08
本日2話目
その後牢屋から縄で拘束した状態で商人を出し、アーリア、族長と共に村の外にいる王国の大軍の前に商人を連れていく。ざっと見た限りだと、兵はおおよそ五千人といったところ。確かにこの人数差では無謀だと言われるのもわかる。
「要望通り商人を連れてきた。こいつで間違いはないか?」
少し距離が離れた所で待機している大軍に向かって、拡声の魔道具を使い族長は叫ぶ。
すると、兵たちの中から隊長と思われる人物が出てきて、こちらにいる商人をしっかりと観察していた。
「その商人の持ち物はどうした? 商人なのだから馬車など持っているであろう?」
その隊長は同じように拡声の魔道具を使い、こちらへ声を届けてきた。
「馬車は村に置いてある。何か必要なのか?」
「馬車の中には何が入っていた?」
その問いに族長は暫く考えていたが、心を決めてはっきりと言った。
「馬車の中には食料しかなかったが、それがどうした?」
「他には何もなかったか?」
「ああ、何もない」
「本当だな?」
再度の念押しにも、族長はかまわず何もないと答えた。
その答えを聞き、隊長は目論見が成功して愉快だとでも言いたげで、悪い笑みを浮かべてこちらに宣言した。
「その商人は我が国の者ではない。この村へ来たのは明白であるのに、わざわざ偽物の商人を用意するその卑劣さ。恐らく我が国の商人は既に殺されたのであろう。何とも許されることではない。その報復として、お前たちを蹂躙する」
まるで、予め決められていたような言葉だった。
逆に困惑したのはドミニクだ。彼は助けてもらえると思ってたのであろう。隊長のあり得ない判断を聞き、明らかに動揺していた。
「私はここです。偽物ではありません!」
そう大声で叫ぶも、拡声の魔道具を通さないため向こうへは聞こえていない。
「王国からは切られたようだな」
「そんなはずは……」
「霊石を持ってないあんたは不要だと思われたんだろう。向こうからしたらわざわざ助けなくても、全員殺してその後奪えばいいだけだしね」
「不死鳥様と主様、すみませんでした。結果的に戦うことになってしまいました……」
族長が申し訳なさそうに言い出す。
「仕方ないでしょう。向こうとしては、不死鳥の力を手に入れたいわけですから。それを入手出来ないとわかった時点で、こうなるのは当然だったのでしょう」
「気にしないでいいにゃ」
自分を責めないように、二人で慰めておく。
「僕としては当初の予定通りになっただけですよ。――さて、早速殲滅するとしますか」
「待ってほしいにゃ、主様」
やっと出番かと思っていたところに、アーリアから待ったが入る。
「アーリアが止めるとは珍しいね……。一体どうしたんだ?」
隣にいたアーリアに顔を向けると、彼女は正面を向いたまま前に進み出た。
「ここはアタシの故郷にゃ。村の皆にもよくしてもらったし、アタシが守るのが筋にゃ。主様は後ろで見ていてほしいにゃ」
アーリアは、珍しくやる気に満ち溢れていた。
「そう言われたら大人しくしておくしかないね。折角のやる気に水を差すわけにもいかないし……。わかった、ここで見ておくから頑張っておいで」
アーリアに励ましの言葉を送ると、彼女は一度こちらへ向いてニコッと微笑み、再び正面へ向き直した。彼女は赤い光を纏い、光が消えた後には、この村で守護神と呼ばれる不死鳥の姿があった。不死鳥アーリアは大空へ向かって飛び立つと、上空から敵の大軍に向かって一度だけ慈悲を与える。
「王国の者たちよ、私は不死鳥アーリア。この地は私が守護する土地です。大人しく国へ引き返しなさい。さもなければ、こちらもあなた方をこの地を脅かす敵として排除いたします」
「なんだあれは!」
「不死鳥と言っていたぞ! 俺たちはとんでもないものを相手にしてるんじゃないか!?」
急に現れた巨大な鳥に、王国の兵たちは浮足立っていた。
「お前ら静かにしろ!」
隊長が激を飛ばし、騒がしかった兵たちは静かになった。
「不死鳥なんて伝説の生き物だ! あれは所詮、不死鳥を語ってるだけの大きな鳥だ! 砲撃隊、用意せよ!」
突然の命令に、砲撃隊は急いで大砲の発射準備をした。そして、「発射!」という隊長の声と共に、空へと砲弾が放たれる。そして、その砲弾は上空にいる巨大な鳥へと向かっていき、羽を貫通していった。
「見ろ! 攻撃は効いている! 敵は不死鳥ではないのだ!」
どうだと言わんばかりで、兵たちへと示す。その様子を見て混乱から回復した兵たちに向けて、隊長は告げる。
「進軍せよ! 砲撃隊、弓兵隊はあの巨大鳥に攻撃せよ!」
その命令により、歩兵・騎兵は進軍を開始し、砲撃隊、弓兵隊は上空へと攻撃を開始した。
「愚かですね……」
攻撃された羽を癒しながら、折角の慈悲を無駄にし、攻撃をしてくる王国の兵たちを見てアーリアは呟いた。
「情けをかけるのは一度だけです。自分たちの行動を悔いて消えなさい」
アーリアが力を込めると、目の前に飛来していた攻撃は全て燃え尽き塵となっていく。
「そんなばかな……」
「あり得ない……」
目の前の光景が信じられないと動揺している後方の兵たちを無視し、今なお地上を進む兵たちへと視線を向ける。村を蹂躙せんと意気込んで進む兵たちに、アーリアは一度口に力を溜めた後、勢いよく炎を吐き出した。
進軍する兵たちを焼き尽くさんと迫る真っ赤な業火になすすべもなく、彼らはただ見ているだけだった。
地上に炎が燃え広がると、そこは地獄絵図と化した。全身が炎に焼かれすぐに炭化した者。体の一部が燃えながらも悲鳴をあげたり、助けを呼ぶ者。
中には逃げようとする者もいたが、辺りには炎が広がっており、逃げ道など何処にもないと彼らが気付くのにそう時間はかからなかった。
進軍していた兵全てに炎が行き渡るのを確認し、今度は自身へ攻撃していた後方の兵へと向く。彼らは、先ほどの地獄絵図を見て戦意喪失し、我先にと逃げ始めていた。当然それを見逃すはずもなく、再び炎を吐き出した。
そんな光景を後方の兵と共にいた隊長は、呆然として見ていた。少し前まではどう殺すか、はたまた自身の昇格に思いを馳せていて、負けることなど微塵も考えてもいなかった。
それがどうだ。今や、先に進軍した兵がいる辺りには、炎が広がり地獄絵図となっていた。さらに今度は、目の前でも同じことが繰り広げられている。
五千人の兵があっという間に消えていく光景は、まるで現実とは思えなかった。
「は、はは……。そうだ……、きっと夢だ……」
理解できない光景を前に、隊長は現実逃避をしていた。
そんな敵の様子から、戦意喪失したことを確認すると、アーリアは彼らに向かって言葉を告げた。
「あなたたちは燃やさないであげましょう。その代わり、国に戻って王に伝えなさい。この地に手を出すのは二度としないことです。さもなければ、その時は王国を滅ぼしに参ります」
王国に警告をするため、あえて燃やさなかった隊長を含めた数人に向けて伝言を伝える。
生を諦めていた彼らだったが、生き残れると聞いて目に力が戻ってきた。
「早く行きなさい。そんなに燃やしてほしいのですか?」
そんな言葉を聞き、彼らは慌てて国へと逃げ始めた。
その様子を大空で暫くアーリアは見ていた。彼らがこの地から離れたのを確認すると、ようやく終わったと認識し、地上へ降りてきて少女の姿へ変わった。彼女はやり切って満足した様子で、ゆっくりとこちらへ歩んできた。
「お疲れ様」
彼女をねぎらうように、頭に手をのせて優しく撫でてあげる。彼女にとってはそれがご褒美だったのか、撫でられて嬉しそうに笑みを見せていた。
「当然にゃ! これでも一応伝説と呼ばれるだけの力はあるにゃ!」
「その割に出会ったときは捕らえられていたけど?」
「……それは言わないでほしいにゃ」
とアーリアが自信満々に言うので茶化すと、彼女はばつが悪そうに答えた。




