第十二話 桜の青龍
燐斗との事件が終わり、この世界のことも少しずつ理解し始めたある日、千颯は神社にある階段を走り込んだりして体力作りから始めていた。
(やっぱり、体力があまりないな。もう少し走り込みを増やすか……)
そんな事を思っていると、どこから現れてきた氷室が話しかけてきた。
「よぉ、頑張ってるじゃないか。」
「氷室…」
「体力も魔力もちゃんと戻ったな。いやあの時はどうなるかと思ったぞ。あの後、魔力切れでぶっ倒れたからな。クククッ」
「しょうがないだろ。私にとっては始めて魔法使ったんだから……というか魔力与えてくれたはずだろう。なんで倒れるんだよ…」
小馬鹿にした態度をとる氷室を千颯は睨みつけた。
そう、実は燐斗の事件が解決した後、千颯は魔力切れでぶっ倒れてしまったのだ。
その後燐斗や夏吉に点滴を打ってもらい、その後は魔力を回復するために千夜子の作るご飯をたくさん食べたのだった。
(まさか本当に食べ物を食べることで魔力を回復させるなんてな。しかもあんだけの量食べてもお腹いっぱいにならないとは……私の胃袋どうなってるんだ。)
「まあ、俺が魔力を完全に渡すことはできないしな。それに少し気分が悪くなるとも言ったなしな。まあよかったじゃないか。燐斗の元気に仕事してんだし、めでたしめでたしで」
「めでたしめでたしって……こいつ……」
そんな感じでまだ笑う氷室に呆れた千颯は氷室を無視してまたトレーニングをし始めようとする。
そんな千颯に水を渡しながら、氷室は思い出したように話しかける。
「あ、そういえば千颯、 この世界の魔法についてどれぐらい知ってるんだ?」
「え?……えっと…氷、影、月とか?」
「ああ、まあそんな感じだ。全部で、火、水、木、雷、風、花、土、氷、虫、光(太陽)、影(月)、金(金属、鉱石)、獣、桜(菊)の14の属性が存在している。まあ太陽と月魔法はその14の属性で光と影魔法に分類されるけどな。だから守護者も14人居るんだ」
「へぇー。……ん?ちょっと待て…前に見たゲームの資料には守護者が12人って書いてあったような……いや、でも確かにやたら運営から15の数字を意識して入れてくれって言われたような……」
「ほー、そんなことがあったのか。まあ、今この世界で知られてる守護者は12人だからあってるはあってるな」
「そうなのか……なんで?」
「……巫女の婚約を断ったから。」
「ブーーーッ!」
千颯は飲んでいた水を盛大に吹き出した。
「はあ?……なんだそれ……意味がわからない」
「おーおー口悪千颯になったな。まあ、1000年ぐらい前のことだ。というか汚ねえぞ。ほれ、これで拭け」
氷室は笑いながらタオルを渡した
「ありがとう。じゃなくて1000年前ってなんでそんなことに……」
「まあ、話すと長くなるんだが、2代目の巫女がなまあ、恋愛脳だったんだよ。守護者は私を好きで当たり前みたいな。そんでその時の氷月というか守護者的には月(影)の守護者の男に婚約を命じたんだよ」
「昔は婚約が普通だったしお家同士の結婚が普通だっただろう?だが、そん時の月の守護者には愛してた女性がいて巫女の婚約を断ったんだ。それで怒った巫女が月の守護者から外して歴史からも消し去ったんだよ」
「え……ウザッ……自分の思い通りにならないからって……キモチワルっ」
千颯はうんざりした顔をしながら言った。
そんな顔に氷室はまた笑いながら答える。
「ハハハッ!相変わらず口悪いな。まあ本当にそうだよな。せっかく守護者全員揃って巫女としての力最大限に発揮できるはずだったのにな」
その言葉に千颯は驚いた顔をする。
「全員揃うと何かあるのか?」
「あー、まあな。巫女の力がちゃんと発揮されるんだ。青龍神が初代の巫女に力を与える代わりに提示した枷みたいなものさ。まあ初代の巫女も後少しだったんだがな。その前に鬼や妖の王である『酒童呑』が暴れて、結構14人揃う前にそいつを倒すしかなくてな。まあ、結局5人の巫女と守護者達で何とか封印まではできたんだか……」
「倒すまではいかなかったと……酒童呑ってそんなに強いのか?」
「ああ、強いよ。どの鬼もやつの言うことなら聞く。それにお前でも酒呑童子って聞いた事あるだろ?そいつの息子か親族とも言われてる」
思い出すように言う氷室に千颯は持っていた容器を強く握りしめた。
「でも、封印はされてるんだろ?だったら大丈夫なんじゃないのか?」
「確かに封印はされた。でもそれを維持できなくなった場合、やつは復活し、またあの地獄のような戦いがはじまる。そうならならいように巫女たちは未来へとその能力を繋いでいってるんだ。だが……」
「根本的に守護者が全員揃ってるわけではないから危ういということか……しかし、なんで歴史から消し去ったんだけど……そんなことしたらもとも子もないだろう?。それに青龍神はキレたんじゃ……」
「あー、キレてたよ。誰にも気づかれないがな。会えるのは巫女だけだし。しかも14人の守護者が揃わないとこの人間界に降りて来れないから結局巫女が夢見で見たものを守護者達に言わないと分からねえ。それが千年以上続いてる状況だ。まあ、それが貴様が言ってたゲームの設定なのかも知らないがな。」
「ゲームの設定……たしかにな……全くめんどくさい設定にしてくれたもんだ」
「まったくのぅ。困ったもんじゃのぅ」
隣から聞こえてきた声にびっくりして千颯は声の方へ顔を向ける。
すると見かけた事のない桜色の長いウェーブのかかった髪に緑色の瞳の小さな女性が少し浮きながら話しかけてきた。
「っ!〜〜~びっくりした……」
まさかそんな近くにいると思ってなかった千颯は驚きすぐさまその女性から距離を置く。
そんな千颯と打って変わって氷室は冷静にその女性に声をかけていた。
「なんだ、桜弥姫じゃねえか」
「ホホホッ!いい反応じゃのぅ。驚かせがいがある娘じゃのぅ」
そう言う桜弥姫と呼ばれた女性は千颯に近づき口を開いた。
「いや〜、こんな反応が見れるとは思わず笑ってしまってすまんかったのぅ。妾は桜弥姫この土地を知り尽くした桜の青龍神じゃ」
「桜の青龍……?」
(また新しい青龍が……しかもゲームでは聞いた事ないが……)
「おぉ、そうじゃ。そしてそこにいる氷月龍の妻でもあるぞ!」
そう言う桜弥姫に氷室は照れながら顔をかく。そんな様子の氷室をニヤニヤしながら千颯は見ていた。
「へぇー、妻……」
「なんだよ。文句あるか」
「いや、いいなと思ってな」
「なんじゃ、お主も恋愛に興味あるのか!? なら妾が相談にのるぞ!」
(あの慧斗がこの子のことが気になっておったからのぅ……もしかしてもしかするかもしれん!)
そう期待した桜弥姫の思いはすぐへし折られた。
「いや、他人の恋愛事情は興味あるが自分に対しては興味ない」
そう言うと千颯は右手でグーサインをした。
そんな様子に2人はズッコケる。
「はぁ……」
「なんじゃ、そうなのか……」
「え……何、その反応」
(ちぇ。せっかく期待したのに……残念じゃ……これは手強いのぅ。頑張れよ慧斗よ…)
そんな風な事を思っている桜弥姫に千颯はふと質問する。
「そういえば、なんで花の守護者がいるのに、桜(菊)と別れてるんだ?一緒じゃなくていいのか?」
「ああ、それはのぅ。桜や菊は日本の国花だからじゃ。青龍と朱雀は桜、白虎と玄武は菊。そして麒麟は桜と菊の両方を守護しておる。だから麒麟は使える者が桜であれば桜に変化し、菊であれば菊の守護者に変わるのじゃ」
「へぇー国花なぁ」
そんな風に説明する桜弥姫に氷室は声をかける
「そんな事をわざわざ説明するために来たわけじゃねぇだろ。桜弥姫」
「ホホホッ、何お主が楽しそうに妾に話すから気になったんじゃよ。それにお礼も言いたかったからのぅ」
「お礼……?」
千颯は首を傾げた。
そんな千颯に桜弥姫は近づき口を開いた。
「ああ、そうじゃ。お主が燐斗の異変に気づいてくれたお陰で妾の契約者である千夏が燐斗の影化に巻き込まれなくて済んだ。それにこの村の雰囲気もすごく良くなったんじゃ。改めて礼を言うぞ人の子よ」
そう頭を下げる桜弥姫に千颯は戸惑いながらも首を横に振る。
「いやいや、私も氷室に手を借りたからそんな……」
「そんな謙遜するな。妾たち神は異変に気づいても手をくわえることは出来ん。お主達、人の子が異変に気づきそれに手を貸すことは出来るからのぅ。よくやったぞ」
(そんな制約があるとは……ん?そういえばさっき村の雰囲気って言ったような……)
「ああ、妾はこの村の雰囲気がわかるんじゃよ。だからといって手を加えるのはご法度じゃがのぅ。 黒い淀みがあった村がひとついい方向に向かい始めたのじゃ。これからも期待しておるぞ。人の子よ。」
ニコニコ笑顔で千颯の方を見る桜弥姫に千颯は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「そんな期待されても困るが……まあやれるとこまでやってみるさ」
「そうかそうか。それでも良い。さて、妾は神の世界に戻るとするかのぅ。お主はどうするじゃ氷室」
「いや、俺はもうちょいここに残るわ。」
「そうか。では、また神の世でな。人の子よ頼んだぞ。」
そういうと桜弥姫は氷室の頬にキスをおとし、勢い良く飛び上がると周りに桜の花弁が舞い始めた。そして桜の花弁が渦を巻き、桜弥姫を包み込んだと思うと次の瞬間、桜弥姫はどこにも姿が見てなくなっていた。
「消えた……しかし、村がいい方向に向かってる……本当なのか?」
「あいつは嘘はつかねえよ。それに貴様の事も感ずいてはいたが多分見守ってるって事だろ。まあ頑張れよ千颯」
「頑張れよって……まあ、頑張ってみるよ」
(少しでもフラグをへし折れるんならやってみる価値はある。)
「そうか。」
そう二人で話していると遠くで千颯を呼ぶ千夜子の声が聞こえる。
2人はその声のする方に向かって行くのだった。




