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第五話 優しさ

千颯がひとしきり泣いたあと、落ち着いた所を見計らって千夜子は意を決したように口を開いた。


「よし!決めた。わしがこの子を引き取ろう」


「えっ!!大丈夫なんですかお義母さん!」


心配そうに燐斗が声をかける。しかし、千夜子はなに食わぬ顔でこう告げた。


「何を言う。孫が1人2人増えた所で何も変わらん。それに誰が引き取らんとこの子はずっとこのままか、施設送りじゃろ。そんなのなら祖母の私が引き取ったて構わんじゃろ。な!、夏吉」


そんな千夜子の言葉に夏吉は笑顔で答える。


「当たり前じゃ!それにこんな可愛い孫が増えるのなら大歓迎じゃ!」


「でも、母親がわかっているなら連絡した方がいいんじゃ……」


そう心配する燐斗に千夜子はサラッとこたえる。

「何、こんな時間連絡してももう向こうの市役所はしまってる時間じゃ、それに証拠がないとあっちは取りやってくれん。何より、龍月家がそう簡単にDNA鑑定をしてくれるかわからん。だったら子奴が落ち着いた時でも構わんじゃろ」


そう言う千夜子に燐斗が声を挙げる

「いや、俺が取り合って見ますよ。それにその方がいいかもしれないし。何も知らないよりはいいじゃないですか」


「でも、あなた……」


「大丈夫だから。」


心配そうに見つめる千夏に燐斗が大丈夫と何度も繰り返していた。千颯は不思議に思いながらも燐斗の影に黒い淀みが見えたような気がして首を傾げた。

燐斗に夏吉が声をかける。


「燐斗くんや、無理はせんでいいからな。ゆっくりでいい。今日は遅い時間じゃ明日にしよう。それにその間だけでもわしらが預かるのはどうじゃろう?」


「確かにそれなら……」


そんなトントン拍子で決まっていく様子に驚きながら見ていた千颯が口を開いた。


「あの、関係ないかもしれないけど……ひとつ聞いてもいいですか?」


「なんじゃ?」


千夜子が千颯に耳を傾ける


「あの、おじいさんとおばあさんはなんで苗字が違うんですか?」


(今聞くことじゃないかもしれないが……少し気になっていたんだよな…。結婚してるのになんで苗字が違うのか……)


そんな質問をした千颯に大人たちは笑いかける。


「はははっ!なんだそんな事か!苗字が違うのは夫婦別姓だからな。もうこの国では夫婦別姓が認められてるんじゃ。ちゃんと戸籍謄本にも残るように法律が変わったんじゃよ。そうじゃないと、わしは神社を守る義務があって名前変えれんし、夏吉も病院を守るために苗字を変えれんしな。子供だから知らんかったのか。勉強になったな」


笑顔で答える千夜子に千颯はなんか恥ずかしくなって顔を上げれなかった。


(まさか、この世界でも夫婦別姓が認められてるなんて。しかも問題視されてた戸籍も解決してるなんて、さすがはゲームの世界なのか……)


そんなことを考えてると千夏がが口を開いた。


「預かるならお母さんか、お父さんの苗字どっちにするの?」


「それはわしじゃろ!わしの孫なんじゃから」


勢いよく千夜子が答える。それに夏吉も頷く。

すると話を聞いていた慧斗が残念そうに口を開く。


「えー、桜町じゃねえのー?せっかく妹分ができると思ったのに……」


「なんじゃ、さっきまで従兄弟って言って残念そうにしておったのに」


「うるさいよ、ばあちゃん!」


ニヤニヤと笑みを浮かべながら千夜子が慧斗いじると拗ねた顔をして慧斗が答える。そんな慧斗にボソッと千夜子が耳打ちをする。


「千颯が気になるんじゃろ?だったらわしの苗字になった方が兄妹みたいに思われんしええぞ。それに、この国は従兄弟同士なら結婚できるぞ」


「本当に!……って、べ、別にそんなんじゃないよ!何言ってんの!ばあちゃん!」


「ははは、若いっていいな!」


「ばあちゃん!」


コソコソ喋っていると思ったらいきなり大きな声を出した慧斗に驚きつつも千颯は首を傾げた。すると時計を見た千颯は燐斗の方を向いて口を開く。


「あの、時間……大丈夫ですか?」


千颯は時計の方を指さした。それを見た燐斗は慌て始める。


「げっ、もうすぐ面会時間終わる時間じゃねえか……はい、今日はもう解散!!」


その声に全員が動き始める。


「おっと。これはいかん。大事な資料の作成があったんじゃった」


「じゃあ、俺も手伝いますよ。」


と燐斗と夏吉が病室を出ていく。

それにつられたように千夏が慧斗に話しかける


「慧斗、今日の分の宿題は終わってるの?」


「…………うん。だからまだいる……」


「何?今の間は? さっ、帰って宿題しましょ。明日も来れるんだから。千颯ちゃんも疲れたでしょ?今日はもうゆっくり休んでね」


「ちぇ、わかったよ。またな千颯!」


慧斗もすねながら千夏と一緒に病室を後にする。


残った千夜子は千颯の頭を撫でながら名残惜しそうに口を開く。


「なんかお主の意見も聞かずに勝手に決めてすまんかったな。大丈夫か?」


「いえ、逆に迷惑じゃないですかね……」


「迷惑なわけなかろう。こういうのは大人の役割じゃ」


千夜子はそういうと病室を出ようとする。すると千颯が千夜子の背中に向かい口を開いた。


「あの、ありがとうございました」


その言葉に千夜子は振り返り


「何、子供見守りのが大人の役目じゃ。感謝なんていらん。それにわしとお前は祖母と孫の関係じゃ、他人行儀なんて要らんからな。今日はゆっくり休め。またな」


「はい……」


そういうと千夜子は病室を後にした。


静まり返った病院で千颯は息をつく。

ベッドに寝転ぶと今日の出来事を振り返っていた。


(はぁ、濃い1日だった……死んだと思ったらゲームの世界に異世界転生して、そしたらこんないい人たちに囲まれて……しかし、なんでこんないい人たちに囲まれているのにこの千颯はなんで闇堕ちしたんだ? はぁ、美希の話聞いといてやればよかったな……まあ、どうにかなるか……とりあえず、闇堕ちしないようにしないとな。そのためには魔法を使いこなせるようにならないと…)


千颯は顔を抓ってみた。痛みが広がるとこの世界が夢でないこと再認識する。


(痛い……夢では無いんだな。本当に……。もう、今日は疲れたな……寝るか……)


千颯はベッドに寝転ぶと瞼を閉じて、夢の世界へと身を委ねたのだった。







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