19 ロノヴァン王国視点(1)
今日はアチラ側です。
「フィリップさまぁ!メーニャが来ましたわぁ!」
さて、ところ変わってここはロノヴァン王国の王城である。
目障りなシャロンを罪人として追い出してからというもの、メーニャの機嫌はずっと最高潮……というわけでもなかった。
「おお、愛しのメーニャ!よく来たな!」
メーニャが第二王子フィリップの部屋のドアを、断りもなく勢いよく開け放つと、部屋の主人であるフィリップが両腕を広げてメーニャに近づいてきた。
「どうしたんだ?先ほど出て行ったばかりなのに、もう俺が恋しくなったのか?」
メーニャのどこもかしこも柔らかい体を抱きしめ、悦に浸るフィリップ。
そんな彼の腕の中で、メーニャはさめざめと泣き始めた。
「フィリップさまぁ……!礼儀作法のおばあさんが私を虐めてくるんですぅ!ううっ……ぐすっ」
「マレニア夫人が!?」
「そうなんですぅ。メーニャ何も悪いことしてないのに、あのおばあさんに怖い顔で睨まれるし、いっぱい怒られるし……。もうやだ、メーニャこのままだとまた弱っちゃいます!」
メーニャが義姉・シャロンの代わりにフィリップの婚約者となってから、はや1週間。
シャロンをフィリップの独断で国外追放に処したことに国王や王妃は酷く怒った。
だが、元々権力集中を避けるために公・侯爵ではない伯爵家の娘を婚約者にしたくて始まった婚約だったので、同じ家の娘ならばまぁ……という形で有耶無耶になったのだ。
王家としてもスキャンダルは公に罪を糾弾したことだけで終わらせたかったし、何よりシャロンの生家であるスノーリナベル伯爵家当主が「是非ともメーニャを!」というからどうにかなった形だ。
なので、王達もスノーリナベル伯爵お墨付きのメーニャを将来の義娘として受け入れることにしたのだ。
だが。
メーニャはすこぶる態度が悪かった。
彼女は持ち前の美貌と可愛らしい笑顔は魅力的だが、わがままで物欲ばかりの派手好きで、気に入らないことは泣いて解決しようとするタイプの人間だったのだ。
食事のマナーでさえ「本当に伯爵家の娘か?」というようなレベルのものだったので、急遽マナー講師が付けられるようになったのだが、メーニャは「いじめてくる」「厳しくて心が辛い」などの理由をつけてフィリップに泣きつく。
フィリップもフィリップでメーニャにベタ惚れのため、彼女のやることなすこと全肯定で、第二王子としての権力を振りかざし講師達を辞めさせるのだ。
先ほどのマレニア夫人でマナー講師は3人目。
1週間で3人も講師が変わり、そしてそれを息子が助長させている異常事態に、王達は密かに頭を抱えていた。
「フィリップさまぁ…!マレニアおばあちゃんを辞めさせてください!」
「メーニャ、かわいそうに。メーニャを傷つける者は何人たりとも許さない。早速解雇して……」
「ちょーっと待ちなさいフィリップ!」
フィリップとメーニャが部屋の真ん中で政務もほっぽり出して抱き合っていると、半開きだったドアが開き、息を切らした王妃がやってきた。
「マレニア夫人を辞めさせることは許しませんよ!」
「母上!?母上、聞いてください。マレニア夫人はメーニャをいじめたのですよ、解雇が妥当です」
「あなたこそちゃんと聞いたの?そこの娘が『わざわざ紅茶を飲む練習なんてしたくない』とかわがままを言った挙句、諌めたら『いじめられた』と泣き喚いた話を!」
「メーニャがやりたくないと言っていることを強要するのが、悪事でなくてなんだと言うのです母上!それを聞いて確信しましたよ、マレニア夫人は極悪人だってね!彼女は修道院送りにしよう。」
「フィリップ!」
王妃が悲鳴のような声を上げるが、フィリップは無視する。
「わぁい、フィリップ様大好き〜!あ、それとね、メーニャ欲しいブレスレットがあるんですけどぉ……。」
「どれだ?買ってあげよう。……ということですから母上。お引き取り願おう。」
「フィリップ、あなた本気で言っているの?」
「俺はいつでも本気ですよ、母上。特にあのシャロンを追い出した日から。」
「……このことは陛下にも申し上げますから。フィリップ、メーニャ嬢のこといはあなたが責任を持ちなさい。間違っても後悔なんてしないように。
「言われなくても、未来の妻のことは俺が責任を持ちますよ。もういいですか?俺はメーニャといたいんだ。」
バタンッ!
第二王子の部屋のドアが無常に閉じられた。
「はぁ……」
王妃は閉ざされた扉の向こうで大きなため息をついた。
第二王子として甘やかしすぎた節はあったものの、ここまで酷くなっているとは母である王妃でさえも思っていなかったのだ。
「まずいわ……。早急にメーニャとかいう娘をどうにかして、シャロン嬢に帰ってきてもらわないと。フィリップのお目付役として婚約を結ばせたのに、まさかあの子が国外追放させるとは思ってもみなかったわ。ああ、同じ伯爵家の娘だからってすぐに了承するべきじゃなかった……。」
王妃はキリキリと胃を痛めながら夫である国王に相談し、なんとかシャロンを取り戻せないか算段を考えるのだった。
(そういえばあのメーニャとかいう子。そもそもスノーリナベル伯爵は再婚したのだったかしら。再婚の許可を出した記憶が無いのだけど……。陛下が出したのかしらねぇ。)
胃が痛い話ですね、本当に。
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