22 ユアン
「……とにかく、助けてくれて感謝するわ。貴方がちょうどここを通りかかってくれなかったら、今頃わたくしの顔はボロボロだったでしょうから。あ、わたくしはシャロンと言う……
「存じておりますよ。」
バチリとキメ顔でウインクしたユアンをきっちり無視したシャロンは、感謝を述べてさっさとホテルに帰ろうとした。
が、何か重大なことを聞き逃がした気がする。
「え?貴方何か言ったかしら。」
思わず、歩こうとしていた体が止まって、背の高いユアンの顔をバッと見上げてしまう。
「いいえ、何も?」
しかしユアンに「言う気はないぞ」という深い笑みを浮かべられては、シャロンはそれ以上聞けなかった。
「じゃあわたくしは人を待たせているから。助けてくれてありがとう。」
諦めて一つ、寒さで白くなったため息を吐いた後、シャロンは愛しのお兄様の元へ再び帰ろうとした。
しかし。
ヒョイ。ヒョイ。……。
「ちょっとユアン。退いてちょうだい。それともわたくしに何か用があるのかしら。」
シャロンがユアンの横を通り過ぎようとすると、ユアンがニコニコしながら進路を塞いでくるのだ。
顔が良いのは認めるが、せっかくの王子様フェイスが無駄になるほどの胡散臭い笑みである。
「シャロンお嬢様。俺に恩返ししたいな、とか対価を払わなきゃ、とか無いんでしょうか?」
「た、対価?善意で助けてくれたんじゃ……」
(なんだか寒気がするわね。……この男、顔は笑っているのに目が笑っていないわ!)
というか、すっごくギラギラした目でこちらを見てくる。
「ふふ、確かに他のメンバーなら『シャロン様が無事なら良かったぜ。じゃ!』と言うのでしょうけれどね。あいにく俺は、そんなに寛大じゃ無いんです。ですから、」
にこおっと笑みをさらに深めたユアンは、彼の顔の横に右手を持っていくと、親指と人差し指で丸を作った。
「ほら、対価。払って頂けないですか?」
(この男、守銭奴だわ……!)
端的に言って、イケメンが台無しである。
「お、お金が欲しいっていうこと?」
「そういうことですね。俺はお金が大好きで、何よりも愛していて、金庫と毎晩一緒に寝ているくらいなので。」
「重症ね……」
そして、キラキラとした笑顔でとんでもないキャラ崩壊をしてくるタイプである。
「お嬢様にはそういうの、無いんですか?」
「おにい……夫ね。」
「お、即答ですか。さては惚気ですね?お互いに愛が重すぎですねぇ。」
「?」
「いえ、こちらの話です。で?俺に愛しいヒトを払おうって気になりましたか?なりましたね?」
両手をワキワキさせるユアン。
もうシャロンの中の認識は、『王子様みたいなイケメン』から『お金が大好きな胡散臭い笑顔のS級冒険者』にランクダウンである。
「分かった、分かったから。払えばいいんでしょ。はい、銅貨2枚ね。」
「うーん世知辛い。これじゃパン一斤しか買えませんよ。」
「好きな人がどんな姿でも愛しなさいよ。銅貨1枚だろうと、貴方の大好きなお金には変わりないでしょ。」
ユアンをジト目で睨みつつ、銅貨2枚を指3本でつまんで手渡すシャロン。
シャロンは、彼女とは愛し方が違うユアンを軽蔑する目をしている。
「う、うーん。そうなんですが、うーん……。やっぱりたくさん感じられる方が良いじゃないですか。」
シャロンの屁理屈に負けたくないユアン。
「ね?」と親指と人差し指の腹をスリスリと擦り合わせている。
「はぁ……。じゃあ銅貨3枚ね。これ以上はあげないわよ。」
「酔っ払い3人から助けてもらった人の発言とは思えない……。分かりましたよ、毎度ありがとうございましたぁ。」
ハァっとわざとらしい大きなため息を吐いたユアンは、薄く上品な唇を尖らせながらも、銅貨3枚をきっちり受け取った。
「依頼じゃなきゃ、こんなケチなお嬢様を助けませんよ……」
何やらブツブツと言っているが、声が小さすぎて聞こえない。
(なんだか、貶されている気がするわね。)
「何か、言ったかしら。」
「い、いいえ?俺は偉いので、お嬢様の宿泊先までお送りいたしますよ。」
笑顔で青筋を立てているシャロンを見て、綺麗な緑の瞳を見開いてワタワタと手を振るユアン。
(本当にS級なのか怪しいわね……。こんな小娘に睨まれたくらいで慌てるなんて。)
正直、酔っ払い達を一瞬で気絶させていなければ、『蒼羽』を騙る詐欺師だと思っていただろう。
「はーいお嬢様、はぐれないでくださいね。俺からはぐれてまた酔っ払いに絡まれても、俺はもう助けませんよ。」
(この男、本当にいちいち癪に触るわね……!)
シャロンはレアな体験をしたはずなのに、何故か全く嬉しくなかった。
「はい、到着です。」
シャロンの機嫌が悪いことを悟っていたのか、ユアンは帰路の間静かだった。
歩いて10分ほどですぐに辿り着く距離なので、正直ホテルまで送らなくても良かったのだが、シャロンはムシャクシャしていたのでありがたくユアンの時間を使わせた。
「ありがとう。……そういえば、貴方達のパーティもこのカラユイにいる、ということ?」
ホテルのエントランス前でユアンに向き直ったシャロンは、気になっていたことを尋ねてみた。
なんだかんだ、珍しい人間にあったのだ。
聞けることは聞いておきたい。
「ああいえ。違いますよ。俺は『蒼羽』に属してはいますが、基本的にはソロ活動なんです。ほら、パーティメンバー全員で依頼を達成しちゃうと、得られる報酬を3分の1にしなきゃいけないでしょう?それは嫌なので。」
「ああ……。貴方ブレないわね。そこだけは認めてあげるわ。」
あっけらかんと言うユアンにもはや慣れてしまったシャロンは、むしろその一貫した守銭奴に関心する。
「じゃあ、今は依頼でここに?」
「はい、そういうことです。だから、他の依頼は当分の間受けられませんよ。お金を積んでくれない限り。」
また顔の横でお金のポーズをするイケメン。
(モテる顔立ちなのに、すぐにフラれてそうね、この人。哀れだわ……。)
「今のところ依頼する予定はないから結構よ。それじゃ、今日はありがとう。」
「いいえ、お気になさらず。……仕事なので。」
シャロンに向かってニコリと笑ったユアンは、シャロンが瞬き1つしている間にどこかに消えてしまった。
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