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覚えのない罪で国外追放されたブラコン令嬢は、盲目の兄と新生活を謳歌する  作者: 朝倉 ねり


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17 勇者と魔王

「そ、それでハンクは冒険者なのかしら。」

 シャロンが気を取り直して尋ねる。

「えーっ!おねーちゃんそんなことも知らないの?ハンクは"ゆうしゃ"なんだよ!」

「ゆ、勇者?」

(そんなお話あったかしら。勇者と魔王、なんて創作話にはたくさんあるし……)


「そう!ハンクは仲間と一緒に悪いドラゴンの"まおう"を倒しに行くんだ!まおうは魔物とか、さらってきた人間達をいっっっぱい働かせてたから、みんなに嫌われててさぁ!」

(ん?労働環境の問題なの?いや確かに問題だけれど、こういうのって人間を殺した…とかではなくて?)

「それで、ハンクはみんなに訴えたんだ!『ちゃんとしたルールで働こう、王様が乱暴にルールを振りかざすのは良くない』って!」

(???)

「それで悪いドラゴンを洞窟の中に封印して、みんなをたくさん働くのから解放したハンクは、新しい王様になったんだよ!」

「え、それは、あの?どういうこと……?」

 思っていた方向に話が転がらなさすぎて大困惑のシャロン。

 眉根を寄せて必死に考えていると、真横から「ふっ……」と笑い声が聞こえた。


「シャロン。ジェレミーの話は、サダルカマド立憲王国の建国神話じゃないかな……ふふ。」

「そ、そうです。困惑させてしまって本当にごめんなさい!」

 いつから聞いていたのか、オルフェウスが笑いを堪えきれないまま解説してくれる。

 ジェレミーの母も謝りながら同意する。

「起きてらっしゃたのですか?というかよくご存知ですわね、オルフェウス様。」

「ふふ、拗ねているシャロンも可愛いね。」

 むくれているシャロンの頬を探し当て、ツンツンと指で突くオルフェウス。

 その声や仕草は酷く甘かったが、シャロンは拗ねるのに忙しかったので全く気づかなかった。


「立憲王国の『立憲』の理由がよく分かりましたわ……。つまり、ハンクはサダルカマドの初代国王かしら?」

 確かに、サダルカマドはロノヴァンと比べても法整備がきちんとしており、王が法の支配を受けているため「流石『立憲』と言うだけあるわね」と思っていたが、まさかそんな理由からだったとは。

「そう!おねーちゃんよくわかったね!」

「あ、アハハ……」

「それに加えてね、シャロン。ハンクの仲間達は、今のサダルカマドの主要貴族達なんだよ。今から私たちが向かうジェシャートヴァ大公家の初代は、魔王ことドラゴンを洞窟に封印する役割をになった魔導士だという伝説がある、と聞いたな。」

(お兄様、なぜそんなことを知っているのかしら。本も読めないのに……。)

 シャロンが疑っているのを感じ取ったのか、オルフェウスが言葉を続ける。


「といっても、私も数日前に知ったばかりなのだけれどね。ギルドに行った時に冒険者の集団が話しているのを偶然聞いただけだよ。」

「まぁ、そうだったのですか。ごめんなさい、疑ってしまって。」

 兄オルフェウスは以前、「視覚を失った代わりに聴覚など他の四感が発達したんだ」と言っていたではないか。

「シャロンの立場なら、疑問に思うのも当たり前だよ。大丈夫だからね。」

「きゃあ、頭を撫でるのはダメです!髪の毛がグシャグシャになってしまうわ!」



「そういえば、お二人はジェシャートヴァに向かわれるのですね。」

 しばらく経って、ジェレミーの母がシャロン達にそう話しかけた。

「そうなの。良いところだと聞いたわ。」

「はい。欠点は寒すぎるくらいで、本当に良いところですよ。寒すぎるのも、家の中は魔導機械で暖かくできますから問題ないですし。」

「へぇ、やっぱり寒いのね。南なのに寒いなんて、本当に珍しいわ。」


「はい。確か地下に氷のような働きをする鉱物が大量に埋まっているらしくって。それで寒いらしいんです。」

「え?」

(ギルドの魔導士は、山から吹き下ろす風が原因だって言ってなかったかしら?記憶違いかしらね……)

「どうされましたか?」

 心配性らしい母親は、急に驚いたシャロンに不安になったのかオロオロしている。


「ああいえ、なんでもないのよ。ちょっと考え事をしていただけ。……ねぇ、そういえばわたくし達はこの国の出身ではないのだけれど、魔導士になれるのかしら?やっぱり機密情報ばかりだから難しいのかしらね?」

「うーん、魔導士は才能がないとなれないと聞いたことがあります。外から来た方でも、多分魔導士になる時に機密保持の魔導をかけられるから、出身国はそこまで重要ではないのではないでしょうか?ごめんなさい、あまり詳しくなくて。」

「ううん。貴女、わたくしより余程詳しいじゃないの。良いのよ。」


 シャロンはサダルカマドに来てから、密かに魔導士になりたいなと思っていたのだ。

 これまでの17年の人生は、淑女教育や妃教育という「ならなければならないもの」のためでしかなかった。

 けれど、これからはただのシャロンになれるのだ。

 自分がやってみたいと思ったことをやってみたい。

(それに、魔導機械でお兄様の生活の補助もできるようになるかもしれないし!この世界は、障がいがある人には厳しすぎるわ。わたくしはお兄様を独り占めしたいけれど、お兄様に1人で外に出てお兄様の人生を楽しんで欲しいんだから。)


 本でさえ、オルフェウスはシャロンが読み聞かせなければ読めない。

 散歩も道がデコボコしていたり、階段のことを思うと1人で歩かせるのは不安だ。


 シャロンはオルフェウス限定のブラコンでヤンデレだが、それは愛ゆえである。

 シャロンの全ては兄を幸せにするためにあるのだ。

(お兄様が幸せになるのがわたくしの幸せなんだから!あとお兄様を独り占めして、お兄様の笑顔を見て、お兄様とイチャラブ生活を送れれば言うことないのだわ!)

 シャロンは、愛と私欲の混じった決意を新たにするのだった。

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