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【完結】推し活悪役令嬢は悲劇の原作シナリオを駆逐する~尊い兄弟のためなら、街ごと救ってしまいましょう  作者: 越智屋ノマ@コミック2巻発売『氷の侯爵令嬢は魔狼騎士に甘やかに…
4章:わたくしの推しが詰んでいる

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第26話:悪女と聖女は同担拒否

ここは、ヘスト・トロニカにあるヴェロニカの住み家。


「うまく通信が繋がって、良かったですわ」


寝室にある大きな姿見の前に立ち、ヴェロニカは心の底から安堵していた。鏡面に向かって、優雅にカーテシーをする。


『あんた……、ヴェ、ヴェロニカ・ベルトラン!?』

鏡に映っているのはヴェロニカ自身ではなく、聖女アリアだ。顔面を引きつらせ、酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせている。


(……アリアの雰囲気、変わった気がする。まあ、どうでもいいけれど)


『なっ、なによ、これ! どうしてあんたがいる訳!?』


「わたくしは今、あなたの夢に語り掛けております。『恋の夢鏡』という魔導具をご存じでしょうか? 素材が手元にあったので、模造品を作りましたの。急ごしらえですので、話せて5分程度ですが――」


『こ、恋の夢鏡ですって!?』


恋の夢鏡。

原作ゲームのイベント限定魔導具だ。

眠っている攻略対象の夢へ入り込んで会話することができる。


『なんであんたが恋の夢鏡なんて知ってるのよ! あれって、攻略対象の夢に入れる激レアじゃないの!』


ヴェロニカは、ぴくりと眉を吊り上げた。

「……アリア様。あなた今、『攻略対象』とおっしゃいましたか」


鏡の向こうのアリアも、目を血走らせてこちらを睨みつけてきた。

『そういうあんたこそ……まさか転生者じゃないでしょうね!?』

「『………………』」


まさか同郷だったとは。

ヴェロニカは内心驚いていたが、今の話題はそこではない。


「まあ、細かいことはどうでも良くてよ?」

『どうでも良くない!!』


アリアがしつこく食い下がってきた。

『まさか悪役令嬢まで転生者だったなんて!! あんたがおかしな行動ばかりしてた理由、やっと分かったわ。今だってそう!』


「………………はい?」

思わず、首をかしげてしまった。


『とっとと悪魔の苗床になって街ぶっ壊しなさいよ! わたし、予言しちゃったんだから。外れたら大変なことになるじゃない!』

聖女(ヒロイン)にあるまじき暴言である。


(同じ転生者なのに、アリアは自動変換されないの? まあ、十人十色っていうものね)


アリアのことはどうでもいい。今はともかく、シグルドだ。


「単刀直入に申し上げます。アリア様に救っていただきたい者がおりますの。限界が近づいています……苗床と化す前に、どうか今すぐヘスト・トロニカにお越しくださいませ」

『……なによ、それ』

「アリア様の力が必要なのです。悪魔と契約した者は、聖女でなければ救えません」

『あんたでしょ? いやよ、絶対に助けないわ!』


ゲスが。と、思ったけれど顔には出さない。


「わたくしではありません」

『じゃあ誰よ』

「シグルド・ドゥです」


ヴェロニカが彼の名を口にした瞬間、アリアは目を輝かせた。

『シグルドですって?』


(食いついた。……もしかしてアリアも同担? だったら話が早いわ)

期待を胸に、ヴェロニカは話を続ける。


「アリア様も転生者なら、彼のことはご存じですわね? 彼は悪魔契約者です。どうか、お救い下さいませ」

『シグルドね。もちろん助けるわよ』


(よかった!)


ところがアリアは、得意げな顔でこう付け足した。

『――わたしが、『シグルド・ルート』を選んだらね?』


ヴェロニカは、思わず息を呑んだ。

「どういう意味ですの?」


『だから。シグルド・ルートならシグルドが生き残る。ダルタニアン・ルートならダルタニアン。()()()()()()()()()()シナリオでしょう? だから、わたしに選ばせなさい』


――片方しか、生き残れないシナリオ。

そう。

原作では、そうだった。


「アリア様……」

ヴェロニカは拳を握った。ぎりぎりと、爪が食い込む。


(だから私は、どっちのストーリーも大嫌いだったわ……)


ヴェロニカは、まっすぐにアリアを見据えた。

「わたくしは、ふたりとも救いたいのです。アリア様、どうかご助力を」

『は? 絶対にイヤよ! 片方死ななきゃ、わたしに恋する流れにならないじゃない』


ぎろりとヴェロニカが睨みつけると、鏡越しのアリアが身を竦ませた。


――知っている。そういうシナリオだ。


「恋、ですか。死に別れた心の傷に、聖女が寄り添う恋愛シナリオでしたわね。ですがそんな展開が、あの兄弟の幸せと呼べるでしょうか」


ヴェロニカは、怒りに声を震わせた。

「兄弟がふたり揃って生きる未来のほうが、よっぽど素敵ではありませんか!」


『どこが素敵なの? そんなの、原作からの逸脱じゃない』

「逸脱のなにが悪いのですか? あんなくだらないシナリオは、逸脱すれば良いのです」

『うるさいわね、このカプ厨! わたしはハーレムENDが良いの!』


ヴェロニカは奥歯を噛みしめた。

同じ作品を推す者同士でありながら、こんなにも噛み合わないとは――。


『ともかく! シグルドを助けたいなら、まずはあんたが原作通りにヘスト・トロニカを壊しなさい。兄弟が王都に流れてきたら、わたしがルートを選んであげる。それ以外は認めないから!』


「――クズ聖女」


びきり。と、姿見に亀裂が入った。

『はぁ!? ちょっとあんた、今なんて――』


ぶつん。

通信が途絶える。



「…………」

鏡の中のアリアが消えて、ヴェロニカ自身の姿が映り込んでいた。

鏡に映る自分は、怒りで顔が真っ赤になっている。


「あの聖女、まったく役に立ちませんわね」


ならば、どうすればシグルドを救えるだろう?

考えろ。

考えろ――。


『きゃん! きゃんきゃん!!』

寝室の外では、モルスが激しく吠え続けていた。扉に防音魔法を掛けてあるのに、ずいぶんと響く。


「……集中できませんわ」

モルスが何を叫んでいても、犬ではさっぱり分からない。

思考が、まとまらない。



シグルドの残り時間は、あとどれくらいあるのだろう?

聖女を呼びつける気でいたが、そもそもそんな時間はあるのか? あんなに具合が悪そうだったのに。


(シグルドは今、どうしているの?)


眠っているとは限らない。

それでもヴェロニカは、亀裂の入った姿見に手をかざした。


ひび割れはさらに広がっていく。

急ごしらえの模造品では、あと一度がせいぜい。

無事を祈りながら、ヴェロニカは鏡面に魔力を流した。


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