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「お届け物でーす」
数日間ほとんど家も出ずに魔導の練習ばかりしていたシャロンと、オルフェウス。
周りに騒がしいものもないこの家では、自分のことにめいっぱい時間を掛けられることに気づいて、シャロンの熱は留まることを知らなかった。
(メーニャの駄々にも、フィリップ殿下の突然の無茶ぶりにも、明日の衣食住の心配もしなくていいってこんな感じなのですわね……!)
謎の感動を得ながら、シャロンとオルフェウスは少しずつ、しかし着実にマナを感じ取れるようになっていた。
「お届け物でーす!いらっしゃいませんか!」
「……シャロン、私が出るね。」
マナを感じ取ることに集中するあまり、シャロンは周りの声も聞こえなくなっていた。
そんな彼女にオルフェウスは声をかけたものの、一向に返事をしないシャロン。
どうやらオルフェウスの声にも気づかないくらいらしい。
「……ふう。」
そんなシャロンの集中力を途切れさせないよう、静かにシャロンの隣の席から立ち上がったオルフェウスは、先程から聞こえる「届け物」の声の方向に向かうことにした。
ガチャリ。
家の構造は把握し終えたため、迷わずに玄関に来られたオルフェウスは、ドアを開ける前から目の前に立つ配達人が誰か勘づいていた。
「お、やっと出てきましたね依頼主様。」
「こんにちは、ユアン。仕事を掛け持ちかな?」
そこには、風になびく金髪と蒼い羽の耳飾りに、ニッコリと笑みを浮かべた『蒼羽』のユアンが立っていた。
「掛け持ち、まあそうですね。貴方に用事があったので、ついでに配送業務をギルドで受けてきました。」
1回で銅貨25枚ですよ、と別に聞いていない相場まで言ってくるユアン。
口を開けば金の話ばかりのこの男を、オルフェウスはなれたように躱した。
「そう、ではその箱の中身はランプかな。」
基本的に、オルフェウスは有言実行の男である。
あの夜の後、シャロンが気に入ったランプを購入していたのだった。
「俺は何も知りませんよ。まぁ、重さがだいたいそれくらいなので、合っていると思います。」
ユアンは自分の片手を占領する小包を持ち上げながら「入っても?」と尋ねる。
「ああ、入ってくれるかな。君に話したいことがあったんだ。」
「ありがとうございます。俺も話したい事があって……惚気を聞くのは別料金だって言いましたよね。」
「あいにく、私は人にお金を払ってまで会話をする程寂しい男ではないんだ。」
「ハハハ。それは遠回しの惚気ですね?まったく、依頼主様は油断も隙もありませんねぇ。」
「ふふふ。Sランク様に褒められると満更でもないね。」
玄関には2人の男の乾いた笑いが響いていた。
「へえ、良い家を買いましたね。小綺麗で、静かで、おまけに依頼主様とお嬢様、お互いの配慮に満ちているのをヒシヒシと感じますよ。」
物珍しそうにあちこち見回すユアン。
彼の美しい青い瞳は、注意深く細部を見聞するように忙しなく動いている。
彼には何が見えているのか、とオルフェウスはユアンの発言に苛立つ。
「配慮、か。……黙ってくれるかな、私達のことを何も知らない部外者に憶測で語られるのは酷く気分が悪い。」
(苛立つのは、図星だからなのかもしれないな。私とシャロンの間には、埋まらない溝が一生涯にわたって存在していて、私達はその隙間を見て見ぬふりしている……配慮と言われても、反論のしようが無いな。)
「これは失礼しました。減給は勘弁してくださいね。」
「しないよ、君は給金に関してとても繊細だね。」
「依頼主様も愛する存在が減るのは堪えるでしょう?と、おや。お嬢様はお勉強中でいらっしゃいましたか。」
ユアンの目線の先。
シャロンが『魔獣でも分かる!5分で身につく魔導〜初心者編〜』という本と睨み合いをしていた。
残念ながら本の謳い文句のように5分で身につきはしていないようだが。
「魔獣、ですか。依頼主様、そういえば何故サダルカマドにはギルドという構造があるのかご存知ですか?いや、何故サダルカマドにしかないのか、と言った方が正確かな。」
玄関とリビングの間の廊下で、ユアンが声を潜めて傍らのオルフェウスに話しかける。
先ほどの一触即発の雰囲気などどこへやら、だ。
「いや?知らないよ。でも君の言い方からすると、魔獣とギルドには何か関係があるらしい。魔獣といえば、サダルカマド立憲王国の建国神話に登場する魔王が従えている異形の怪物たち。ギルドは練度の高い兵士集団でないところを鑑みるに、元々は魔獣から身を守るための自警団のようなものだったのかな。」
違うかな?とオルフェウスが滔々と紡ぐ言葉にユアンは目を見張った後、満足そうに歯を見せて笑う。
「ご名答ですね。依頼主様は推測から演算するのが上手でいらっしゃる。目が見えない代わりに、随分と鼻が鋭い。」
「それで?そんな眉唾物の話をするためだけに、君がこの話題を出したとは思えないけれど。」
オルフェウスの顔の影が濃くなる。
ザワリ、と空気が動いたような錯覚すら覚えて、ユアンは無意識に目を細めたあと、肩をすくめた。
「わぁ、依頼主様は俺のことをなんだと思っているんです?この話はこの国じゃ有名な話なんで、異国から来た貴方は知らないだろうと思っただけですよ。」
「つまり私が知る必要があるということだろう。違うかい?……シャロンは、ロノヴァンの王室に制裁を加える準備で忙しいんだ。これ以上面倒ごとを持ち込まないで欲しいのだけれど。」
「こればかりはねえ。どうにもならないと言いますか。」
だらしなく手をあげて後頭部に両手を当てたユアンは、一拍開けた後、無感情に言い放った。
「去年までは、ここまで寒くはなかったんですよ。」
私生活の関係で、これからは不定期投稿になります。ご了承ください。
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