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【完結】推し活悪役令嬢は悲劇の原作シナリオを駆逐する~尊い兄弟のためなら、街ごと救ってしまいましょう  作者: 越智屋ノマ@コミック2巻発売『氷の侯爵令嬢は魔狼騎士に甘やかに…
3章:推しカプ愛でてみた

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第18話:悪女、かんちがい

「……イカレた魔女め。勝手に俺たちの家に住み着きやがって」

ソファに腰を下ろした金髪碧眼の美少年が、鋭い瞳で睨めつけてくる。


ヴェロニカは対面の椅子に座したまま、眉根を寄せて問いかけた。

「それで、ダルタニアン様? どうしてあなたはこの家にいらしたのでしょうか?」


夕食を終えて仔犬のブラッシングをしていたら、ダルタニアンが押しかけてきた。先日は兄弟揃ってお出ましだったが、今日は弟のソロである。


「どうしてだと? 図々しい。もともと俺の家だ」

(ソロたーにゃん。でも、欲を言うならカプで愛でたい……)


とはいえ、私服姿のダルタニアンを生で拝めるのは眼福である。普段は暗器を秘めた外套で身を包んでいるが、脱ぐと案外、肩幅がある。肩までまくったシャツから伸びる腕も、しっかり鍛えられていた。下町の不良みたいな出で立ちなのに、彼が纏うと気品がある。少年期ならではの危うげな色香が漏れ出ているのもすばらしい。


(あれ。もしかしてその恰好って、5周年イベの私服ガチャでゲットできたのと同じじゃない? わぁあ尊い!)

などと、ツンとした顔をしながら脳を沸かせていたそのとき。

ダルタニアンが低い声で問うてきた。


「お前の情夫はどうした」

「情夫、ですか?」

「悪魔の変装だと言い張っていた、あの男だ」


「情夫ではありませんが、彼なら街の外に帰りましたわ。そのように、あなたのお兄様にもお伝えしましてよ?」

本当は私の膝で眠りこけてる、コレですよ。――とは、もちろん言わない。


「……お前、何をしている」

「ペットの毛づくろいですわ」


ヴェロニカは、膝の上で毛玉のように丸くなっている黒い仔犬(モルス)の背中をブラシで梳き続けていた。悪魔侯爵にしてやっていると思うと萎えるが、純粋に犬だと思えばむしろ楽しい。連日のお散歩で疲れ果てているようで、仔犬は寝息を立てて爆睡している。

(ずっと犬で良いわね、モルスは)


――と、視線に気づいた。

ダルタニアンがときおり、仔犬のほうを見ている。ヴェロニカを尋問する気で来たようだったが、仔犬に毒気を抜かれたのかもしれない。


「……ふふ。もしかして撫でたいのですか?」

「は?」

思いきり不快そうな声を出された。

「お前。ふざけるなよ」

ぎろり。と睨めつけてくる彼の凄みが一段増した。

だが、ヴェロニカは恐れない。


(……良き)

原作のダルタニアンも兄と一緒のときだけ従順で、一人になると一人前のマフィアの顔になるのだ。その落差、実に解釈一致である。


加えて言うと、実は彼が動物好きなのも原作シナリオで知っている。ヒロインである聖女アリアが、懐いてきた仔猫をダルタニアンの膝に乗せてあげるシーンだ。


ヒロインの真似をするつもりはないが、ヴェロニカは抱き上げた仔犬をダルタニアンの膝に乗せてみた。

「……おい、何しやがる、お前」

(っていう反応もあのシーンと同じね。良き良き)


ダルタニアンの膝に乗せられても、モルスはすぴすぴ寝息を立てている。

「…………ちっ。話を逸らしやがって」

毒づいているものの、膝の上の命を振り落そうとはしない。戸惑いながらも、ダルタニアンが仔犬を見下ろす瞳は柔らかかった。


目の前にいる彼の姿は、原作スチルと同じである。だが画像にはない温もりを、心の底から尊いと思った。マフィアの若頭とは到底思えない、王侯貴族めいた気品が匂い立っている。


ダルタニアンが、不意に顔をしかめた。

「もしやこの犬……魔術の生贄か?」

「まさか。ただのペットですわ」

「だが、ひどく疲れている」

「お分かりになるのですか?」

「何となくだ」

「きっと飼い方を変えたためですわ。ずっと(ケージ)で飼っていましたが、最近は外に出すようにいたしまして。まだ身体が慣れないようです」

「そうか」

ふと、ダルタニアンが気まずそうな顔をした。


「……くそ、調子が狂う」


低い声で「犬をどかせ」と言ってきたので、ヴェロニカは素直に従うことにした。


「俺はお前を信用しない。単刀直入に言うが、お前の狙いは何だ? 得体のしれない術で、俺の仲間を狂わせようとする理由は」

「……はい?」


何を言っているのか、サッパリ意味が分からない。

「狂わせる……とは?」

「しらばくれる気か。ワルプルギスの夜に、うちの幹部が暴れたのはお前が何かしたせいだろう? あいつだけじゃない。数か月前から、似たような異変を来す者が何人も出ている」


やはりサッパリ分からない。

ヴェロニカは、こてりと首をかしげた。


「なぜ、わたくしに関係が? 幹部の方が爆風魔術を放ったのは、マフィア内部の権力闘争でございましょう?」

「は?」


ダルタニアンが、思いきり目を見開いた。――お前の頭どうなってるんだ? とでも言いたげだ。

「……本気で言っているのか? どうしてあれが、そう見えるんだ」

「そうおっしゃいましても。わたくしは、幹部の方が爆風魔術を放ったところしか見ておりませんし」


ダルタニアンは、訝しげに目をすがめた。

ヴェロニカもまた、首をかしげたままパチリと瞬きを返す。……奇妙な沈黙が、部屋を満たしていった。


(え、内部抗争じゃなかったの? あれ)

マフィアと言えば内部抗争。お約束だと思っていたのに。

前世に見たコミックやアニメがそうだった。盃で結ばれた男同士の仁義と裏切り、そして縄張りを巡る抗争――あれはてっきり、そういう現場だと。


「数か月前から……とのことですが、わたくしがこの街に来てから半月も経っておりません」

「……っ」

「わたくしの身辺は、シグルド様がすでに把握しておいでです。お聞きになっては?」


ダルタニアンは、気まずそうに息を呑んだ。


「……だが、遠隔地から術を掛けていた可能性も」

「そのような魔術は存じ上げませんし、裁判や刑の執行で多忙に過ごしておりました。あなたの組織(ワルプルギス)には前々から興味がありましたが、王都で得られる情報は限られており。奈落さえ知らなかったわたくしに、犯人役など務まりましょうか」


「…………」

ダルタニアンは、返事に詰まって唇をわなわなとさせていた。

取りあえず今日のところは、容疑者扱いを免れたようだ。


――だが幹部の『異変』というのは、どうにも気掛かりな話である。

(いきなり正気を失って、魔力を暴走させるなんて。まるで、『瘴気』の症状みたいね)


ヴェロニカはふと、原作シナリオを思い返した。瘴気とは、悪魔と契約した人間がやがて発するようになる『気』だ。周囲の人間を狂わせ、魔力暴走を起こさせる。原作のヴェロニカは悪魔との契約により精神を崩壊させ、大量の瘴気を発生させた――。


(ヴェロニカの影響は、この街だけに(とど)まらなかった……街そのものが崩壊して、魔獣のように変わり果てた人々が国中で大暴動を起こすの)


悪魔の苗床と化したヴェロニカが巻き起こす、数々の災厄。それを鎮静化するのが、聖女アリアと攻略対象たちだった。


(でも、変だわ。今世の私は、悪魔(モルス)と契約していないもの)

原作で瘴気が広がったのは、ヴェロニカの精神が崩壊する少し前くらいからだった。結果として街が滅び、シグルドたちは居場所を失う。


……けれど、今世はまるで違う。悪魔はほとんどペットだし、今のヴェロニカが瘴気を発することはない。だから、同じ悲劇が起こるはずがない。



「心配ございませんわ、ダルタニアン様」

ヴェロニカは、優雅に微笑して見せた。


――自分は今後も壊れないし、この街を壊すこともない。

お気に入りの魔窟を破壊するなんて、絶対にありえないのだ。


けれど胸には疑問が残る。



(原作とは別進行のはずなのに、どうして瘴気みたいな事件が起こっているのかしら……?)



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