06
本日2話目
彼の家でゆったりとひと時を過ごすうちに夜になり、村人から宴の準備が整ったとの知らせを受け、族長と共に再び広場へ向かう。
「今夜は神への感謝の宴だ! 皆、楽しもうぞ!」
そんな簡単な口上と共に宴が始まった。酒を飲みながら歌い踊り楽しむ者もいれば、自分たちの信ずる不死鳥様の元へ集まり、話を聞こうとする者もいる。
そんな初めての出来事にアーリアはあたふたしながらも、取り繕ったように笑いながら対応していた。
「さすがアーリアだね。村人の大半が向こうに集まるとは……」
「それは仕方がないと思われます。今まで崇めてきた守護神たる者が、自分たちの目の前に現れたとなれば……。自分たちの今までの行いが正しかったと証明されたわけですから……」
族長は自分の盃にお酒を注ぎながら、しみじみと答えた。
「それにしても、不死鳥様の主様がいらっしゃるというのに、こちらには誰一人挨拶に来ないとは……」
「それこそ仕方がないですよ。こんな何処の誰かもわからない奴がいきなり現れて、自分たちの信ずる神よりも偉いとか言われても……ね」
グラスが空になったのに気付いたのか、お酒を注いでくれる。
「それにしても、この村に来てよかった」
「そう言ってもらえてとても恐縮ですが、何故その様に思われたのですか?」
これといったものがないこの村で、一体何がそう思わせたのか、純粋に興味があるようだ。
「アーリアがあんなにはしゃぐのを久しぶりに見ました。ここ最近は慌ただしくしてばかりでしたからね。こうして楽しそうな顔を見れて一安心ですよ」
二人で酒を酌み交わしながらアーリアの方を見ていると、何か聞かれたのか慌てた様子をしていた。ハヤトはアーリアと目が合うと、視線で助けを求められたが、それに気付かない振りをしつつ笑いながら手を振った。
「折角ですからこれまでのお話を聞かせていただけませんか? お二人がどのような旅を歩んできたのか」
ふいにそんなことを聞かれる。
「ええ、いいですよ。そのようなことでよければ」
族長のお願いに快く頷くと、ハヤトは今までの旅について語り始めた。
「主様はひどいにゃ! 困ってるのに気付いて無視するとは、本当に鬼畜にゃ!」
宴も終わり、今夜泊めてもらうために、族長の家へと二人は向かっていた。
「ごめんごめん。せっかく一人で頑張ってたのに、途中で僕が入ってもお邪魔かと思ってね」
「絶対嘘にゃ! あれは明らかに楽しんでたにゃ!」
可愛らしい様子で怒るアーリアを宥めながら、軽い気持ちで聞いてみた。
「アーリア、今日は楽しかったかい?」
さっきの怒った様子は何処へ行ったのか、こちらへ自慢するかのように顔を綻ばせながら答えた。
「すごく楽しかったにゃ! こんな体験初めてだったにゃ!」
アーリアが楽しそうに言うものだから、彼女のためを想ってつい言ってしまった。
「それはよかった。その、もしアーリアが望むなら、この村でずっと生活してもいいけど……どうする?」
すると、急にアーリアの足が止まる。振り返って彼女の顔を見ると、先ほどのふざけたような怒りとは違い、顔は真剣だが体中に怒気を滲ませていた。
「主様、さすがの私でもそれは怒りますよ。私は主様といるから楽しいのであって、一人で残ろうなどと思いません」
「……悪かった、ごめん。アーリアのことを想ってのつもりだったけど、さすがに無神経すぎたね……。反省する……」
「……私のためを想ってのこととはわかりました。けれど、私にとって主様のいない生活は考えられませんので……。残れと言われても絶対について行きます」
ハヤトは軽い気持ちで聞いたことを反省しつつ、彼女がこんなに慕ってくれていることを改めて認識した。自分を助けてくれた上に、長い時を共有できる存在。
それは、彼女にとって何よりも代えがたいものなのだろう。そうして彼女から必要とされていることに感謝しつつ、彼女のためにもっと何かしてあげようと思い直した。
「明日はこの村を観光しようか」
「いいにゃ! 楽しみだにゃ!」
いつものようにそんな約束を取りつけ、夜は過ぎていった。
翌朝、二人は目が覚めると族長とともに朝食を取った。そして食後に休憩していると、族長に本日はどのような予定なのかを聞かれた。
「今日は一日中、村を見て回ろうと思います」
「村を観光するにゃ! 楽しみにゃ!」
「でしたら、村の者に案内させます。すみませんが、少しお待ちください」
そう言うや否や、家から出ていってしまった。仕方がないため、二人はそのまま座って待っていた。暫くして、入口に人の気配がしたかと思えば、そこには族長と案内の者と思われる妙齢の女性が立っていた。
「お待たせいたしましたお二人様。こちらが案内役となります」
「よろしくお願いいたします、不死鳥様とその主様」
彼女は丁寧にお辞儀をしてきた。
「こちらこそよろしくお願いしますね」
「よろしくにゃ!」
案内の女性の後に続いて、村を歩いていく。
「昨日も少し見ましたが、やはり田んぼや畑が多いですね」
「はい。ここは気候も暖かく山から川も流れていますので、作物を育てるにはとてもいい環境なのです」
辺りを見渡せば、田んぼで作業している人や畑を耕している人を見かけた。彼らはこちらに気が付くと作業を中断し、両手で拝むような仕草をしていた。多分、不死鳥様のご加護を授かろうとしているのだろう。
そうして村を一通り見て回り、現在休憩所にて一休みしていた。
「田んぼと畑ばかりだにゃ。他には何かないのかにゃ?」
あれからこの広い村を一周したが、見事に田んぼや畑とばかりだった。途中で馬の様子を見たり、立ち寄った川で釣りをしたりして楽しんだものの、同じような背景ばかりでアーリアも飽きてきたのだろう。
「それでは山に行くのはどうでしょう? 不死鳥様を祭る祠もありますよ」
そんなアーリアのわがままに応えるべく、案内役の女性は山へ行くことを提案してきた。
「それはいいですね。僕もアーリアを祭る祠とやらを見てみたいので是非お願いします」
「承知しました。では、昼からは山に行くこととしましょう。ひとまずお昼を用意いたしますので、少々お待ちください」
そう言って、案内役の女性はこの場を離れた。
「祠とか見ても面白くないと思うにゃー」
「そんなことないよ。アーリアがどのように信仰されていたか知ることが出来るし、かつてのアーリアを知るいい機会だからね」
「まぁ、好きにするにゃ」
なんて素っ気ない態度を取っていたが、体中をそわそわさせていた。自分のことを知ろうとしてくれて、喜んでいる様子が丸わかりだった。
「お待たせしました」
そんな声と共に持ってこられたのは、丸や三角といった形にまとめられたご飯を海苔で覆ったものだった。
「これはおにぎりですか?」
「はい。この村で採れたお米を使ってるんですよ。どうぞ召し上がってください」
勧められるままおにぎりを手に取り、一口食べる。
「おいしいにゃ」
「おいしいですね。この具は魚でしょうか?」
「そうです。先ほどの川で捕れた魚を使用しております。それ以外では、畑で採れた野菜や山の幸なども使っております」
他のおにぎりも食べてみたがどれも同じようにおいしかった。確かに田畑ばかりで観光するところも少ないが、食べ物がおいしいという点ではいいところだなとハヤトは感じた。




