第35話 支え合うということ
数日後。
約束どおり、アルバートはリーベル村へやって来た。
集会所の入口まで来ると、少しだけ足を止める。
中から聞こえてくるのは子ども達の笑い声。
ハナ達の楽しそうな話し声。
以前のアルバートなら、そのまま帰っていたかもしれない。
「何してる。」
後ろから声が掛かる。
振り返るとロイドが立っていた。
「来たなら入ればいい。」
「……少し考えていただけだ。」
「俺も最初は外から見てた。」
ロイドは笑う。
「案外、悪くない場所だ。」
その一言に背中を押されるように、アルバートはゆっくり集会所へ足を踏み入れた。
「いらっしゃい。」
最初に声を掛けたのはハナだった。
特別に騒ぐ者はいない。
いつものように笑顔で迎える。
それがアルバートには心地良かった。
「ちょうど良かった。」
エドが木材を持って近付く。
「昨日話していた木を見てもらえんか。」
「俺にか。」
「詳しいんだろ。」
アルバートは照れくさそうに木材を受け取る。
節を見て。
年輪を見て。
一本一本確かめていく。
「これは使える。」
「こっちは駄目だ。」
エドも真剣に聞いていた。
「勉強になる。」
「そんな大したもんじゃない。」
そう言いながらも、アルバートの表情はどこか嬉しそうだった。
その頃。
集会所では体操が始まっていた。
悠斗は子ども達の様子を見ながら、高齢者達へも声を掛ける。
「無理はしないでくださいね。」
「疲れたら休みましょう。」
皆が頷く。
体操が終わり、お茶の時間になった。
マーサがお茶を配っている。
ハナは椅子から立ち上がろうとした。
その時だった。
足元が少しふらつく。
「おっと。」
すぐ近くにいたロイドが腕を支えた。
ハナは転ばずに済んだ。
「大丈夫かい?」
マーサが駆け寄る。
「ごめんねぇ。」
ハナは苦笑する。
「少し急いで立っちゃった。」
その場の空気が少しだけ張り詰める。
ロイドは申し訳なさそうに俯いた。
「俺が見ていたのに……。」
マーサも静かに言う。
「私もお茶を配ることばかり考えていたね。」
悠斗は二人の顔を見る。
そして静かに口を開いた。
「まず、何があったのか整理しましょう。」
皆が悠斗を見る。
「ロイドさんは近くで見守っていました。」
「マーサさんは皆へお茶を配っていました。」
「ハナさんは急いで立ち上がりました。」
悠斗は一人ひとりを見ながら続ける。
「誰か一人が悪かったわけではありません。」
「大事なのは、次に同じことが起きないようにすることです。」
レオンも頷いた。
「そうだな。」
「責めても転びそうになった事実は変わらない。」
「でも次は防げる。」
悠斗も頷く。
「例えば、立ち上がる前に一声掛ける。」
「近くにいる人も、『立ちますか?』と確認する。」
「それだけでも事故は減らせます。」
マーサは優しく笑った。
「そういうことだね。」
ロイドも表情を上げる。
「次は気を付ける。」
ハナも笑顔になる。
「私も急がないようにするよ。」
少し重くなった空気が、自然と和らいでいった。
その様子を見ていたアルバートがぽつりと呟く。
「お前達は……。」
皆が振り向く。
「失敗した人を責めないんだな。」
悠斗は静かに笑った。
「責めても、また同じことが起きるかもしれません。」
「だから皆で考えるんです。」
「どうしたら次は防げるかを。」
アルバートはしばらく黙っていた。
やがて小さく頷く。
「……いい考え方だ。」
その一言に、悠斗は少しだけ嬉しくなった。
帰る頃には、アルバートは子ども達へ木材の見分け方を教えていた。
「木にも癖がある。」
「人と同じだ。」
カイルは目を輝かせる。
「じゃあ俺も木と友達になれるかな!」
「まずは話を聞け。」
アルバートが苦笑する。
集会所には再び笑い声が戻っていた。
悠斗はその光景を眺めながら思う。
支えるということは、完璧であることではない。
失敗しそうになることもある。
迷うこともある。
だからこそ、一人で抱え込まず、皆で支え合う。
それが、この村らしい支え方なのだと、改めて感じるのだった。




