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第36話 もう一度、自分らしく

朝日がリーベル村を照らし始める頃。


集会所ではエドが木材を並べ、ロイドが掃除をしていた。


子ども達はまだ来ていない。


静かな朝だった。


「今日は早いですね。」


悠斗が声を掛けると、ロイドは箒を動かしながら笑った。


「最近はここへ来るのが日課になった。」


「最初は暇だからって言ってましたよね。」


「……それは忘れろ。」


二人は笑い合う。


そこへ、入口の方からゆっくりと足音が聞こえた。


振り向くと、アルバートが立っていた。


「おはようございます。」


悠斗が笑顔で迎える。


「……おはよう。」


少し照れくさそうだった。


誰に迎えに来てもらったわけでもない。


今日は自分の意思で、この場所へ来たのだ。


「ちょうど良かった。」


エドが木材を持ち上げる。


「ベンチを作ろうと思うんだが、少し見てもらえんか。」


「俺がか?」


「お前さんの方が詳しい。」


アルバートは木材を手に取る。


一本一本を見比べながら、節や木目を確かめていく。


「この木は座る部分には向かん。」


「反る。」


「こっちは丈夫だ。」


エドは真剣な表情で頷く。


「なるほど。」


「だから昔の職人はこうやって選んでたのか。」


アルバートは自然と説明を続けていた。


気付けば周りには子ども達も集まっている。


「今日も先生だ!」


カイルが嬉しそうに叫ぶ。


「先生じゃない。」


そう言いながらも、以前ほど強い口調ではない。


「じゃあ、おじいちゃん先生!」


「勝手に名前を増やすな。」


周囲から笑い声が上がった。


木材の話が終わると、皆でベンチ作りが始まる。


エドが木を加工する。


ロイドが運ぶ。


子ども達は釘を並べたり、木くずを集めたりしていた。


悠斗はその様子を見守りながら、少し離れた場所にいるマーサへ近付く。


「最近、アルバートさんの表情が変わりましたね。」


マーサは優しく微笑む。


「人ってね。」


「役割ができると、自然と前を向くことがあるんだよ。」


「役割……。」


「誰かに必要とされるって、それだけで元気になれることもあるんだ。」


悠斗は静かに頷いた。


その時だった。


マーサがアルバートを見て、小さく笑う。


「今日は髭を整えてきたね。」


アルバートが少しだけ目を逸らす。


「たまたまだ。」


「服も昨日より綺麗だ。」


「……たまたまだ。」


「靴まで磨いてあるじゃないか。」


アルバートは耳まで赤くなった。


「うるさい。」


皆が笑う。


悠斗はそこで初めて気付いた。


確かに昨日までとは違う。


身だしなみが整っている。


「全然気付きませんでした。」


悠斗が苦笑すると、マーサは穏やかに言った。


「女っていうのはね、こういうところを見るもんなんだよ。」


「本人は気付かれたくないだろうけどね。」


アルバートは咳払いをして話題を変える。


「木がずれてるぞ。」


「そこはもっと締めろ。」


エドも笑いながら答える。


「はいはい、先生。」


「だから先生じゃない。」


それでも口元は緩んでいた。


昼頃には立派なベンチが完成した。


皆で腰を下ろしてみる。


「座り心地はどうですか?」


悠斗が聞く。


ハナが笑顔で答えた。


「最高だよ。」


「立ち上がるのも楽だねぇ。」


「それなら良かった。」


アルバートは何も言わなかった。


だが、皆が笑っている姿を見ながら静かに目を細めていた。


帰る時間になる。


アルバートは集会所の入口で振り返る。


「また来る。」


短い一言だった。


誰に言われたわけでもない。


自分の意思だった。


「お待ちしています。」


悠斗も笑顔で答える。


アルバートは照れ隠しのように手を振り、その場を後にした。


その背中を見送りながらマーサが呟く。


「やっと前を向き始めたね。」


悠斗は空を見上げる。


支えるということは、何かを与えることだけではない。


その人が、もう一度その人らしく生きられる場所を作ること。


それもまた、支援なのだと改めて感じていた。


そして悠斗は思う。


きっとアルバートだけではない。


まだ村の外には、誰かと話すきっかけを待っている人がいる。


その一歩を、一緒に歩いていけたら。


そんな未来を思い描きながら、悠斗は新しく完成したベンチへ静かに腰を下ろしたのだった。

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