24 たわむれ
イチャイチャさせたい欲に負けました。
オルフェウスの少し高い体温と、外に出ていたシャロンの少し低い体温が溶け合った頃。
どちらからともなく少しだけ体を離して、2人は額をコツンと合わせて微笑みあう。
「……ん。ふふ、ありがとうシャロン。私のわがままを聞いてくれて。」
「いいえお兄様。わたくしが大好きなお兄様にしたかっただけですもの。わがままではありませんわ。」
「ふふ、シャロンは優しいなぁ。」
オルフェウスがシャロンの頬を触って、撫でる。
彼が無意識にホッと浅く息を吐いたのは、シャロンが笑っていると、触って確証がもてたからだろうか。
「明日には、体調は戻るはずだから。そうしたら、ジェシャートヴァ大公に面会するための準備をしようか。ホテル暮らしももうすぐで終わりだね。」
オルフェウスが長いまつ毛をほんの少し震わせ、額をくっつけたまま小さく呟いた。
「……ええ。ジェシャートヴァ大公───アーベル閣下は、とても素敵な方ですの。」
「素敵?ふふ、それは私よりも?」
意地悪するよ、と宣言するみたいな低くて甘い声。
シャロンの頬を撫でる指が、戯れにシャロンの輪郭や鼻の脇の窪み、喉なんかを探って辿るから、シャロンは思わず体をよじってしまう。
「お兄様、くすぐったいわ!……もちろん、お兄様が1番素敵に決まっているでしょう?言わなくても分かっていらっしゃるくせに。」
「君の口から聞きたいんだよ、シャロン。君の、この唇から出る音が聞きたいんだ。」
シャロンの輪郭をなぞっていたオルフェウスの指が顎を持ち上げて、ふにふにと親指で唇を何度か押す。
(……口の中に、入れてみたいわ。)
シャロンはふと、自分の唇をぷにぷにと触るオルフェウスの指を食んでみたくなって、白魚のような、けれど男性らしく骨ばった指を唇でそっと挟んでみた。
普段なら恥ずかしくて絶対にこんなことはしないけど、今は何故かできたのだ。
頭がフワフワとして、何でもできる気がしたから。
「……!んふ、シャロン。かわいいね、私の指を吸うのは何年ぶりかな。」
グイ、とオルフェウスが親指を自らシャロンの口の中に押し入れる。
シャロンが驚いてオルフェウスの顔を上目遣いで見ると、彼の口から僅かに零れる白い歯が見えた。
(お兄様はいつも、笑う時口を閉じるのに。真珠のような歯だわ、とても綺麗。お兄様はどこもかしこも綺麗なのね。)
更に目線を上に持っていくと、兄の長く、小刻みに震えるまつ毛と、上気した頬。
ここでようやく、オルフェウスの凄絶な色気が、シャロンが今クラクラしている原因だと気づいた。
しかし、今はもう少しだけ浸っていたい。
そう思った。
でも、そんな兄妹と夫婦のあわいのような戯れの時間は、そう長くは続かないもので。
シャロンが黙って、兄の顔を観察しながら親指を舌の先でチロチロと舐めたり、甘噛みして戯れていると、オルフェウスがふと思いついたように舌を押してきた。
きゅっ。
「んぁ」
にちゃ、と少しだけ間抜けな音と、舌に感じる圧迫感。
喉奥から無意識に声が出て、シャロンは驚いたのと合わさって、少しだけ強くオルフェウスの親指を噛んでしまった。
コリッ、と関節を噛む感覚がシャロンの顎に伝わる。
「いっ……」
「ご、ごめんなさいお兄様!」
慌てて親指を口から離すと、唾液にまみれて少しふやけた指がシャロンの目の前に現れた。
(や、だ、わたくしこんなことしてたの……!?)
頭が冷えたせいか急に恥ずかしくなって、持っていたハンカチで、ゴシゴシと指に付いていた唾液を拭うシャロン。
「シャ、シャロン。そんなに擦らなくても……」
「嫌ですっ!あぁ、お兄様痛くありませんか、というかとても恥ずかしいことをしてしまいました。指しゃぶりをする幼子でも無いのに……!」
目をグルグルにして焦るシャロン。
その焦りが、更にハンカチの摩擦数を上げていく。
「シャロン、そんなに焦らなくて大丈夫だから。ね?私が意地悪をしすぎてしまったせいだから、君は何も悪くないよ。」
「それに元はと言えば、私がジェシャートヴァ大公に嫉妬したのが原因なのだし。アーベル公の名声や人気は、私でも知っているくらいだ。……君も彼の事が好きなのではないかと、試してしまった。」
オルフェウスが優しく微笑むだけで、周りに花が咲いたように穏やかな気持ちになる。
そんな彼以上に好きな人が現れるわけないのに。
(お兄様が1番だってずっと言ってるのに不安になったのね。……あら?わたくし、意外と好きって言ってないかもしれないわ?)
「アーベル公は───」
「お兄様、わたくしお兄様のことが大好きですわ!」
「え?」
善は急げ、とばかりに兄の発言を遮って告白したシャロンは、間の抜けたような兄の声にカァっと赤くなる。
「な、なんでも無いですわ!お兄様のことが好きってだけ!」
(お兄様はジェシャートヴァ大公の話を進めようとしていらしたのに!なんで今言ってしまったの!バカなのわたくし!)
再び目をぐるぐると回し始めたシャロン。
ハンカチを持つ手が小刻みに震え、冷や汗と頬の体温が上がるのが止まらない。
「……ふふ、あはは。」
兄の鎖骨にもたれかかったままプルプルしていたシャロンを感じ取ったのか、オルフェウスが堪えきれないというように笑い始めた。
「お、お兄様?」
「ふは、あぁもう。シャロンが可愛くて仕方がないな。……私の可愛い妹で、可愛い奥さん。」
先程までのどこか退廃的な雰囲気が再び戻って来たことに気づいたシャロンは、オルフェウスから僅かに距離を取ろうとしたが、もう遅い。
「はぁ、シャロン。私の大事な唯一のお嫁さん。───私も、君のことを愛しているよ。」
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