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第28話 できることを探して

集会所ができてからというもの、村の雰囲気は少しずつ変わっていた。


朝には体操をする人が集まり、昼には子供達が遊ぶ。


午後になると高齢者達がおしゃべりを楽しみながら休憩していた。


手すりもある。


椅子もある。


水分補給のための桶や木のコップも用意されていた。


完璧ではない。


だが、以前より過ごしやすい場所になっていることは誰の目にも分かった。


その日の朝。


悠斗が集会所へ向かうと、一人の男性が入口近くに立っていた。


ロイドだった。


「あれ?」


悠斗が声を掛ける。


「今日はおじいさんと一緒じゃないんですね」


「今日は一人だ」


ロイドは少し気まずそうに答えた。


「何となく来ただけだ」


その言葉に悠斗は笑う。


「そういう日もありますよね」


ロイドは肩を竦めた。


相変わらず愛想は良くない。


だが前回より表情は柔らかかった。


体操が始まる。


ハナ達も集まってくる。


カイル達も元気よく走り回っていた。


「ロイド!」


真っ先に気付いたのはカイルだった。


「また来たのか!」


「来ちゃ悪いのか」


「悪くない!」


カイルは満面の笑みだった。


ロイドは少し困ったような顔をする。


「体操やる?」


リナが聞く。


「やらない」


即答だった。


「年寄りじゃないからな」


その返事にミリアが呆れる。


「体操に年齢は関係ないでしょ」


「あるだろ」


「ないと思う」


二人が言い合いを始める。


その様子を見ながらロイドは少しだけ笑っていた。


体操が終わった後。


悠斗とロイドは集会所の外にある木陰へ移動した。


「仕事はしているんですか?」


何気なく聞いた一言だった。


ロイドの表情が少し曇る。


「今はしてない」


短い返事だった。


悠斗はそれ以上急かさなかった。


しばらく沈黙が続く。


やがてロイドがぽつりと話し始めた。


「昔は荷運びの仕事をしてた」


「そうなんですね」


「でも足を怪我した」


ロイドは右足を軽く叩く。


「歩けないわけじゃない」


「走れないわけでもない」


「でも前みたいには働けない」


その声には諦めが混じっていた。


「力仕事を続けるには中途半端なんだ」


悠斗は静かに聞いていた。


元の世界でも似た話は何度もあった。


怪我。


病気。


年齢。


何らかの理由で以前と同じことができなくなる。


そして人はつい、失ったものばかりを見る。


「それで仕事を辞めたんですか?」


「続かなかった」


ロイドは苦笑する。


「何をやっても長続きしない」


「役立たずだって言われたこともある」


その言葉を聞いても、悠斗は驚かなかった。


ただ少しだけ寂しく感じた。


「じゃあ」


悠斗が口を開く。


「何ができますか?」


ロイドが眉をひそめた。


「何だそれ」


「できないことじゃなくて、できることです」


ロイドは黙る。


そんなことを考えたことがなかった。


「別に何も……」


言いかけて止まる。


本当にそうだろうか。


悠斗は無理に答えを求めなかった。


その時だった。


「ロイド!」


ノアが小走りで近付いてきた。


手には縄がある。


「どうした?」


「結び方が分からない」


ロイドは縄を受け取った。


ちらりと見る。


そして手を動かした。


慣れた動きだった。


あっという間に綺麗な結び目ができる。


ノアの目が輝いた。


「すごい」


その声にカイル達も集まってくる。


「何したんだ?」


「見せて!」


「教えて!」


ロイドは少し戸惑った。


だが子供達はお構いなしだった。


結局、その日は縄の結び方講座が始まった。


荷運びの仕事をしていた頃に覚えた結び方。


荷物を固定する方法。


解けにくい結び方。


子供達は夢中だった。


ノアは真剣に覚えている。


カイルは何度も失敗している。


ミリアは一度見ただけで覚えた。


リナは「どうしてこうなるの?」と質問攻めだった。


気付けばロイドは笑っていた。


久しぶりだった。


誰かに教えることも。


誰かに頼られることも。


夕方。


子供達が帰った後。


悠斗が隣へ座る。


「人気者でしたね」


「からかわないでくれ」


ロイドは苦笑した。


だが嫌そうではなかった。


「でも皆喜んでましたよ」


ロイドは少し考える。


そして小さく呟いた。


「役に立ったのかもな」


その言葉に悠斗は笑う。


「最初から役に立ってましたよ」


ロイドは何も言わなかった。


だが少しだけ前を向いていた。


できないことは確かにある。


以前と同じようには働けない。


それも事実だ。


それでも。


できることまで無くなった訳ではない。


そのことに、ようやく気付き始めていた。


夕日に照らされた集会所には、今日も穏やかな時間が流れていた。

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