている村を見て楽しそうにしていたから、すぐに村を燃やした犯人だとわかったよ」
彼は拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。
「村を燃やして楽しそうにしている奴らだ。このまま向かえば、俺も殺されると思った。だから仕方なく、近くの茂みに身を隠して、暫く様子を窺っていたんだ。そして、よくよく見ればそいつらの姿には見覚えがあった」
「もしかして、それが……」
ユウヤの言葉に頷く。
「ああ。王国の騎士団だ。恐らく奴らが村に火を放ったんだ。そして奴らは、燃え盛る村の外から、住民が逃げてこないか監視していた。村の住民の中には逃げ遅れた人もいて、何人か村の外へ避難しようと走ってるのが見えた」
彼は話を続ける。
「それを奴らは次々と斬り殺していった……。まるで何の罪悪感も感じてないように、笑いながら楽しそうに人を斬っていた。同じ人を平気で殺していく姿を見て、俺はただその場で身を竦めていることしか出来なかったんだ……」
彼は無力な自分を責めていた。
「目の前で皆が殺されているのに、俺には何もできなかった……。助けに行けば、自分も殺される。そう思うと、体が震えてしまって……。俺は皆を見殺しにしたんだ……」
そう言った彼は後悔に苛まれていた。だけど、実際助けに向かっていれば、彼の言っていた通り殺されていただろう。見殺しにしてでも生き延びて、誰かに伝えることが出来たのは、ある意味英断だったと思われる。
「おじさん。辛い中、話してくれてありがとう。おかげで何が原因だったのか理解できた」
ユウヤは口でおじさんを労いながら、心の中では騎士団を決して許さないと決めた。何が理由であろうとも、大切な皆を殺したことには必ず相応の報いを受けさせると。
「だけど、それでわかったのは騎士団が犯人ってことだけで、理由なんかはわからないままだよね……。他には何か言ってなかった?」
そう言うと、おじさんは少し思い出す素振りをした後、こちらに向けて口を開いた。
「そういえば、確か騎士団の格好とは違う奴が一人いたな……。そいつが村への攻撃を指示しているようだった。しかも、騎士団と一緒になってそいつも逃げてくる村人を斬っていた……」
「そいつの特徴は?」
「確か、赤っぽい服をした男だったな。……それに、ユウヤの名前を口にしていた気がする。さらに魔王とも……」
ユウヤにとって、その相手には心当たりがありすぎた。もし自分が思っている通りなら、到底許すことが出来ない。どちらにしろ、騎士団がやったことは確実なため、後で王国に問い詰める必要がある。
「ありがとう、おじさん。そいつには少し心当たりがあるから、後で王国に行って話を聞いてみるよ」
「それはいいが……。ユウヤ、お前魔王討伐はどうしたんだ?」
ユウヤは少し誤魔化しつつも答える。
「魔王は倒したんだけど、その後色々あってね。王国から少し離れようと思ってたんだ。だから最後に一度、村の皆に会おうと思って帰ってきたんだけど……」
「こんな状態になっていてすまない……」
「いいよ、おじさんのせいじゃないし」
そう答えた後、辺りを見回した。
「村の皆をこの状態にしておくのも忍びないし、これから弔おうと思うんだけど、おじさんも手伝ってくれない?」
「もちろんだ。むしろ、俺にもやらせてくれ!」
こうして二人で協力して、村の皆を弔うことになった。




