31 魔導の素養
「え、え、アーベル閣下。わたくしジェシャートヴァ大公領民になるのですわよね?ならばもし、王妃殿下にわたくしが連れ去られた時、領民への他国の干渉になるのだから、味方してくださいますわよね?」
「ハハ、シャロン嬢は面白いことを言うな。王妃が探しているのは『スノーリナベル伯爵家』のシャロンだ。そもそももうそんな人間はいないとしらばっくれるか、それが出来なければ、君達ロノヴァン王国の問題なのだから俺は干渉出来ないだろう?」
だから自分で解決しろ。
気のない風にアーベルに言われてしまえば、シャロンはぐうの音も出ない。
(嵌められた……!いえ、そうなのだけど、当たり前なのだけれど、例外なんて存在しませんでしたわ……!)
先程「日常生活で」困ったことがあったら、と言っていたことまで思い出して、もう完全に追い詰められている。
「シャロン、シャロン。大丈夫だよ、君を王妃様や王室の勝手にはさせないから。」
「オルフェウス様……!」
シャロンがダラダラと冷や汗をかきながらも必死に打開策を考えていると、背後からふわりと抱きしめられる感覚がした。
背中に硬い、というか正直に言えば薄い胸板を感じる。
それでも兄である、というだけでとても頼もしく感じるのだから不思議なものだ。
(何のために『蒼羽』に君の警護を依頼していると思っているの。こういう時のためだよ。だから、君は何も心配しなくていいんだ。)
密かに腹黒い笑みを浮かべたオルフェウスが、ギュッと更に力強くシャロンを抱きしめる。
抱きしめられたシャロンはオルフェウスの目論見など知らないので、どうにかして自分で解決しようと頭をフル回転させ、自分が王室に連れ戻さない手段を必死に考える。
「……ふふ、オルフェウス様、慰めてくださってありがとうございます。でもわたくし、どうにかして……」
あっ。
「そうだわ!大公閣下、わたくし魔導師になりたいなと思っていましたの。」
「なりたいと思うのは自由だが、素養がなければ勉強も出来ないぞ。それに、騎士団に向かって使えば国家反逆罪だろう。こちらも魔導に悪い印象を与えられることは禁止している。外交問題に繋がるからな。」
そう言って唇を引き結ぶアーベル。
だが、そんなものはポーズだけだと、シャロンは分かっている。
「そうなのですか。それで、素養があるかどうかってどうやったら分かるのですか?」
「無視するな。……基本的にはサダルカマド王都にある魔導庁舎に行かないと分からない。はぁ、そこで俺の出番だ。俺が戦争で大将軍になっているのは、武魔両方の勝手が分かるからだ。あとは、分かるな?」
重苦しく無表情で1つ頷き、サムズアップするアーベル。
とても頼もしい、いや頼もしすぎる。
「わぁい、アーベル閣下太っ腹ですわね!ついでにお兄様の素養があるかも見てくださいませ!」
「私の?」
後ろでシャロンにくっついていたオルフェウスが驚いたような声をあげる。
アーベルはと言えば、厳しい顔が嘘のような呆れ顔だ。
「しれっと要求を増やすな、王子妃教育の交渉術が生かされすぎだろう……。そうだ、君の義妹はカーテシーもまともに出来ないらしいぞ。君が第二王子の手網を握り続けることを王室は期待していただろうに、自ら追い出すとはなぁ。」
メーニャや王室の話を出されると、自然とシャロンの猫目の目付きが鋭くなる。
「言わないでくださいませ。わたくしはただ、お兄様と穏やかに、イチャイチャラブラブと隠居生活を送りたいだけですわ。」
そう言うと、アーベルが何かに気がついたようにシャロンとオルフェウスを交互に見やった。
「もう深くはツッコまないが、まさか、オルフェウス殿も共に除籍になったのは……」
「それは違う。流石に深読みのしすぎだよ、アーベル公。私達はあの家で厄介者扱いだったからね、体良く追い出されただけだ。まあ、父上もこんなことになるとは思ってもいなかっただろうけれど。」
薄く微笑みながらオルフェウスが言うと、アーベルは小さな声で「目で表情が分からないあたり、やはり食えない御仁だな……」と呟いた。
「ともかく、だ。俺は君の今後には干渉しないが、一領民の仕事の素養確認くらいは越権でもなんでもない。手を出してくれ、すぐに見よう。」
(さすが、仕事の早い方。2を聞けば9くらいまで理解してくださる方で良かったですわ。)
「感謝いたしますわ、大公閣下。……こう、ですか?」
シャロンが手のひらを上にして手を差し出すと、その上に小さな石が乗せられる。
アーベルが、その石に軽く触れながら何事か唱えると、パァッと石が光り輝く。
「わっ、何か光っているのだね?」
光の明暗は分かるオルフェウスが、驚いたようにシャロンをギュッと抱え直す。
「ええお兄様、わたくしの手のひらに乗せられた石が光っているんですのよ。これも魔導機械なのでしょうか?」
しばらく無言で光る石を見ていたアーベルは、もう一度石に触れながら数節唱え、光を消した。
元の午後の太陽に照らされた明るい応接室に戻る。
「……シャロン嬢は素養があるな。学べば良い魔導師になれるだろう。」
「やったわ、お兄様!わたくし素養があるのですって!」
「ふふ、すごいねシャロン。私も鼻が高いよ。」
キャッキャッと笑い、頬を擦り付け合う2人を見て砂を噛むような表情をするアーベル。
(この石は最新で試験導入されたものだから、本来はこんなに早く分かるものじゃないんだが。きちんと使えている証明にはなるか……。しかし、この2人を見ていると虚無になるのは何故なんだ?)
そう思ってから、新婚のイチャイチャを見せつけられているからだと、そのよく回る頭で気がついてしまったアーベルは、奥歯を噛み締めて無表情になった。
「オルフェウス殿も手を出してくれ、すぐに済むから。」
「……?」
(なんだか顔が将軍寄りになりましたわね。緊張することでもあるのかしら。)
シャロンがオルフェウスの腕の中で首を傾げるも、よく分からない。
分からないことは考えても仕方が無いので、そのままオルフェウスの素養の行方を見守る。
「分かったよ、こうかな?」
しばらくすると、オルフェウスが持っていた石も光り出す。
「おっと。2人とも素養があったとは。……他国からの移住者全員に魔導の素養検査を義務化するか?」
ブツブツと自分の世界に入ってしまったアーベルを他所に、オルフェウスはぼーっとしていた。
「オルフェウス様も素養があるのですって!わたくし達2人とも魔導師になれますわね!えへへ、良かったぁ」
シャロンが興奮気味に話しかけるも、オルフェウスは微動だにしない。
流石に不審に思ってシャロンが抱きしめられていた腕から抜け出し、くるりと振り返ってオルフェウスの肩をポンポンと叩こうとした時。
見上げたオルフェウスの頬に、光るものが流れているのに気がついた。
明日31日から1月3日まで、私生活の都合上更新をお休みさせていただきます。
中途半端な所で申し訳ございません。次回更新は年明け1月4日からです。
では、良いお年を。
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