第41話 支えを必要とする人
夏の陽射しが少しずつ強くなり始めた朝。
リーベル村の集会所では、いつものように賑やかな声が響いていた。
ベンチではハナとアルバートが談笑し、子どもたちは完成した木製の遊具で遊んでいる。
ロイドはエドと一緒に壊れた木箱を修理していた。
「釘はもう少し真っ直ぐ打つ。」
「分かってる。」
そう言いながらも、以前より手際はずっと良くなっている。
その様子を見ていた悠斗は、小さく微笑んだ。
「すっかり頼りになるようになりましたね。」
「まだまだだ。」
ロイドは照れ隠しのように頭を掻いた。
その時だった。
村長が一人の女性を連れて集会所へやって来た。
三十代前半ほどだろうか。
どこか疲れたような表情を浮かべている。
「皆、少し時間をもらえるか。」
村長の声に、その場が静かになる。
女性は緊張した様子で頭を下げた。
「私はミーナと申します。」
「今日は……主人のことで相談があって来ました。」
悠斗は穏やかに頷く。
「どうぞ、お掛けください。」
温かいお茶が運ばれる。
マーサは何も急かさず、そっと湯飲みを差し出した。
ミーナは両手で包むように受け取る。
少しだけ肩の力が抜けたようだった。
「主人は昔から真面目な人なんです。」
「村の荷運びや力仕事をして家族を支えてくれていました。」
そこで言葉が途切れる。
「でも……。」
「仕事中の事故で足を痛めてから、重い荷物を運べなくなってしまって。」
ロイドの表情が少し変わった。
「今では仕事もほとんどなくなって……。」
「家にいる時間が増えました。」
「最近は誰とも会いたがらなくて。」
「『俺なんか役に立たない』って……。」
最後の言葉は涙で震えていた。
集会所には静かな空気が流れる。
誰もすぐには口を開かなかった。
悠斗はミーナの話を最後まで聞いてから、静かに尋ねる。
「ご主人は、おいくつですか?」
「三十二歳です。」
まだ若い。
だからこそ、自分が働けないことを受け入れられないのかもしれない。
悠斗はそう感じた。
その時、ロイドが小さく立ち上がる。
「名前は?」
「フェリクスです。」
「……そうか。」
短く答えたロイドは、それ以上何も言わなかった。
話が終わり、ミーナが帰ると、悠斗はロイドへ声を掛ける。
「何か気になることがありましたか?」
ロイドはしばらく黙っていた。
やがてゆっくり口を開く。
「昔の俺と似てる。」
悠斗は黙って続きを待った。
「仕事を失うと、自分まで無くなった気になる。」
「誰にも会いたくなくなる。」
「何をしても意味がないって思う。」
ロイドは遠くを見るような目をしていた。
「俺は運が良かった。」
「ここへ来られたから。」
「でも、あいつはまだ一人なんだろ。」
悠斗は静かに頷いた。
「そうですね。」
「だから今度は、俺が行く。」
ロイドの声は迷いがなかった。
悠斗は少し驚きながらも、嬉しそうに笑う。
「お願いします。」
その様子を見ていたマーサが、小さく微笑む。
「人はね。」
「支えてもらった分だけ、今度は誰かを支えたくなるものなんだよ。」
ロイドは照れくさそうに鼻をこすった。
「そんな立派なもんじゃない。」
「ただ放っておけないだけだ。」
「それで十分さ。」
マーサは優しく答えた。
その日の夕方。
ロイドは一人、集会所の前に立っていた。
初めてこの村へ来た日のことを思い出す。
あの時の自分も、誰にも必要とされていないと思っていた。
けれど今は違う。
「今度は俺の番か。」
誰に聞かせるでもなく呟く。
その言葉には、あの日にはなかった力強さが宿っていた。
夕日が集会所を優しく照らす。
その光は、新しい誰かを照らす準備をしているようだった。




