表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覚えのない罪で国外追放されたブラコン令嬢は、盲目の兄と新生活を謳歌する  作者: 朝倉 ねり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/47

10 グランバートン辺境伯領城下

 昨日買った服に着替えた後、シャロンとオルフェウスは初めて明るい街に繰り出した。


『グランバートン辺境伯領城下』

 真夜中の静かな雰囲気も好きだったが、今は人々の活気や素朴な幸せに溢れていてシャロンは楽しくなった。

 貴族令嬢だった時、そしてフィリップの婚約者だった時、治安の問題などでこんな市街を歩くなんて出来なかったから。

 ただ雰囲気を感じるだけでも、胸に開放感と温かい気持ちが湧いてきて、シャロンは無意識に顔を綻ばせる。


「おにいさ……オルフェウス様、ここはとても素晴らしいところですわ。」

 今日もシャロンはオルフェウスを導く。

 彼女の、彼女だけの特権。

「うん。音を聞くだけで、活気にあふれた素敵な場所だと分かるよ。人々の軽快な足音、荷馬車が沢山行き交う音……。良い匂いもするしね。食事が楽しみだよ。」

 そう言って頭一つ分背が低いシャロンへ、下を向いて微笑みかけるオルフェウスのなんと美しいことか。

(多分、神様はお兄様の素敵さに嫉妬したからお兄様から視力を奪ったんだわ。もちろん目が見えなくても、お兄様を損なうものは何も無いけれど!)

 シャロンは、今目の前にある幸せに夢中になることにした。


「美味しかったですわね、おに……オルフェウス様!」

「そうだね、『買い食い』という行動を取ったのは初めてだけれど、新鮮で楽しい経験だったよ。」

「皆さん歩きながらパクパクと食べられるの、本当にすごいですわ。これは、習得のために通わなければなりませんね!」

「はは、よほど気に入ったみたいだね?」

「ええ、『クレープ』というものは、スイーツとしても軽食としても食べられる万能な食品なのですね。初めて食べましたが、もちもちとした生地が本当に美味しくて!……ぁ、お兄様はあまり気に入られませんでしたか?」


 オルフェウスが伯爵家で部屋に幽閉されていた時、話題を持ってくるシャロンの話を聞く役のことが多かったから、あまり自分のことを語らない。

 そもそも語る習慣がないのだ。

(わたくし、本当はお兄様のことを何も知らないのかも。)

 好きな食べ物も、趣味も、好きな人も。

 シャロンは知らないことばかりだ。

「ううん。私もクレープを気に入ったよ。君が気に入ったなら、また食べようか。」

 そう言って、オルフェウスは笑った。

(いつだって、お兄様はわたくしに合わせてくださる。)

 今まで嬉しかったはずなのに、昨日から湧いてきた寂しさやお兄様との繋がりの急な心細さが、どんどん膨らんで胸がキュッとなってしまう。


 シャロンは昨日沢山のものを一気に失った。

 王子の婚約者という地位、伯爵令嬢の地位、家、国、オルフェウスとの『兄妹』という絆。

 望んでいないものもあったけれど、それでも「シャロン・スノーリナベル」という人間を形作るにはとても重要な素材だった。

 新しく得たものは、オルフェウスとの『偽の夫婦』という地位とスーツケース一杯分のお金だけ。

 その『所属感』の欠如が、シャロンの心を不安定にさせていた。

(お兄様に甘えたら、このモヤモヤも無くなるのかしら。わたくしが、宙ぶらりんになってしまったみたい。落ちるのが怖いから、お兄様に縋りたいな。)

 結局、シャロンにはオルフェウスの隣にしか居場所がなくて、彼に頼ってしまうのだ。



◆◆◆



「ふむ……。素晴らしい宝飾品ですな。これなら合わせて金貨40枚は下らないでしょう。」

 鬱々とした気分を振り払って、シャロンたちは昨夜ハワードに教えてもらった宝飾品店にやってきていた。

 店主はハワードと比べると若く、40代後半くらいだろうか。

 人好きのする笑みを浮かべていて、目利きの腕も確かなようだった。


「ハワードさんのお知り合いだと聞いておりましたよ。今朝彼がわざわざここに来て、『若い男女が来たら色をつけといてくれ』と言いにきたのですからねぇ。はは、余程お二人は気に入られたようで。」

「まぁ、そうだったの。ミスター・ハワードに感謝しないといけないわね。」

「ふふ、ではお二人の人生に祝福の意味も込めて、金貨45枚にいたしましょう。いかがです?」

「十分すぎるくらいだよ。ありがとう。」

「いえいえ、若人(わこうど)を見るのはいつだって良いものですから。うちの息子ももう少しで成人なんですが、旦那様のような落ち着きを身につけてほしいですよ、ホントに。」

 店主が肩をすくめながら金貨を用意する。

 口ではそう言いつつも息子への愛情は本物のようで、シャロン達は小一時間、冒険者をしているらしい息子の話を聞かされた。

(父親って、「普通」こういう感じなのかしら。)

 シャロンは息子自慢が止まらない宝飾品店の店主を見ながら、どこか遠いものを見る目で彼を見つめていた。


「いやー失礼失礼。つい語りすぎちゃって。あ、旦那様、お若い奥様に贈り物なんていかがです?今売却なさったのは随分と大ぶりな宝石でしたが、小さい石のついた指輪やネックレスなんかもございますよ。こんなに綺麗な奥方なのに、アクセサリーの一つもつけていないなんて勿体無い!」

「いえ結構……」

「店主。どういうのがあるのかな。」

「おに、オルフェウス様!?」

(お兄様が商売上手な方に乗せられている……!)

所属感の欠如は、「マズローの欲求階層説」というものを検索すると良いかと思われます。


閲覧いただきありがとうございます。

もしよろしければ、評価やリアクション等頂けると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ