第十話 狂科学者医師(マッドサイエンティストドクター) 其の一
数分もしないうちに氷室と千颯は病院の屋上に到着した。
到着すると氷室に担がれている千颯は早く下ろすように懇願した。
「おい、降ろせ。このロリコンジジイ…」
「はいはい。相変わらず口が悪いな。というか貴様、高いの苦手なのか?そんなんじゃ魔法師としてはどうなんだ?」
「うるさい……。高いところは大丈夫なんだが……どうも絶叫系のような早さがあると苦手でなんだ…」
「なるほどな……さ、急ぐぞ」
「あ、ちょっと待ってて」
千颯は先に行く氷室の後に続く。
歩きながら千颯は氷室に質問する。
「なんでそんなに急ぐんだ?燐斗先生は影化になる前なんだろ?それに髪だって私みたいに黒くなかったじゃないか……」
「確かにあいつは髪色も元の色だ。それに落ち着ているのは落ち着いている。だが、だからといって治ったわけじゃない。心に闇がともれば誰だって影化する。それは大人であっても子供であってもな」
「それに、お前は髪が黒いのはまだ影の魔法をしっかりと操れないからだ。普通、そんな状態だったら影に呑まれることもある。だが貴様は自我があるだろ。それは貴様自身が持ってる魔力が高いからだ。」
「魔力が高い奴らはそれだけ多くの魔力を体に貯めることが出来る。だが、魔力が低い奴らは魔力を貯めることが出来る量が少ないんだ。コップの水で考えて見ろ。小さいコップだとすぐ水が溢れるだろ。それと一緒だ。燐斗は確かに才能もあるだがあいつは魔力が少ないんだ。だからこそ影化になりやすくもある。」
そう氷室に説明を受けながら病院で燐斗を探していると看護師の噂を耳にする。
「そういえば、川で保護された子。月神さんが保護したみたいよ。なんでも月神さんのお孫さんだったんだって。」
「え?、そうなの。じゃあなんで先生今も青龍区の魔法警察本部に連絡してるの?」
「それは、その保護した子もしかしたらその魔法警察本部の警察官の知り合いかもしれないから保護した子のDNA鑑定を青龍区の上にもしてもらおうとしてるみたい」
「え?それって無理なんじゃないの?だって先生、昔に狂科学者医師って言われて青龍区の魔法警察本部追い出されたって聞いたよ」
「さぁ?でも、相手にされてないみたいだし無理なんじゃない」
そんな話をしている看護師達を横目で見ながら千颯と氷室は目を合わせてお互いに頷くと急いで燐斗を探し始める。
(狂科学者医師なんだそれは……あの人がそんなふうな人には見えないんだが……なんでそんなふうに言われてるんだ?)
すると近くの部屋から燐斗のしゃべり声が聞こえた。
その部屋を覗き見ると誰かに電話をしているのが見える。その様子を心配そうに見つめる千夏もいた。
「──だから!可能性がひとつでもあれば調べて欲しいって言ってるんだ!………違うって言ってるだろ!おい!………クソッ今回もダメか…」
乱暴に受話器を閉める燐斗に千夏は優しく寄り添っていた。
「あなた、今日は諦めましょう。無理をするとあなたの体にも毒よ」
「しかし、なあ千夏。千颯の顔覚えてるか?あいつ、母親の話をした時悲しそうな顔してたんだ。だからこそ合わせてやりたくってさ……」
「それは、……」
そんな話をしている2人を見ている千颯に氷室が千颯に近づき小さな声で声をかける。
「おい、そうなのか?千颯ちゃんよ」
「まあ、少し思い出したことはあったが……そんな顔してたのか?それよりも最後に思い出したあの記憶が気になって……」
「最後?」
「ああ、実は───」
二人が話に夢中になっていと部屋の方から電話の着信音が聞こえた。
燐斗が焦った様子で電話に出るとどんどんと雲行きが怪しくなっていく。
「──どうだった!……そうか、無理だったか。…………は、│狂科学者医師には教えられないって……はは、そうか。ありがとう悪かったな。あぁ、また……」
燐斗は力なく電話を切った。
そんな様子に千夏が心配そうに話しかける。
「あなた、どうだった?」
「どうもこうもねぇよ。協力してくれた後輩がいうには調べようとした瞬間に上司が言ったんだってさ、『お前もあの│狂科学者医師には手を貸すな。あんな奴には教えられん何をされるかわからんからな』だとよ。あいつには悪いし今回だけにしてもらうよ」
「燐斗……」
「まったくさ、一度流れた噂って無くならねぇんだな。もう10年以上前だぞ、もう大丈夫と思ったんだけどな…」
そんな落ち込んでいる燐斗の周りに黒いモヤが大量に出現し始める。そして緑色の髪が黒く変色し始めてしまった。
どうやら後輩にも迷惑をかけてしまった悲しみや怒りが燐斗に大量の影を生み出してしまったのしれない。
そんな様子に千夏が焦った様子で燐斗に話しかける。
「……燐斗!だめ!深呼吸して!」
それをかたわらで見ていた千颯は慌てて氷室の方を見る。
「なあ、まずいんじゃないのか!…どうにかできないのか!」
「一番手っ取り早いのは千夜子を呼んで来ることだ。でもさっきの警報でまだ対応しているだろうし、今から行っても間に合わないな…」
「じゃあどうすれば…」
すると氷室が真剣な表情で千颯をこう告げる。
「お前、魔法は使ったことは?」
「あるわけないだろう!私の世界に魔法なんて存在しないんだから!……それにこっちにきてからも使ってない…もしかしたら思い出す前の私は使ってたかもしれないが…」
「そうか…ただ、貴様ならできるかもしれない。貴様、月魔法を持ってるからな。俺が力を貸せばできるかもしれん。どうだ、やってみるか?」
そんな問いかけに千颯は一瞬迷う。だが意を決したように顔を上げて氷室の顔をみる。
「わかった。どうすればいい」
そう千颯が聞くと氷室は手を出すように伝える。
その片方の手を握り、もう片方の手を燐斗に向けるように指示を出す。
「俺に続いてこの言葉を言ってくれ。あと、貴様は魔力があまりないから俺の魔力を少しだけ渡す。少し気分が悪くなるかもしれんが我慢しろよ。」
そういうと氷室は千颯にある言葉を告げる。
繋いだてから体に暖かい魔力が入ってくるのを感じると千颯は感じながら言われた通り言葉を紡いだ。
「氷月龍魔法『霧氷月夜』」
すると千颯の手から白い霧のようなものが出現し燐斗の周りの黒いモヤに白い霧がかぶさっていく。
そして部屋が暗くなり千颯が出した白い霧が月のように光始めると燐斗の周りが冬に見られる霧氷のように薄い氷の粒が燐斗に纏わりついていく。
その魔法に驚いたて千颯が氷室との手を話しかけた時、氷室は千颯の手を握り返しこう告げる。
「大丈夫だ。俺を信じろ」
その言葉に千颯は安心し、魔法を出すことに集中する。
すると纏わりついていた霧氷が消え始めると、今まで燐斗の周りにあったモヤが消え、いつもの姿に戻っていた。
少しふらついた燐斗に千夏はすぐ寄り添い支えた。
「さっきの魔法は……え?千颯ちゃん!それに氷室さんまで!」
そういうと先ほど初めて魔法を使ったからか膝から崩れ落ちている千颯とそれを支えている氷室に気づく。
「千颯ちゃん!どうしてここに…それに氷室さんまで…」
「それは…えっと……」
どう答えればいいか困っている千颯の代わりに氷室が応える。
「さっき神社でこやつにあった時に、燐斗に黒いモヤのようなものが見えたって行っておってな。気になって様子を見にきたんだよ。そしたら案の定危ないところだったから俺の魔力を少し分けて魔法の出し方を教えたんだ。まあ成功してよかったよ」
そう答える氷室に千颯はうなづく。
そのやりとりを聞いていた燐斗が振り返りお礼を言う。
「そうっだったんですね。すみません氷室さん。それに千颯もありがとな。」
そう言う燐斗に氷室が口を開く。
「別に構わんさ。それにこれは一時的な処理だ。後で千夜子にも見て貰えよ。それと燐斗よ貴様は人よりも影化しやすい。あまり自分を責めるなよ」
「はい。ありがとうござます。……でも」
そういう燐斗に千颯は首を横にふる。
「別にいい。先生が嫌な思いするなら調べなくていい。お母さんとのこと」
そんなことを言う千颯に燐斗は驚き声をあげる。
「嫌、でも!」
「思い出したことがあるんだ。今、お母さんの所に行ってもあそこに私の居場所はないから。だったらおばあちゃんの所でもっと魔法を使えるようになった方がいい。」
「居場所がないって……」
そういう燐斗に千颯は頷く。
「私は児童養護施設に行かされたんだ。使えないと言われて。影の能力が高いと巫女にも悪影響だからって…母は迎えに行くって言ってたけど、5年待っても来なかったし、その後なんで川で倒れてたか知らないし覚えてないし……それだったら、この村にいたい」
(あぁ、クソッ泣くつもりなんてなかったのに)
そう泣きそうな声で言う千颯に燐斗と千夏が千颯を抱きしめる。
千夏が口を開いた。
「そうだったのね。でも話してくれてありがとう。大丈夫よ千颯ちゃんはもう私の可愛い姪っ子なんだから。ちゃんと居場所はあるからね」
「そうだそうだ。でも、俺は納得するまで調べる。まあ無理しない程度にな。千颯本当に助けてくれてありがとうな。しかしお祖母さんと同じ魔法が使えるとは」
「え?……おばあちゃんと同じ魔法なの?」
そう驚き氷室の顔を見る。
「あぁ、まあ孫だしな。それに磨けばもっと使いこなせるようになるぞ。どうする千颯」
そういたずらぽく答える氷室に千颯はすぐ頷く。
「やる……もっと魔法使いこなせるようになりたい!」
そう答える千颯に氷室は微笑み、千夏達も優しく見守る。
そんな千颯達を見て千夏が思い出したかのように口を開く。
「あ、そういえば。おばあちゃん達は知ってるのこのこと?」
そういうと2人は焦ったように声を上げる。
「あっ!そういえば……」
「やべぇ……」
そんな焦った2人を、よそにここに向かってくる足音が聞こえる。近づいてきたと思うと勢いよくドアが開かれる。すると焦った様子の千夜子達が入ってきた。
「千夏!燐斗くん!千颯見ておらんか!さっき戻ったら姿がみえなく…て」
千颯に気づいた千夜子は勢いよく千颯に抱きしめる。後ろにいた夏吉も安心したようにその場に佇んでいた。
「よかった!!無事で心配したぞ千颯ー!!」
力強く抱きしめる千夜子に千颯は苦しそうにもがく。
「ちょ、おばあちゃん……くるし……」
「しかし、なんで居なくなったんじゃ心配したんだぞ」
「実は…───」
そう言う千夜子に千颯はさっきまであった事を説明する。
「そうだったのか。わしにも相談してくれたら良かったのに……」
「えっと……ごめんなさい」
そう千颯が謝ると千夜子は優しく微笑む。
そして急に立ち上がると氷室の方へ行く。
「まあ良い、それよりも氷室よ。置き手紙もなく、わしの孫を勝手に連れ去るのは如何なものかのう……」
「おい、ちょ、ちょっと待て千夜子。ストップ」
「問答無用じゃー!」
そうじゃれあう2人をよそに夏吉が燐斗に声をかける。
「全く……無理をしちゃいかんと言ったじゃろ燐斗くんよ。わしにも頼れ。お主は大事なわしの娘婿なんじゃから」
「はい。ありがとうございます夏吉さん。千夏も心配かけて悪かったな」
「いいのよ。あなた」
そういうと燐斗は再び千颯に声をかける。
「千颯も本当にありがとうな」
「ううん。それよりも身体は大丈夫?」
「おう、大丈夫だ」
そう言うと燐斗は千颯の頭を優しく撫でる。それに続くように千夏や夏吉も千颯の頭を撫でた。
「千颯、なんか思い出したことがあったらなんでも相談しろよ。今回みたいに貯めたら俺みたいになるかもしれないからな。」
そういう燐斗に千颯は気になっていたことを質問する。
「あの、あんまり聞いちゃいけないのかもしれないけど、聞きたいことがあるんだ……聞いてもいい?」
「おう、どうした?」
「どうして、燐斗先生は狂科学者医師って言われてるんだ?…………ごめんなさい聞いちゃいけなかったらこれ以上この話は……」
「いや、大丈夫だ。少し長くなるがいいか?あれは10年以上前になるんだが……」
そういうと少しずつ燐斗は話し始めるのだった。




