心苦しさと過去
だから、今、掛け直せって事だろうな、と、
慶太は口にしなかったけど、
何となくそれが伝わった。
京太と、話している私を見るのが、
慶太は嫌なんだと思う。
京太との事を聞かれた事はないけど、
一度だけ、あの日、あの後、
京太に抱かれたのかだけ、慶太は聞いた。
誤魔化すのが嫌で正直にそうだと答えたその日は
慶太はいつもより長く、強く、私を抱いた。
「…もしもし。」
「郁?ごめんな、仕事だった?」
京太は、そう気遣い、久し振りと笑った。
今さら何かがあるとは思えない、その通りだった。
私と別れた後、歯ブラシやスキンケアなんかの
日用品は処分したけど、
私が置いていた服や下着は、
勝手に処分出来なかったらしい。
律儀な京太らしいなと思った。
近く引っ越す事になり、
それを自分が処分するのはどうかと思って、
わざわざ連絡してきたとの事だ。
今住んでいる場所を伝えると、
仕事で近々本社に足を運ぶついでに
少し会えないか?と京太は言う。
「分かった。
確認してから、また連絡するね。」
そう言って京太との電話を終えた。
出来上がった夕食をテーブルに並べて、
テレビをつけた所で慶太がリビングの扉を開ける。
「慶太、京太と会って来てもいいかな。」
私は、京太と会いたかった。
京太と会って、話しをすれば、
未だに感じる京太に対する心苦しさも、
少しはすっきりする気がした。
京太が、慶太の兄でなければ、
そんな事もしないけれど、
二人は死ぬまで兄弟だから。
それに京太から連絡をくれたという事は、
京太の中でも私との事は過去になっている
そう思った。




