01
とあるところに小さな村があった。所々に民家があり、その間を埋めるように畑が広がっている。
「やあっ! はあっ!」
「っ!」
そんな村のとある広場では、子供たちが木剣を使い剣士の真似事をしていた。
「そこだっ!」
掛け声とともに繰り出された少年の一撃に、コンッという音を立て、相手の少年が持っていた木剣は手から弾き飛ばされてしまった。
「くそっ。また負けたか―」
「どんなもんだ!」
「さすがユウヤだな。将来剣士を目指しているだけある」
「まあね」
少年たちは気心が知れた間柄のようで、勝負が終わった後も仲がよさそうに会話をしていた。
「ところでユウヤ、お前確か、母親に用事を頼まれているとか言ってなかったか?」
「あっ、やべー、そうだった! 帰りに牛飼いのおじさんから、牛乳買ってきてって頼まれてたんだった。悪い、今日はこれで帰るわ」
そう言ってユウヤと呼ばれた少年は、友人との遊びを終え広場を去っていった。
「ただいまー」
少年は母親からの用事を済まし、家へと帰ってきた。
「あ、お兄ちゃんだ。おかーさーん、お兄ちゃん帰ってきたよー」
帰ってくるなり玄関で迎えてくれたのは、二歳年下の妹のセリンだ。
「ユウヤ、お願いしてたの買ってきてくれた?」
奥から扉越しに話しかけてくるのは、少年の母親だった。
「うん、買ってきたよ。しかも、今日は少しおまけしてもらっちゃった」
少年は母親のいる部屋に行き、手に持った袋の中身を見せる。
「あら、そうなのね。じゃあ、今度お礼を言っとかないとね」
少年から牛乳の入った袋を受け取り、保存場所へと仕舞った。
「もう夕飯だから、早く手を洗ってきなさい」
「はーい」
母親に言われ、少年は手を洗いに行った。先ほどの部屋に戻る前に、とある部屋に立ち寄る。そこには鞘に入れられたままの大剣が、壁に立てかけられていた。
「父さん。今日も見守ってくれてありがとう」
父への挨拶を終え、少年は先ほどの部屋に戻る。そこには、料理が既に食卓へ並べ終えられていた。
「ユウヤ、早く席に着きなさい」
すでに母親と妹が席についていたので、少年も一緒に席につく。
「では、神に感謝を」
食前に皆で神への祈りを行い、夕食を頂く。こんなどこにでもあるような、当たり前の日常を過ごしていた。
そんな日常が変わり始めたのは、少年が十歳になった頃だった。村に魔物の群れが現れ、村は大混乱に陥った。
皆が逃げ惑う中、村人が止めるのも聞かずに、少年は持ち前の剣術で魔物を倒していった。手に持った武器は木刀であるにもかかわらず、まるで真剣であるかのように魔物を切り裂いていた。
そんな少年の奮闘の甲斐あってか、村への被害は軽微で済むこととなった。
それから数日経った後、王国からの使者だと告げる者が村に訪れた。
使者は神様からの信託により、勇者が現れたとお告げを受けてここに来たそうだ。そして、少年が勇者であることを告げられた。
今の時代、魔王軍は勢力を拡大していて、人類は窮地に追いやられている。人類側としては、それを何とか打破したいと考えていた。
そんな中に現れた、魔王を倒すことのできる存在。いくら勇者といえど、成長する前であればそこらの少年と何ら変わらない。
そのため王国としては、放っておいてみすみす勇者がやられるのを見過ごすことはできない。ゆえに、国として保護し、勇者が魔王を倒せるように鍛えると申し出てきた。
いきなり降って湧いてきたような話に少年は戸惑っていた。今まで自分はこの村で普通に生活し、将来はお嫁さんを貰って、村で一生を過ごすんだと思っていた。
なのに、人類を助けるために魔王と戦う勇者。そんなおとぎ話のような存在であると言われても、未だに理解できなかった。
少年はどうするか迷っていた。けれど母親に「お前の好きなように生きなさい」と言われ、友人には「勇者って剣士よりすごいんだろ? これでお前の夢が叶うじゃねえか」とも言われた。
確かに元々剣士になりたかったのは、平和を脅かす魔物や魔族を討伐したかったからだ。そうすれば、自分のように父を失って悲しむ人がいなくなると思っていた。
それが今回、勇者という剣士よりも強力な力があることがわかった。魔物や魔族だけでなく魔王すらも討伐できる力があるならば、その力を使って人々に平和をもたらしたい。
少年は胸の内にある想いにはっきりと気付いた。そして決意する。必ず魔王を倒すと。そのためには自身を鍛える必要がある。そう考え、王国からの提案に少年は同意し、使者に同行することを伝えた。
それから数日後、王国へ向かうため、少年は村を旅立つこととなった。少年が村から離れる代わりに、村には騎士団が常駐して脅威から守ってくれる話になった。
そのため安心して、母親や妹、友人たちや村の皆に別れを告げ、少年は長年過ごしてきた自身の故郷を後にする。そして馬車に乗って揺られること数日間。ついに少年は王国へと到着した。
セントライト王国。自分の村を含めた周辺地域の中でも、有数の人が集まる場所。その国の規模からあらゆる国の人々が訪れ、様々な物が集まってくるため、周辺の村々にとっては欠かせない場所だった。
少年を乗せた馬車は王国に到着すると、そのまま城へと向かっていった。城に着くと中庭で降ろされ、その後向かった先は玉座の間だった。
そこには豪華そうな服を着て、口髭を生やした高齢の男性がいた。その様子はおとぎ話にも出てくるような、いかにも王様といった姿をしていた。
「よくぞ参った、勇者の少年よ。そなたにはこの城で魔王を倒すための訓練を受けてもらう」
王様によると、この城で少年は十八歳になるまで戦いの訓練を受けることになるそうだ。その後、王国内で勇者が現れたと大々的に宣伝。最終的に、魔王討伐のために集まった仲間と共に、魔王討伐の旅へと向かう。
少年は必ず強くなってやると決意を胸に秘め、王国での日々に期待を膨らませるのだった。
それからの訓練は厳しいものだった。城では騎士団長にしごかれ、時には野外へ魔物を倒す実践訓練に行くこともあった。毎日が辛く、厳しい日々で心が折れそうな時もあった。けれど、自身の力が人々のためになると思い、少年は頑張り続けた。
――そんな訓練の日々を過ごし、やがて八年の月日が流れた。
当時少年だった勇者は、昔の幼い面影は全く見えず、どこから見ても立派な青年という風貌になっていた。




