03
魔王軍の親玉との戦闘が始まった。奴はこちらを仕留めんと片手に持った大剣を縦に横にと振り回してくる。
体が巨大なため動きが鈍重なのかと思いきや、剣を振るその速度は、自分たちとそう変わらないものだった。
けれど、明らかに異なっているのはその剣の大きさ。その巨大な体から繰り出される攻撃を、この身に受ければひとたまりもないだろう。
ユウヤたちは大剣による攻撃を掻い潜りながら、奴の懐へと潜り込む。
こちらからも剣を振って攻撃を仕掛けるが、強靭な肉体というのは伊達ではなく、体に少し傷をつけるばかりで決定打を与えるには程遠いものだった。
奴もやすやすと攻撃を許してくれるはずもなく、足や手も使って攻撃をしてくるので、こちらとしても一旦距離を離すしかなかった。
そうして攻撃を避けては懐に入り込むことを繰り返していたが、次第に二人の動きは悪くなっていた。
大軍に囲まれた中で立ち回っていて、回復も期待できないため無理もないことだろう。魔族と比べて人は体力も少ない。勇者であるユウヤはまだマシであったが、ただの人であるルイスは目に見えて悪化していた。
今まで簡単に避けていた攻撃だが、今はまだ食らっていないといえど、ギリギリで躱すことが増えていた。中には危うくといった場面もあったため、いつやられてもおかしくはなかった。
一方で、懐に入って何度も攻撃を加えているとはいえ、傷は増えているものの奴はまだ元気だった。この調子だと、先に体力負けするのはこちらだろう。
ニーナは大軍の相手をしているし、ケイトはそんな彼女のサポートで精一杯のため、二人からの援護は期待できそうもない。
このままでは不味いと感じたユウヤは、ここで一気に決めきることを決意した。
「聖剣よ! その力を解放せよ!」
祝詞を紡ぎ、聖剣を解放する。すると、手に持った聖剣から天まで届かんとする白い光が発生した。光が収まった後には、輝く聖剣と、白い光に包まれたユウヤの姿がそこにはあった。
聖剣の力。聖剣を解放することで、その莫大な力を得ることが出来るが、代わりに必要となる魔力も莫大だった。ゆえに、魔力を使い切ってしまえばその力も失われ、ここぞという時でしか使えない。まさに、勇者の切り札であった。
「いくぞ!」
聖剣の力を身に纏い、ユウヤは奴に向かっていく。先ほどとは異なり、動きは見るからに早くなっていた。一度懐に入れば、攻撃と移動を素早く繰り返すことで追い詰めていく。
それに抵抗するべく奴も攻撃を仕掛けてくるが、その頃には既に別の場所へと移動しているため、攻撃をわざわざ避けるまでもなかった。
聖剣の力は絶大で、奴はどんどんと疲弊していった。ユウヤとしても、使える時間は限られているため、遊んでいる時間はない。怒涛の剣戟を繰り出し続けていると、次第に奴は息も絶え絶えな状態になっていた。
奴は最後の力を振り絞り、こちらを叩き潰さんと拳を繰り出してきた。けれど、勇者の力を解放したユウヤには通じるはずもなく、その隙を見逃さず奴に剣でとどめの一撃を繰り出した。
攻撃を受けて何もない様子だったが、次第にその巨体はゆっくりと倒れだした。奴が倒れてから暫く様子を見ていたが、全く起き上がる様子はない。それを見て、ユウヤはようやく討伐できたことを悟ったのだった。
それから残った魔王軍は、頭を失ったことにより散り散りに逃げていった。一方で、ユウヤは聖剣の力を使い果たし、その場に倒れこんでしまった。
敵軍の真っただ中での出来事だったのでその身が危ぶまれたが、ルイスやニーナの助力により、何とか戦場から抜け出すことができた。
その身をケイトに癒してもらい、国に報告へと向かう。王や国民には「さすが勇者様だ」と称えられ、感謝の催しを開こうとしていた。
けれど、まだ他の国も魔王軍の脅威にさらされているので、一刻も早く助けに向かう必要があると説明した。こうして勇者パーティは魔王軍との初陣を終え、この国を後にして次の国へと向かうこととなった。
あれからユウヤたちは旅を続けていた。魔王軍に脅かされている各地を回り、その脅威の元を倒せば、『勇者様ありがとう』と幾度となく感謝されてきた。
そして、次第に勇者の名前が広まってきたのか、行く先々では勇者が来るのを懇願する国もあった。中には、国と呼べないほどの小さな集落だったこともあった。
そんな戦いを続けてきたが、全てが簡単だったわけではない。今回のように大軍を相手にして、二人の援護を期待できない場合もあった。
相手が少数だった時もあり、その場合は四人で連携して倒した。中でも、魔王直属の部下である四天王と呼ばれる存在は強大で、戦いは毎回激戦だった。
奴らは軍を引き連れず単騎だったため、パーティ全員で戦うことができた。にもかかわらず仲間は次々と倒れていき、最終的にユウヤだけが残ることになった。
ユウヤは数々の戦いを経験してきたおかげか、聖剣の力を使いこなせるようになっていた。そのため聖剣を解放できる時間も増え、四天王と一対一の状況でも何とか立ち回り、かろうじて倒すことが出来ていた。
そうして旅を続けていた勇者パーティは、ついに魔王城を目前としていた。
とある夜。勇者たちは、魔王城の近くにある森で野営をしていた。
「ようやくここまで来たね」
四人で焚火を囲みながら、そう言うのはユウヤ。
「……そうだな」
ルイスがどこか暗い面持ちで答えた。
「どうかした? 何か元気がなさそうだけど……」
「何でもねえよ。気にするな……」
「はぁ、あんたねぇ。何かあるなら言いなさいよ」
「け、喧嘩はよくないですよ。いよいよ明日なんですから」
そう、明日。いよいよ最終目的の魔王を討伐する。日が昇るのを待ってから魔王城に突入し、速やかに魔王を見つける。そこからは、四人で全力を尽くして魔王を倒す。
もちろん、魔王軍のトップなわけで一筋縄ではいかないと思うが、この四人の力を合わせればきっと可能だと信じている。
「絶対に倒すぞ」
そんなことを内心に秘めつつ、ユウヤは言葉少なに決意を表す。
「ああ、当然だ」
「もちろんよ」
「が、がんばります」
この仲間がいれば、どんな敵だって倒せるはずだ。勇者はそう思っていた。
けれどそんな中、俯く剣士の瞳には僅かに光が翳っていた。




