33 計画
(お兄様が離れて行かないようにするにはどうしたら良いの?いえ、それよりもロノヴァンの騎士団がわたくしを探しているって……。魔導師の勉強や修行もして、騎士団に見つからないか、対抗できる手段を作りたい所だし。ああもう、やることが多いわっ!)
「……ン、シャロン?大丈夫かい、疲れてしまったのかな。」
アーベルとの面会が終わり、ヤロスラーフの城を辞した後。
2人はアーベルの助言通りギルドに向かっていた。
しかし、ずっとシャロンが1人で悶々と考え続けていたせいで、オルフェウスを不安にさせてしまったらしい。
どれだけ兄の成長、そして成長への第一歩を喜べなくても、それはそれこれはこれ。
オルフェウスを心配させるなんて妹・妻失格なのである。
「いいえ!疲れはしませんでしたわ。でも騎士団が追ってきている状況は流石に看過できませんから、どうしようかと思って……。魔導もすぐに身につくものでは無いでしょうし、最低限魔導機械が使えるようになれば、とか色々考えていただけですの。」
「その件なのだけれど。」
オルフェウスが急に真剣な声色で、小さな歩幅で歩くシャロンの前に立ち塞がった。
「おにい、オルフェウス様?」
(なに、どうしたのかしら。)
シャロンが立ち止まって首を傾げたのと同時にオルフェウスが、10月に入ったとはいえ不自然に寒すぎる白い息を吐いて話しだす。
「シャロンはこれから新しく買う家で大人しくしていたら全て解決する手段があると言ったら、どうする?」
「え?」
(どういうこと?騎士団が諦めるまで隠れるということかしら?非現実的な手段に思えるけれど。)
「それは根本的な解決にはならないのではないでしょうか?逃げ隠れて暮らすという意味なら、わたくし達は常に怯え、神経をすり減らして暮らさなければなりません。わたくしがしたいのは、オルフェウス様との穏やかな生活ですわ。ロノヴァンにいつまでも頭を悩ませ続ける生活は送りたくありません。」
シャロンはキッパリと言い切る。
シャロンは基本的に脳筋である。
そして意外に頑固である。
騎士団に対しては逃げも隠れもせず、ただ丸腰でいくのは無防備がすぎるから、捕まってロノヴァンの王城に行く時に武器として魔導を忍ばせておきたいな、と思っているだけなのだ。
(ロノヴァン王国に魔導は無いわ。サダルカマド立憲王国が「門外不出」と輸出規制をかけているのだから。それはすなわち、ロノヴァンは魔導に対して丸腰だということ。他国で魔導を使用すればサダルカマドの法律違反でしょうけど、でも何もせずにまたフィリップ殿下のお守りなんてごめんだもの。)
心の中でファイティングポーズをとり、フィリップやメーニャ達を物理的にボコボコにする気満々のシャロン。
そんな彼女の思惑などつゆ知らず、オルフェウスが静かに口を開いた。
「そうなのだけどね。でも、情報はいくらでもいじれるんだよ。幸い、銀髪は私達だけしかいないような珍しい髪色じゃない。最悪、銀髪の若い女性が死体で発見……なんてこともできるんだ。今のは乱暴な手段だけれどね。」
つまりオルフェウスは、なにも正面から立ち向かう必要はないと諭したいのだ。
国外追放を言い渡された時だって不意打ちのような卑怯な手段だったのだし、追い出したくせに今更シャロンを探すなんてふざけた真似をしているロノヴァン王国の方が悪いのだ。
だから、そんなものに全力で向かってかまけなくても、いくらでもやりようはある、と。
(『蒼羽』に頼めば、シャロンの情報なんていくらでも偽装できる。それが出来るから彼らはS級なんだ。だから、可愛いシャロンが傷つきにいく必要はないんだよ。)
「お兄様、わたくしの心配をしてくださっているのですね?」
「っそうだよ。私はーー」
「ならばなおさら、わたくしは正面から立ち向かわなければなりませんわ。」
兄の話を目を閉じて静かに聞いていたシャロンは、ゆっくりと瞼を上げてそう宣言した。
「……何故そう思うのか、聞いても良いかい?」
通行人のいない静かな通りで、2人は息の詰まるような問答をする。
「だって、これでわたくしが逃げれば、わたくしも同じ卑怯者でしょう?同じレベルに落ちるのは、わたくし嫌ですの。」
(それに、ずっとフィリップ殿下やメーニャをわたくしの拳で一発殴りたいと思っていましたし。なんて乱暴なことはお兄様には申し上げませんけれど。先ほどの醜い感情も合わせて殴ればきっと、気分爽快ですわ!)
ドンッと効果音がつきそうなほど堂々とシャロンは言った。
オルフェウスはしばらく厳しい顔をしていたが、一つため息をつくと、諦めたような、どこか眩しいものを見る笑みを浮かべた。
「うーん、現実的に考えたら……いや、これは野暮か。分かったよシャロン。シャロンの思う通りにしてごらん。ふふ、やっぱりシャロンは頼もしいなぁ。」
(それに、万が一シャロンのいう通りにして上手くいかなければ、最悪『蒼羽』に後処理を頼めばいいか。私はシャロンのフォローに回れば安心だろう。)
「ふふ、わたくしは頼もしいのですよおにい、オルフェウス様。安心してドーンと構えていてくだされば、わたくしのこの拳が……んんっ。いえ、わたくしの頭脳と交渉術が解決に導くのですわ!」
(やっぱり大丈夫かな。なんだか心配だから『蒼羽』に追加料金を払うか……。というかシャロン、絶対に婚姻届の話のこと忘れてるのだろうなぁ。)
シャロンの自信満々な態度に兄が微妙な顔をしていたとは気付かずに、シャロンはノリノリで私怨と私情の入った拳をぶつける計画を進めるのだった。
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