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【完結】推し活悪役令嬢は悲劇の原作シナリオを駆逐する~尊い兄弟のためなら、街ごと救ってしまいましょう  作者: 越智屋ノマ@コミック2巻発売『氷の侯爵令嬢は魔狼騎士に甘やかに…
4章:わたくしの推しが詰んでいる

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第27話:悪女は推しを守りたい

その夜。

奈落の城に戻ったシグルドは、自室でひとり想いを巡らせていた。


「……また、関わりのない者を巻き込んでしまった」


なにが『王』だ。奈落候だ。

身に巣くう悪魔が周囲の者たちを狂わせてゆくのを、シグルドはこれまで何度も見てきた。


胸に刺すような激痛が走るたび、近くの誰かがおかしくなった。

最初は偶然かと思ったが、これほど何度も起これば分かる。


「悪魔め。壊すなら、俺だけにしてくれ」

シグルドは机に両肘をつき、深くうつむいた。


――確実に、終わりのときが近づいている。

ヴェロニカに救いを求めるつもりだったが、その時間さえなさそうだ。


身体が、軋む。

瞼の重さに耐えきれず、ゆっくりと目を閉じた。


   *



ふと気づけば、シグルドは闇の中にいた。

「……ここは?」


雲の上を歩くような踏み心地の、暗闇の世界だ。



『――――――シグルド様!』



ふり返れば、ヴェロニカ・ベルトランがそこにいた。


暗闇の中、おぼろげに浮かび上がったその美貌。

凛とした佇まいは普段通りだが、眼差しはひどく切迫していた。


『わたくしは今、魔導具で通信しています。あまり長くは話せませんが――』

「ヴェロニカ!」

シグルドは、声を張り上げた。

「教えてくれ。悪魔を従わせる方法を!」


しかしヴェロニカは、眉尻を下げて首を振る。

『……存じません』

心の底から、胸を痛めているような表情だった。

『わたくしは、悪魔との契約を拒んだのです』


シグルドは、目を見開いた。


『そして魔力を分け与え、飼いならしている状態です。契約とは、仕組みがまるで違うのですわ』



――なんだ、それは。

言葉が、何も出てこない。


一縷の望みをかけていた……。だがヴェロニカのやり方は、すべてが想定外だったようだ。


「……そうだったのか」

助かるすべは、存在しない。思わず自嘲の笑みがこぼれた。


「ならば、もう迷いはない。これで終わりというのなら、潔く死のう」

『いけません!』

ヴェロニカはシグルドに掴みかかろうとしていた。しかし互いに実体がないらしく、手がすり抜けてしまう。


「俺は命など惜しくない」

『惜しいです!』

ヴェロニカはカッと目を見開いてシグルドを見据えた。


『わたくしは認めません。それに、あなたが死ねばこの街も滅びます』

「どういうことだ」


『悪魔と契約した者は、普通の死を迎えられません。肉体を悪魔に奪われ、瘴気は周囲の人々を暴走させます。昼間の老人たちや、あなたの組織の幹部のように』


そんな話は、初耳だった。


『もちろん、自ら命を絶っても同じです。悪魔は、止まらないのです』

「……っ」


悪魔契約の恐ろしさが、今になって身に迫ってくる。自分の命を差し出すだけでは、まったく足りなかったのか――と。


シグルドは硬く目を閉じた。

「……礼を言う」

『え?』

再び目を開けたシグルドは、わずかに目元を緩ませてヴェロニカを見つめた。


「街を出る。無辜の者たちを巻き込むわけにはいかない」

『早まらないでくださいまし。きっとなにか、方法が――』

「あいにくと、俺はもう限界だ」

『……っ!』


意識が、現実へと引き戻されていく。



『お待ちください、シグルド様。……シグルド様!!』


ヴェロニカの声が、どんどん遠く。

真剣なその響きが、妙に温かく耳に残った――。




   *



ぴし、ぴし……とヴェロニカの前の姿見に、大きな亀裂が走っていく。鋭い音を立て、粉々に砕け散ってしまった。



ヴェロニカは、息を切らせてしゃがみ込んだ。

(もう限界? 街を出る? ……死に場所を選ぶつもりなの!?)


そんな展開、認めない。

どこかに助ける手立てはないのか? ……なければ困る、絶対に。


そのとき。

どんっ。どん。という、動物が扉に体当たりをするような音が響いた。

『きゃん! …………ぐるるるる!!!』

また、モルスだ。


「お願いだから、少し静かにして」

寝室の扉を開き、足元のモルスを見据えると――


「……っ。モルス……?」

床に妙な落書きが書かれていた。

『ぐるるるぅ』

仔犬がペンを咥えている。

「お前が書いたのね。これは……」


ヴェロニカは目をすがめた。

「魔法陣?」

犬一匹収まるくらいの大きさの、円と線を組み合わせた図形。

形がぐちゃぐちゃに乱れているが、モルスを召喚するときに描いた魔法陣の中核部分に似ている。

『っきゃん、きゃんきゃん!!』

「書けばいいのね?」

『きゃん!』


ヴェロニカがすばやく床に描くと、モルスはその中に飛び込んだ。

次の瞬間――。


カッ。と黒い光が噴き出し、光に包まれた仔犬のシルエットが縦長に伸びる。成人男性ほどになり、手足が伸びて人型へ――

「モルス!」



悪魔本来の姿に戻ったモルスが、そこには立っていた。

『貴様! この私を、いつまでも犬の姿に留め置くとは何事だ!』


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