第八話 氷月の青龍
無事に退院をした千颯は千夜子と一緒に千夜子と夏吉が住んでいる神社の社務所兼住居に向かっていた。
夏吉は手続きがあると言って役所の方に行っており、千颯たちは徒歩で向かっていたのだが。
「なぁ。千颯……少し寄りたいところがあるのじゃが、付き合ってくれぬか?」
千颯がその言葉に頷くと千夜子は神社と反対方向に進んでいく。
付いて行った先は小さな楽器の工房だった。
入っていくとそこには少し強面な水色の髪の60歳くらいのおじさんが楽器の部品を作っていた。
おじさんは千颯たちに気づくとこちらに向かってくる。
「千夜子さん珍しいじゃないですか。神事で使う楽器の奉納以外うちに来ることないのに」
「まあな。今日は用事があってきたんじゃ。すまんが楽器を見せてくれんかのう」
「いいですけど。珍しいですね……あれ?その後ろの子は?」
千颯に気づいたおじさんは千夜子に質問をする。
すると千夜子は千颯を紹介し始めた。
「ああ、そうじゃった。この子は千颯っていうんじゃ。わしのもう一人の孫でな。今日から面倒を見ることにしたんじゃよ。んで、千颯、この爺さんは辰野正和。この村で楽器を作っている職人がでな。昨日お前が見ていた楽器屋にも楽器を卸しているんじゃよ。ほら、お前が見ていたベースのブランドあるじゃろ、あそことも仲がいいんじゃよ。」
千夜子がそう紹介すると、正和は否定するのように手を振りながら笑顔で答える。
「いやいや、俺が作ってるのは和楽器ですよ。洋楽器を作ってるのはうちのせがれです。だから、せがれの方が詳しいですよ。まあ、まだまだですがね。ガハハハッ!」
正和はがははっと笑いながら嬉しそうに話す。
そんな話をしていると、正和の後ろにあるドアが開き、水色の髪の30代くらいの男性が入ってくる。
「おい、親父!誰がまだまだだって!」
「おー、帰ったか!丁度よかった。前、お前さんが作っていた楽器この子に見せてもいいか?」
正和がそういうとすぐに嫌そうな顔をする。
「あー?別に見せてもいいけど、なんでこんなガキが上手く弾けるわけじゃないだろう。だったら初心者用のやつでいいんじゃないか?まだ始めたてだろうしよー」
そう言われて少し怒った千颯は近くにあった左利き用の初心者用のベースをとり、試し弾きをしていいかと確認し、演奏し始めた。
まず千颯はピック弾きでフレーズを弾いたのち、フィンガー奏法でいろんなテクニックの演奏をした後、スラップ奏法やタッピングなど祐希の時に身につけた15年分の技術を詰め込み演奏した。
「タッピングだとっ!」
「うむ…うまいな……」
それを聞いていた男性や正和は驚いた表情をし、千夜子は嬉しそうな表情を見せていた。
「……うーん、やっぱりネックの部分が合わないな…………あっ」
(しまった……ついいつもの癖が……)
千颯が恐る恐る大人たち方を見ると千夜子が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「すごいじゃないか!!天才じゃ天才がおるぞ」
「お、おばあちゃん…大袈裟……」
(そりゃこっちはプロとしてやってきてたし……)
千夜子とじゃれ合っているとさっきまで千颯を初心者扱いしていた男性が話しかけてきた。
「いや。実際うめぇよ。ガキにしてはうますぎるぐらいだ。あんた本当に子供か?中身大人じゃないのかって思うくらいには…まあ、なわけないか」
(ギクッ……)
少しびくっとした千颯は冷や汗をかいたが、男性が1人納得してくれたおかげで事なきをえた。
「あ、そうだ。名乗るのを忘れてたな。俺は辰野一義。さっきは初心者言って悪かったな。お詫びにいいもん持ってきてやるよ。ちょっと待ってろ」
そういうと一義は店の裏に消えていく。
数分後戻ってきた一義の手には3本のベースがあった。
「これが、俺が作った左利き用のベースだ。こん中で好きなやつ選んでいいぞ」
「いいのか!」
「おう、いいぞ。そんだけ上手かったら初心者用よりこっちの方がいいだろ」
そう言われると千颯は持っていたベースを起き、一つ一つじっくり選び始めた。
3つとも試し弾きしてみた千颯は昨日見ていたベースに近い音と形に似ているふたつの目のベースを選んだ。
するとさっきまで見ていた正和が口を開いた。
「やっぱりそれ選んだか……昨日、千夜子さんから聞いてびっくりしたが、それが1番君が見ていたブランドのベースに近いものなんだよ。お店に卸す前でよかったな。嬢ちゃん」
「げっ、親父知ってたのか!?」
「いや、こんなに上手いとは知らなかった」
それを聞いた千颯は千夜子の方を見る。
「おばあちゃん……どうして……」
「何、ベースを見てる千颯の姿がな、わしの昔好きだった奴にそっくりだったんじゃ……だからどうしてもな……あ、夏吉には内緒じゃよ。あいつはヤキモチ妬きだからな」
(それって……もしかして……)
照れながら答えるおばあちゃんに千颯はそんな事を考えながら口を開いた。
「うん、わかった。……おばあちゃん、ありがとう」
「何、構わんさ。さ、必要なものを買って帰るか。夏吉ももう用事終わらせてるじゃろうし」
「うん」
そういうと千颯に聞きながら必要な機材を選んでいく。 選び終えて支払いを済ませようとすると一義が口を開いた。
「いや。いいですよ機材の分だけで。ベースはまだ、試作の段階だったのもあるし」
「いや、しかし……」
そう言ってくる一義に千夜子達が困っていると正和が口を開いた。
「せがれもこういってるし、そうしてくれませんかね。千夜子さん達にはいつもお世話になってますし。その代わり、嬢ちゃん。そのベース大事にしてくれよ。そんで有名になってくれ。そしたらうちも人気になるしな!ガハハハ!」
「親父……まあそういうことだ。がんばれよガキンチョ!」
「でも……」
そう納得しない千颯の頭を撫でる一義は続けてこういった。
「こういう時は大人に甘えとけ。まだガキなんだから。わかったな」
「わかった。その代わりちゃんと借りは返す。絶対有名になるから……」
「おう、楽しみにしてる」
そういうと機材分の支払いを済ませた千夜子と一緒に千颯は楽器屋を後にした。
お店が見えなくなるまで千颯は辰野親子に手を振り続けた。
*
神社に着くと千颯は千夜子と一緒に部屋の片付けをしていた。
昨日買ったものを片付けたり。寝るところを準備したり。
すると手続きを終えた夏吉が戻ってきた。
夏吉に今日の出来事を話していた矢先、警報の音が鳴り響いた。
「なんだ?」
びっくりした千颯は千夜子と夏吉に聞こうとして2人の方を見ると2人とも険しい表情をしていた。
「妖魔か……」
「妖魔?」
そう不思議そうにする千颯に千夜子は安心させるように答える。
「妖魔とは鬼や妖の手下みたいなもんじゃ。鬼や妖はそうそう人間の所にはおりてこない。じゃが、こうやって手下を使っては人間を困らせてくる奴らなんじゃ……わしらは少し出てくるからこの境内から出るなよ。結界が張ってあるからおとなしくしておれ。すぐ戻ってくるからな」
そういうと夏吉と共に2人は飛び出していった。
何もすることが無くなった千颯はこの神社を散策することにした。
(結界がはられてるって言ってたしちょっとぐらい大丈夫だろ……)
そう思った千颯は外に出てみることにした。すると境内の本殿の近くに少し開けた場所に桜の木があり、桜が咲き乱れていた。
千颯は桜の木の下にあるベンチに座り、桜の木をバックに景色を眺めていた。
「綺麗……あ、そうだここなら……」
千颯は先程買ってもらったベースを取り出すと少し弾いて見ることにした。
この世界に来てから口ずさむことのなかった懐かしい歌を口ずさみながら……
1曲歌い上げると千颯という子の身体がまだ体力にないことに気がつく。
(これは体力も鍛えないとな……あいつらの音が無いと寂しいな…)
「しかし、遅いな。千夜子さん達……」
そんな事を考えているとどうやら口に出ていたようで自分しかいないはずの空間から知らない声が返ってきた。
「そりゃそうだろ…妖魔は数が多いし、何よりしぶとい。それにあやつらは月音魔法警備隊だしょうがないだろ。ゆっくり待っとれ。さっきの歌声よかったな。なあ、もう一曲聞かせてくれよ」
「え?」
「ん?」
突如聞こえて来た声にびっくりした千颯は聞こえてきた声の方向に振り返る。
振り返った方を見ると桜の木の上で白に近い水色の長い髪を横に下ろすように束ねた和服のすらりとした男性が金色の目をこちらに向け微笑んでいた。
「誰だ……あんた」
「誰だと思う?」
「質問を質問で返すな。……そうだな…ロリコン野郎とか…」
「ロリコン……ふ、フハハハハ!この俺をロリコン野郎とは!肝が据わってる子供だな!」
そう返した千颯の近くに降り立つと大笑いしながら千颯の座っているベンチの方に近づいてくる。
とっさに距離を取ろうとするが、距離をとる前に腕を捕まれ、長い髪の男性は千颯に顔を近づけ話しかけてきた。
「まあ、逃げるな。子供に手を出すほど馬鹿では無いからな。俺の名は氷室……この神社に祀られてる『氷月の青龍神』だ。まあ、よく氷月龍とも呼ばれている。」
「氷月龍?」
「ああ、そうだ。まあ、自己紹介はここまでにして。なあ子供よ。次は俺の質問に答えてくれ。貴様の魂はなぜふたつ存在している」
「……え?」
「……いや言い方を変えよう。先程歌っていた者は千颯ではないな……貴様は何者だ。答えてもらおうか人間よ」
急激に距離を詰めれ千颯は混乱していた。
(なんでそんな事を聞いてくる……私が転生者だとバレたのか……どうすればいい……)
千颯は考えを巡らす事しか出来なかった。




