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第31話 一人で抱えないということ

朝のリーベル村は静かだった。


鳥の鳴き声が響き、集会所の前では朝露に濡れた草が風に揺れている。


悠斗が集会所へ向かうと、入口で木材を運んでいる人影が見えた。


「ロイド?」


声を掛けると、ロイドは少し驚いたように振り返る。


「おはよう。」


「おはようございます。朝早いですね。」


「目が覚めたからな。」


そう言いながらも、木材を肩へ担ぎ直す。


集会所の中を見ると、壊れかけていた棚が外へ運び出され、新しい板が用意されていた。


「これ、一人でやったんですか?」


「ああ。」


「誰かに声は掛けました?」


「これくらいなら一人でできる。」


悠斗は何も言わなかった。


その代わり、一緒に木材を持つ。


「一人でもできますけど、二人ならもっと早いですよ。」


「……そうかもな。」


ロイドは少し照れくさそうだった。


しばらくしてエド達も集まってくる。


「今日は棚を直すんだったな。」


「木材ならまだあるぞ。」


ガンツも縄を抱えてやって来た。


子供達も掃除を始める。


集会所はいつものように賑やかになっていった。


昼前になると、新しい棚を運ぶことになった。


大きさはそれほどではない。


だが、木で作られているため思った以上に重い。


「俺が運ぶ。」


ロイドが棚を持ち上げる。


「一人で大丈夫ですか?」


「平気だ。」


歩き始めたその時だった。


右足が少し沈む。


身体が傾いた。


「危ない!」


悠斗とレオンが同時に支える。


棚は何とか落とさずに済んだ。


「悪い……。」


ロイドは悔しそうに俯いた。


「だから言っただろ。」


レオンがため息を吐く。


「一人で抱えるな。」


「迷惑を掛けたくなかった。」


小さな声だった。


その一言に悠斗は昔の自分を思い出す。


介護の仕事を始めたばかりの頃。


利用者様を一人で介助しようとして腰を痛めそうになったこと。


先輩に「呼んで」と言われても、「これくらいできます」と無理をしたこと。


結果として、余計に時間が掛かり、周りへ心配を掛けてしまった。


あの頃の自分と、今のロイドが重なって見えた。


「ロイドさん。」


悠斗は静かに話し始める。


「介護の仕事でも、一人で抱え込もうとする人ほど危ないんです。」


ロイドは顔を上げる。


「利用者さんを一人で支えようとして転びそうになったり、無理をして腰を痛めたり。」


「だから俺達は、一人で無理をしないように教わります。」


「できないから頼るんじゃありません。」


「事故を防ぐために頼るんです。」


ロイドは黙って聞いていた。


その時、マーサが近付いてくる。


「若い子は何でも一人でやろうとするねぇ。」


笑いながら言う。


「頼るっていうのはね。」


「弱いことじゃないよ。」


「相手を信じてるってことなんだ。」


その言葉にロイドはゆっくりと視線を上げた。


「信じる……。」


「そうさ。」


マーサは頷く。


「私だって昔は何でも一人でやろうとしてた。」


「でも子育ても、夫の看病も、一人じゃ続かなかった。」


「だから助けてもらった。」


「助けてもらったから、今度は誰かを助けられる。」


穏やかな口調だった。


だが、その言葉には長い人生で積み重ねてきた重みがあった。


エドが笑いながら棚を持ち上げる。


「ほれ。」


「こっちは俺が持つ。」


ガンツも反対側へ回る。


「縄は任せろ。」


トーマスは入口を開ける。


「通りやすくしておく。」


ハナは集会所の中で椅子を動かしていた。


「終わったらお茶にしようかね。」


子供達も元気よく声を上げる。


「掃除終わった!」


「机も拭いたよ!」


ロイドはその光景を見つめていた。


誰かが命令した訳ではない。


自然と役割が決まり、それぞれが動いている。


誰も一人ではなかった。


「ありがとう。」


その言葉が自然と口から出た。


皆が少し驚く。


そしてすぐに笑顔になった。


「礼なんていいさ。」


エドが笑う。


「明日はお前が誰かを助ければいい。」


ロイドも少しだけ笑った。


「……そうだな。」


その様子を見ていた悠斗は胸の奥が温かくなるのを感じていた。


介護とは、一人で誰かを支える仕事ではない。


支える人もまた、誰かに支えられている。


だから続けていける。


この村もきっと同じだ。


一人では作れない。


皆がいるから、少しずつ前へ進める。


悠斗は賑やかな集会所を見渡しながら、小さく微笑んだ。


ここはもう、自分一人の居場所ではない。


皆で支え合う場所になり始めていた。

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