第十六話 魔法と妖魔
日本刀『雪月刀』の手入れを行ったあと、千颯たちは早速稽古をしていた。
まだ魔法の出し方を知らない千颯はまず千夜子に言われた通り、刀に魔力を送ることから始めてみる。
「……ふぅ…」
(刀に魔力を送る………)
しかし、刀は光ることもなく何も変化はない。そんな千颯に千夜子はアドバイスを送る。
「魔法は血液をめぐらす感覚でやってみるのじゃ。温かいものを飲む時とかになんとなく血が巡る感覚あるじゃろ。その感覚を身体の中心から刀に集中してみるようにやってみるのじゃ」
「血液を巡らす感覚…」
千颯は千夜子のアドバイスを元にもう一度挑戦してみる。
すると刀が光始め、周りに氷の花が浮かび上がった。
(今か!)
千颯は刀を振るった。
しかし、雪の結晶が舞うだけで何もおこらない。
「クククッ、千颯…呪文言わないと何も起こらんぞ」
遠目で様子を見ていた氷室が笑いながら答えた。その様子に恥ずかしくなった千颯は顔を真っ赤にしてうつむくしかなかった。
(しまった……というか私、呪文知らなくね…こいつ…分かってて何も言わなかったな……この野郎…)
俯きながらも千颯は氷室を睨む。
思い出したかのように千夜子が謝る。
「そうじゃった。千颯は氷月魔法についての呪文は知らなかったの。ちょっと待っておれ」
そういうと千夜子は収納魔法で何かを探し始めった。数分後、一冊の古びた本を取り出し千颯に手渡した。
「これは代々、月神家に伝わっている文献じゃ。この中に月神家の歴史や氷月龍魔法、その剣技魔法についての呪文が載っておる。まずはこれを覚えることじゃな」
千颯は手渡された本を開き中身を確認する。その中身には沢山の呪文が書かれていた。
「…すごい量……これ全部?」
「ああ、そうじゃ。まずはその本に書かれているものを覚えてみるといいぞ」
「わかった…」
千颯は一通り本を黙読していた。
そうしていると遠くで夏吉が声がした。
「おーーい、もうすぐ夜ご飯の時間じゃぞー!」
「わかったー!すぐ行くぞー!」
千夜子は振り返り千颯も誘う。
千颯はもう一度刀に魔力を送り、一度唱えたことのある呪文を口にしていた。
「氷月龍魔法『霧氷月夜』」
すると刀が光り始め千颯の周りに白い霧が出現し始める。そして刀がかざした先にある千夜子が用意した巻藁が氷の薄い膜に覆われ、辺りが暗くなるとその霧に覆われた物が月に照らされたように光り、光終わると雪が解けるように消えていった。
千颯が魔法を出す瞬間を見ていた千夜子は驚いた顔で見ていた。
「(まさか、この短時間でコツを掴むとは…)すごいじゃないか千颯!さすがわしの孫じゃ!」
「いや、まだまだだよ…氷室に力を借りた時はもっと長かったし、広範囲だったから………それに魔力…切れそう…」
千颯はそう口にするとフラフラとする。
そんな千颯を受け止めた千夜子はこう口にする。
「今日はここまでにしようかのう。千颯。今日は夏吉特製のチキンカレーじゃ。たくさん食べて寝て、魔力を回復させよう。」
「うん。いっぱい食べる」
千夜子は千颯の手を引き稽古場を後にする。夏吉特製のチキンカレーをたくさん食べた千颯はぐっすり寝て明日に備えるのだった。
*
次の日。千颯は朝早くからランニングをしていた。走っている千颯を後ろから空から様子を見ているのは氷月龍の氷室だった。
(たくっ……なんでこの俺が…子供の子守りなんか…)
グチグチと言いながら氷室は千颯の後を追いかける。なぜ、氷室が千颯の様子を追いかけるのかと言うと……
────
数分前…千颯は玄関で外に出かける準備をしていた。そんな千颯に気がついた千夜子が声をかける。
「千颯?どうしたんじゃ、こんなところで…どこか出かけるのか?」
「走りに行こうかなって…おじいちゃんにはさっきあったから言ってるよ」
「そうだったのか、気をつけてな。何かあったらすぐ戻ってくるんじゃぞ」
「うん、わかった。行ってきます」
千颯はそういうと軽快に走りに出かけた。見送った千夜子はやはり心配なのか後ろをついて行こうとしたのだが…
「お母さん。今日大事な仕事があるから朝から準備しなきゃいけないって言ってたよね?なのにどこ行こうとしてるの?」
「千夏……いや、孫が心配で…」
「孫を心配するのは結構。だけどやりすぎるとウザがられるし、それにこっちはやることあるから手伝いに来てる娘に仕事押し付けてやること!さあ、早く準備するよ!」
「あ、千夏よ待っておくれ……あ、丁度いいところに。氷室!千颯の事頼んだぞ!」
そう言うと急いで千夏の方に向かっていった。
「おい!ちょっと待ってて!…たくっ」
────
そんなこんなで氷室は千颯の後を追いかけていた。そんなやり取りがあったとは知らずに、千颯は軽快なリズムで走っていく。
すると、とある川辺に着いた時、千颯は立ち止まり上を見上げた。
(うわ…綺麗…)
そこには川に沿ってたくさんの桜並木が咲いていた。この場所は『武庫川桜づつみ回廊』と呼ばれ、武庫川という川が流れる場所の両脇を4000本の桜並木が咲き乱れる有名な場所だ。そんな桜並木を見て千颯は感動していた。
(この桜の木もうすぐで満開になりそうだな…綺麗だ。やっぱり桜の木はいいな…)
「よし、ここの桜並木の道を走って神社に帰ろう」
千颯は桜並木を走り始めた。
それに合わせたかのように桜が風で揺れる。そしてその道を走り終えたあと、千颯は神社に帰る為住宅街へと抜けていこうとした時でかい音が響き渡った。
「ビーーーーー!!」
妖魔の出現を知らせる警報音だ。
千颯は慌てて、神社の道に行こうと走り出そうとしたがそこで今、自分の置かれている状況に気づいた。
「やばい、迷った……」
(多分、目の前に見えている山が神社の方向だったはずとりあえずそっちに向かおう。)
千颯はまた走り出した。その様子を見ていた氷室はため息をつきながら千颯が道を間違えてるのに気づき声をかけようとする。
(あの馬鹿、そっちは逆方向だよ…たくっ)
そして追いつきそうになったその時────
「うわぁぁぁぁぁあ!!!こっちに来るなぁぁぁ!」
少年の声が響き渡った。
千颯は慌てての声のする方に向かうと、竹刀を持った少年が人の3倍ぐらいあるでかい犬のような姿の黒い妖魔に襲われそうになっていた。
千颯は慌てて祖母である千夜子に連絡しようとしたが、まだ連絡手段のスマホなどを貰ってないことを思い出した。
(しまった…千颯になってからは携帯持ってないんだった。)
慌てて収納魔法に戻してあった刀を素早く取り出し、昨日もらった本に書いてある呪文を唱えようと刀を構えた。
(上手くできるか分からないが、一か八か…やるしかない…)
千颯が刀を鞘から抜こうとした次の瞬間。
「桜風朱雀弓技魔法『桜華風神』」
千颯の視界の別の方向から弓矢が飛んで来ると魔物に命中し、その矢の周りから一瞬にして桜の花弁が舞い、竜巻のように風が魔物を覆い隠した。
そして風に待った桜の花弁が刃物のように魔物を切り刻み、一瞬して魔物を消滅させた。
「ふぅ、間に合って良かった…大丈夫か、お前」
襲われてた少年のところに降り立つ人影は千颯の知ってる人間だった。千颯は驚いて声に出していた。
「…桜崎…南雲」
その声に反応して南雲は千颯のいる方向に振り返った。
「…げっ、月神千颯…」
2人の間に長い沈黙が続いたのだった。




