第34話 まだ終わっていない
数日後。
悠斗、マーサ、ロイドの三人は再びアルバートの家を訪れていた。
家の前へ立つと、扉がゆっくりと開く。
「来たか。」
ぶっきらぼうな口調は相変わらずだった。
だが以前とは違う。
「茶くらいなら用意してある。」
アルバートは少し照れくさそうに言った。
悠斗は思わず笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。」
三人は家へ招かれた。
木の机には湯気の立つ急須と四つの湯飲みが並んでいる。
マーサが嬉しそうに笑った。
「ちゃんと四つ用意してくれたんだね。」
「人数分くらいは分かる。」
アルバートはそっぽを向いた。
その仕草に三人は思わず笑ってしまう。
お茶を飲みながら世間話をしていると、ロイドが庭へ目を向けた。
庭の隅には古い木材が積まれている。
「これ、使わないんですか?」
アルバートも外を見る。
「ああ。」
「もう使わん。」
「捨てるつもりだった。」
ロイドは一本持ち上げる。
まだしっかりしている。
「もったいないな。」
その時だった。
エドが木材を届けに来ていた。
「お。」
「良い木じゃないか。」
エドは古い木材をじっくり眺める。
「これは乾燥も悪くない。」
「捨てるには惜しいぞ。」
アルバートは少し驚いた顔をする。
「分かるのか。」
「木工をやってるからな。」
エドは笑う。
するとアルバートも一本の木材を手に取った。
「こっちは駄目だ。」
「虫が入ってる。」
「でもこっちは使える。」
迷いなく選び分けていく。
エドは思わず目を見開いた。
「詳しいな。」
「昔は家を建ててた。」
その一言に悠斗達は顔を見合わせる。
「大工だったんですか?」
「ああ。」
「若い頃は村中の家を建てた。」
「橋も修理した。」
「納屋も何軒か作った。」
懐かしそうな声だった。
「今はもう昔話だ。」
そう言って木材を置こうとする。
だがエドが止めた。
「昔話じゃない。」
「今でも役に立つ。」
アルバートは少し黙る。
「若い奴らは知らん。」
「だったら教えればいい。」
エドは真っ直ぐ言った。
「俺もまだ知らないことがある。」
「教えてくれ。」
その言葉にアルバートは戸惑っていた。
誰かに教えてほしいと言われたのは、何年ぶりだっただろう。
その時だった。
「おじいちゃん!」
元気な声が響く。
カイル達が走ってきた。
悠斗達が来ていると聞いて追い掛けてきたらしい。
「何してるの?」
カイルが木材を覗き込む。
「木を見てる。」
ロイドが答える。
「これ、何が違うの?」
リナが聞く。
アルバートは少し困った顔をした。
「説明しても分からん。」
「教えて!」
カイルは諦めない。
ノアも黙って木材を見つめている。
ミリアは静かに待っていた。
アルバートはため息を吐く。
「……仕方ない。」
一本の木材を持ち上げる。
「木には節がある。」
「この節の位置で強さが変わる。」
子ども達は真剣だった。
「すげぇ!」
「そんなことまで分かるの?」
「毎日見てれば分かる。」
アルバートは自然と話していた。
木材の選び方。
乾燥の見分け方。
長持ちする木。
使ってはいけない木。
エドも真剣に聞いている。
悠斗はその光景を見ながら微笑んだ。
支えられるだけだと思っていた人が、今は誰かへ知識を伝えている。
それは介護の現場でも大切にしてきたことだった。
「まだ終わってないね。」
マーサが小さく呟く。
悠斗は頷いた。
「はい。」
「この人には、まだできることがたくさんあります。」
帰る頃になると、アルバートは子ども達へ手を振っていた。
カイルも大きく手を振り返す。
「また教えて!」
「気が向いたらな。」
アルバートは照れくさそうに笑う。
その笑顔は、初めて会った頃よりずっと柔らかかった。
悠斗達が帰ろうとすると、アルバートがぽつりと言った。
「今度……。」
三人が振り返る。
「今度、集会所を見に行ってみる。」
短い一言だった。
悠斗は嬉しそうに笑う。
「皆、喜びます。」
アルバートは照れ隠しのように手を振った。
「期待するな。」
そう言いながらも、その表情には少しだけ前を向いた人の穏やかさがあった。
帰り道、ロイドが静かに言う。
「できることって、若い奴だけのものじゃないんだな。」
悠斗はゆっくり頷く。
「年齢は関係ありません。」
「誰にでも、その人にしかできないことがあります。」
夕日に照らされながら歩く三人の足取りは、来た時より少しだけ軽くなっていた。




