表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】推し活悪役令嬢は悲劇の原作シナリオを駆逐する~尊い兄弟のためなら、街ごと救ってしまいましょう  作者: 越智屋ノマ@コミック2巻発売『氷の侯爵令嬢は魔狼騎士に甘やかに…
5章:推しカプ救ってみた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/39

第28話:「あいにく、解釈不一致よ」

漆黒の王冠を戴いたような悪魔の角と、深紅が滲む長い黒髪。

闇色の貴族服を纏う貴公子――悪魔侯爵モルスが、ヴェロニカの前に立っている。


『貴様! この私を、いつまでも犬の姿に留め置くとは何事だ!』

「……こちらのセリフだわ。なぜいつまでも犬だったの?」

『貴様が魔法陣を描き直さなかったからだ!』


モルスは気炎を噴き上げている。

『肉体の限界が迫ったとき、消費の少ない姿で回復を待つ――それが悪魔だ。しかし人界では、元の姿に戻るにも魔法陣の助けがいるようだ。貴様がさっさと描けばよかったものを!』


ヴェロニカは、目をしばたたかせた。

(スリープ解除の電源ボタンみたいな……?)

などと突っ込む暇はない。


「モルス。お前はシグルドの瘴気に気付いていたのね?」

『当然だ! 闇市で、下等な悪魔の匂いがしていた。何度も言ったではないか』


……言っていただろうか?

そういえば、モルスはずっと不機嫌だった。


「シグルドを救いたいの。悪魔を止める手立てを知らない?」

悪魔に悪魔の止め方を聞くなんて、なんとも皮肉だ――。しかし、


『簡単なことではないか』

取るに足らないような顔で、モルスが言う。


『喰らえばいい』


ヴェロニカは、思わず顔をしかめた。

「……倒すということ? 簡単に言わないでちょうだい。悪魔を消滅させられるのは、聖女だけよ」


原作だって、そうだった。

悪魔の苗床と化したヴェロニカを迎え討つ、攻略対象キャラと聖女――男性陣はヴェロニカの体力を削りはするが、とどめを刺せるのは浄化魔術を使える聖女アリアだけだ。


『人間の事情など知らん。だが悪魔同士の粛清(ころしあい)など、珍しくもない』


血の色をしたモルスの瞳が、ゆるりと細まる。


『私ならばできる』



「――!」

心の中に、一条の光明を得た気がした。


『匂いから察するに、契約相手はせいぜい騎士階級の下等悪魔だ。下等悪魔が力を増すなど、虫唾が走る。身の程知らずを喰らい殺すに、何の躊躇があろうか』

「本当なの……?」

『当然だ』


モルスの唇が、薄く開いて吊り上がる。赤い舌が、ちらりと覗いた。


『そうか、ヴェロニカ。貴様はそんなにもあの男を救いたいのか』

「ええ」

『ならばその願い、叶えてやろう』


ヴェロニカは、思わず一歩踏み出そうとした。

『だが――』

モルスが、誘うように嗤う。

『もちろん、対価は必要だ』


ヴェロニカは、ぴたりとその場で止まった。


『私と契約しろ、ヴェロニカ』



甘やかな声で、モルスが囁く。


『未契約では満足に戦えん。貴様を依り代にすれば、私は力を取り戻せる。そして貴様の望みは叶う』


返事をしないヴェロニカに、モルスはゆるりと手を差し伸べる。


『対価を支払え、ヴェロニカ・ベルトラン』

まさに悪魔の誘惑だ。


その長い指が、ヴェロニカの頬へと伸びてゆく。

頬に触れそうになったその瞬間。


――ぱしっ。

乾いた音が、小さく響いた。

叩き落された指先が、触れる相手を失って彷徨う。


「あいにく、解釈不一致よ」


ヴェロニカはモルスを見据えた。



息を呑むモルスの脇を、ヴェロニカがすり抜けてゆく。

駆け足で玄関から飛び出した。


   ***




悪魔(モルス)は頼れない。聖女は役に立たない。……私が、なんとかするしかない)

シグルドに会いに行かなければ。


息を切らせて、城門に向かう。

街を出るつもりなら、きっとそこを目指すだろう。


(私がモルスと契約したら、シグルドは助かるかもしれない。でも、代わりに私が苗床になって、結局街を滅ぼしてしまう。そんなのはダメ)


そんな結末、絶対に要らない。ヴェロニカは全部欲しいのだ。

シグルドとダルタニアンの日常も。この街も。ヴェロニカ自身も。どれひとつ悪魔に渡してなるものか。


(――考えなさい。考えるのよ。なにか見逃してることはない!?)


あきらめるものか。

しつこくて強欲で、欲しいモノをなりふり構わず取りに行く――それが自分の憧れた『悪役』だ。


だが、不意に――

空気がビキリ、と軋んだ気がした。異様な気配に、空間そのものが震えている。

「!?」

空を仰げば、月が血の色に染まっていた。


(なに、これは)

全身が、総毛立つ。おのずと呼吸が浅くなった。



「……まさか」

まさかもう、苗床に……?


自分には、悪魔を止める能力はない。

聖女みたいな浄化の力も、悪魔同士の殺し合いもできない。それでも。


「渡さない」


――だって私は、悪役令嬢なのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◉コミカライズ好評配信中!
『今世はあえての悪嫁です。~義母に奪われた我が子を、愛でるべくして返り咲く』なみコミ/株式会社ウェイブ
挿絵(By みてみん)
無料試し読み配信中

◉コミック2巻2026年8月17日発売!
『氷の侯爵令嬢は、魔狼騎士に甘やかに溶かされる2』フロースCOMIC
挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ