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覚えのない罪で国外追放されたブラコン令嬢は、盲目の兄と新生活を謳歌する  作者: 朝倉 ねり


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11/47

11 宝飾品店にて

「そうですねぇ。奥様は繊細な美貌でいらっしゃいますから、細い銀縁のブローチや白金(プラチナ)の指輪なんかがお似合いではないでしょうか?そういえば、結婚指輪はございますか?あれば、そちらとのデザインの兼ね合いなんかも考慮いたしますよ。」


「おおお、オルフェウス様!わたくしは結構ですから!」

 慌てて拒否するも、オルフェウスがシャロンを手で制止する。

「店主。私はまだ彼女に指輪を贈れていなくてね。不甲斐ない限りなのだけれど……。シャロン、君に贈り物をしたいんだ。君の好きなものを選ぶといい。」

 君に送りたいんだ。

 そう言って、オルフェウスが優美に笑った。


 売却目的のはずだったのに、いつの間にかお買い物が始まってしまった。

 シャロンはこれがオルフェウスの「夫婦ということの違和感をなくす」ための演技だということも、その小道具として指輪が必要だということも頭の中では理解していた。

 でも。

(大好きなお兄様に宝飾品を贈られる、なんて嬉しい。夢みたいだわ。)


 シャロンはまだ17歳の少女だ。

 好きな人にプレゼントを贈られることに素直な憧れも持っている。

 特にオルフェウスは、今までほとんど外に出ることはなかったし、家で自由にできるお金も商人もほとんどなかったので、プレゼント以前に私物が少なかった。

(お兄様からの初プレゼントなんて!嬉しくてわたくし死んでしまうわ!)

 だから、誕生日プレゼントもほとんど贈られたことのなかったシャロンには、大変喜ばしい展開なのである。

 シャロンは無意識に、いつもは冷たいとか無表情とか言われる顔を綻ばせ、その笑みが店主の商売魂に火をつけた。



「それでは奥様!説明させて頂きますね。こちらのダイヤモンドは……」

 そこから1時間半ほど。

 シャロンはひたすら店主からの猛アピールを受け、ついに1つの指輪を選んだ。

「そちらでよろしいですね?奥様のたおやかな指にとてもよくお似合いですよ!」


 シャロンが選んだのは、指をはめる「アーム」という部分が細いプラチナでできた、小さなアメジストを3つ嵌め込んだ指輪だった。

 そこまで値段が高いものではないが、小ぶりで可愛らしく、シャロンの一目惚れだった。

 何より。

(お兄様の髪と、目の色……)

 指輪をつまんで光に透かすとキラキラ輝く銀と紫。

 それにシャロンは満足感と気恥ずかしさを覚えた。


「シャロン、選べたかい?」

 ニコニコと尋ねてくるオルフェウスはいつもの「お兄様」で。

 本当に望んでプレゼントしてくれたみたいだと、錯覚しそうになる。

「はい。プラチナとアメジストが美しい、繊細な意匠(いしょう)の指輪にしようと思います。」

 そう言うと、オルフェウスが驚いたように口を開く。

 薄い唇を数回上下させて、結局何も言わずに困ったように眉を下げて笑った。

(あ。迷惑だったかしら。)

 そう思ったけれど、もう遅い。

「指輪を身につけられた奥様は本当に美しいと思いますよ!」

「そっか。いや、シャロンは本当に綺麗だから、指輪をつけた君の姿も見たかったな。」

 オルフェウスはそう言って、くしゃりと顔を歪めて無意識に自分の目をなぞる。


 しばらく自分の瞼を撫でていたオルフェウスがふと、右手をシャロンの方へやって……(くう)を掴む。

「……あれ?格好がつかなくて恥ずかしいな……シャロン、左手を出してくれないかな。」

 どうやらシャロンの手を握ろうとしたが、場所が分からずに失敗してしまったらしい。

「?はい。」

 勝手に意気消沈していたシャロンは、慌てて言われるがままに左手を差し出し兄の手を握る。

「ふふ、シャロン。握ってくれるのは嬉しいけれど、今はこう。」

 オルフェウスは彼の右手を握っていたシャロンの左手を丁寧に外すと、左手でシャロンの指先を軽く握る。


「遅くなってごめんね。」

 その言葉と共に、シャロンの左手に冷たいものが滑っていく感触がした。

(ゆびわ、指輪?お兄様が、はめてくださっ、え??)

「うん、綺麗な指だ。美しいね。」

 そのままシャロンの指を、色白だが大きくて節くれだった指が撫でる。

「ヒュウ!お熱いねぇ!僕も今日は嫁さんに花でも買って帰ろうかな!」

 店長が冷やかしている声が聞こえるけれど。

 今はそんなことどうでも良い。

「ぁ、りがと、う、ございます……」

 そう返すので精一杯だった。


 今、絶対に顔が真っ赤だ。

 分かってる、分かってるけどでも。

(嬉しい……!とても、嬉しいわ!やっぱりお兄様が世界一だ、わたくしの運命なんだわ。)

 ニヤける顔を抑えられない。

「うん。私は視えないけれど、撫でたり、雰囲気で分かるんだ。すごく綺麗だよ。」

 どうしよう、泣きそう。

 目頭が熱い。

「ありがとう、ございます……」

(今日、宝物が増えました。わたくしの命よりも、大切なものです。)



 あれからどうやって宝飾店から外に出たのか分からない。

 けれど、わたくしはずっと左手の薬指を見てニヤニヤして、中指と小指の側面で感じる冷たい感触にニヤニヤした。

「気に入ったものがあって良かった。シャロンが嬉しそうで、私も嬉しいよ。」

「はい!とても嬉しいですわ!改めて、本当にありがとうございましたお兄様!」

「オルフェ……まぁ良いか。私達の初めての大きな買い物、かな。これからもっと大きな買い物をするけれど。」

「大きな買い物?」


 ピンと来なかったわたくしを見下ろして、お兄様は微笑んだ。

「私達が住む家だよ。宿屋を転々とする生活は負担が大きいだろう?この辺境伯領に住むわけではないから、実際に買うのは当分あとだけれど、その下準備をしないとね。」

 だからまずは私達の登録をするために、ギルドに行こうか。

「ぎるど?」

 耳慣れない言葉に、シャロンは首を傾げた。

次回、ギルドへいく前にオルフェウス視点を一度挟みます。


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