第四話 祖母
数時間後、慧斗に連れられた白髪の怖そうな顔の女性が病院に入ってきた。
その女性は千颯を見るなり懐かしそうに声をかけてきた。
「お前さんが慧斗が言っていた女の子か?確かに、似ておるな。わしのもう1人の娘に」
「もう一人の娘!?あ、そういえばお母さん昔にそんなこと言ってたような…」
その女性がそういうと千夏が思い出したように声を上げた。
女性はその言葉に頷き、千颯の近くの椅子に腰をかけると優しく千颯の頭を撫でながら話を続けた。
「急に来て、何を言い出すんだと思っただろう。驚かせて悪かったな。わしは月神千夜子。ここにいる千夏の母であり、慧斗の祖母でもあり、この月音村にある月音神社の神主もしておる。そしてどうやらお前の祖母でもあるみたいだな」
「あの、祖母ってことは私の母が誰なのか知っているんですか?…それに、月音村って……」
千颯は大人しく千夜子に撫でられながら気になっていたことを質問する。
その質問に驚きつつも千夜子は優しく答えてくれる。
「なんだ、月音村について聞いておらんかったのか。よしそこから教えてやろう」
そうすると千夜子はポケットの中から持っていた手帳サイズの地図を取り出し、説明をし始めた。
「まず、ここは『兵庫魔道亜』というこの国で唯一の魔法都市にある村なんだ。『兵庫魔道亜』には5つの区が存在しておってな。東を守護し、木を司る『青龍』の巫女がいる東側のこの場所を『青龍区』。ちなみに月音村がある区がこの地区だ。」
「そして、次に西を守護し、金を司る『白虎』の巫女がいるこの西側の場所を『白虎区』。南を守護し、火を司る『朱雀』の巫女がいるこの島の場所を『朱雀区』。北を守護し、水を司る『玄武』の巫女がいるこの北側の場所を『玄武区』。そして中央を守護し、土を司り、この4つの聖獣のまとめ役でもある『麒麟』の巫女がいるこの真ん中あたりの場所を『麒麟区』とこの5つの区に分けられておる。」
(兵庫魔道亜……ネーミングセンスダサいな…確か兵庫県の北に玄武洞があるから兵庫を聖地にしたって美希が言ってたな……にしてももっといい名前あったろ……)
そんなことを考えてる千颯をよそに、千夜子は話を続けた。
「それで、お前の母親についてだな。これは少し長くなるが付き合ってくれ。わしはな昔、夏吉さんに出会う前にな、違う男性と結婚して子供もいたんだ」
「え……」
「だがな、向こうのくそ……じゃないな母親にな『子ができたのはいいが能力のあまり無い子とは使えない。とっとと実家に帰ったらどうじゃ』なんて言われてな。その時の主人もかなり講義してくれたんだがな。その講義も虚しく追いださっれてしまったんだ。結局あの家の老害共は巫女に仕える守護者が生まれないとなんも意味もないみたいだな。部外者は邪魔なようじゃ」
そういうと千夜子は小さな手帳から一枚の写真をとりだしった。そこには若かりし千夜子と赤ちゃんを抱っこしてやさしそうな男性が幸せそうに笑っている写真だった。
千夜子は懐かしそうにその写真を見ていた時、病室のドアが行き良いよく開けられる。
「そこでそんな千夜子を救ったのがこのわしこと桜町夏吉じゃー!」
勢いよく入ってきた男性は先程までの話を聞いていたのか大きな声で病室に入ってきた。
それにすぐさま、千夜子と千夏が叱る。
「夏吉、ここは病室じゃ静かにせんかい!」
「お父さんうるさい!」
「はい、すんません……」
しょぼくれている夏吉をほっておいて千夜子は続きを話し始めた。
「まあ、その後実家に戻ったはいいが、自暴自棄になってな。影落ちしかかるわ、ものを壊すわ荒れに荒れまくっていたんだが、さっき夏吉言った通りわしを救ってくれてな。まあ最初はこやつの告白を断っていたんだが、この男見た目通りしつこくてな。結局落とさて再婚して千夏が生まれたというわかだ」
千夜子の言葉に夏吉と言われた男性は照れながら頭を搔く
(ということはその別れた旦那の子供の娘が千颯ってことか?なんかすごい複雑な設定だな。この子……今は私なんだが)
そんなことを千颯が考えているとさっきから黙っていた慧斗も同じことを考えたようで同じことを言う。
「ということは母さんと千颯の母親は異夫兄弟ってことか!?ということは千颯と俺はいとこ……」
その言葉に千夜子は頷く。
「まあ、そういうことじゃな。なんだ嫌なのか?」
「いや、嫌じゃないけど……」
少し残念そうな顔している慧斗に千颯は不思議そうにしながら少し怒った声で言った。
「何、嫌なのか?」
「別に嫌じゃねえよ……けど……」
言葉を濁す慧斗に首をかしげた千颯に大人たちが笑いをこぼす。
「ははは!若いっていいな!」
「じいちゃんはだまって!」
「???」
千颯は夏吉に慧斗が噛み付き、慌てる慧斗に不思議そうに見ていた。
ただ、気になったいることがあった千颯は千夜子に質問する。
「あの、私の母親は名前なんて言うんですか?」
「そんなこと知ってどうすると言いたいとこだがあの機械の精度はかなりあるからな。わかった教えてやろう。私のもう一人の娘の名前は、月宮雪那今は結婚して名前が変わっているはずじゃ。えっと確か…」
「龍月だよ龍月雪那。龍月颯助ってやつと結婚してその名前になっている。」
千夜子の言葉を遮るように燐斗が答える。
その言葉に千颯は何か記憶がふっと入ってくる。
────守護者ではないのか……使えない────
────せっかく能力が高くても、守護属性がないんじゃねぇ────
────ふん、所詮あの親の子じゃ。守護者を2人も産んだこと自体奇跡なんじゃから1人はずれでもしょうがないさ────
────ごめんね。千颯……いつか絶対迎えに行くから。いい子で待っててね────
────あなたは捨てられたのよ。期待しても無駄無駄。うふふ、それならあのお方のためになった方が……────
(なんだ、今の走馬灯のようなものは…千颯としての記憶か?なんだ、この胸が締め付けられる感じは……)
千颯は固まったようにぼーっとしていた。
それに気づいた慧斗が心配そうに声をかける。
「……ぃ、ぉい、おい!!」
「……えっ」
「大丈夫かよ。ひどい顔色だぞ。」
「……あ……大丈夫だ」
それに気づいた千夜子が千颯の背中をさすり語りかけた。
「なんだ、嫌な記憶でも思い出したか?」
「……どうして…」
千颯はなんでわかったんだっといった表情で千夜子に目を向ける。そんな千颯に千夜子は優しく声をかけた。
「そんな顔をしておった。わしも昔はそうじゃったからな。これは夏吉の受け売りだがな、人間生きていたら嫌なことは沢山ある。まだお主は若いんじゃから嫌なことをずっと考えるよりもな、今から起きる楽しいことを考えた方がよっぽどいいじゃろ。そうじゃないと楽しいことまで気付かずにすぎてしまうぞ」
「っ……」
千颯は気がついたら何故か涙が溢れていた。千颯は必死で涙を止めようとして目を擦る。
千夜子がそんな様子の千颯の手をつかみ、優しく抱き寄せた。
「よいよい、泣いていいんだぞ。涙が流れるのは感情がある証拠じゃ。涙が枯れてしまったら心が枯れてしまったと同じだ。涙を流すことはダメな事じゃないさ」
「でも、泣いたら怒られる……」
そんな千颯に千夜子は優しく頭を撫でる
「子供は泣くのが仕事じゃ。好きなだけ泣けばいい。誰も怒ったりせんさ。」
「……ッ……」
千颯はその言葉に思いっきり泣いた。声は出ない。それでも良いとばかりに千夜子は千颯を優しく抱きしめた。




