第27話 村の外から来た人
最近の集会所は賑やかだった。
朝は体操。
昼は子供達の遊び場。
午後には高齢者達のおしゃべりの場になる。
以前のリーベル村では考えられなかった光景だった。
その日もハナ達が集会所で談笑していた。
カイル達は外で遊んでいる。
悠斗は入口付近の手すりを確認していた。
緩みがないか。
ぐらつきがないか。
習慣のようなものだった。
「相変わらず細かいな」
レオンが呆れたように言う。
「事故が起きてからでは遅いですから」
「それは分かるがな」
そんな会話をしていた時だった。
集会所の前に見慣れない二人の姿が見えた。
一人は七十歳前後と思われる男性。
もう一人は二十代後半くらいの若い男性だった。
二人とも旅人というより村人のような服装をしている。
村長が気付き近付いた。
「珍しいな。隣村の人じゃないか」
「久しぶりだな」
老人が笑う。
どうやら知り合いらしい。
「今日はどうした?」
「妙な噂を聞いてな」
老人は集会所を見上げた。
「年寄りが集まる場所があるらしい」
「体操もしているらしい」
「面白そうだから見に来た」
その言葉にハナが笑う。
「噂になるほどじゃないよ」
「いや、十分変わったと思うぞ」
村長が答えた。
若い男性は無言のまま周囲を見ていた。
どこか警戒しているようにも見える。
「こちらは?」
悠斗が聞く。
「孫だ」
老人が答える。
「名前はロイド」
若い男性は軽く頭を下げた。
「よろしく」
「悠斗です」
挨拶はしたものの、ロイドはあまり乗り気ではなさそうだった。
集会所の中を見ても特に驚く様子はない。
むしろ不思議そうだった。
「本当に年寄りばかりだな」
その言葉にカイルが反応する。
「僕もいるぞ!」
「そうだったな」
ロイドは少しだけ笑った。
「子供もいる」
「子供だけじゃありませんよ」
ミリアが言う。
「みんないます」
その言葉にハナ達が笑う。
確かにその通りだった。
高齢者だけでもない。
子供だけでもない。
誰でも来られる場所になっている。
老人は興味深そうに手すりへ触れた。
「これは何だ?」
「手すりです」
悠斗が説明する。
「立ったり歩いたりする時に使います」
老人は試してみる。
ゆっくりと握る。
そして頷いた。
「悪くないな」
ロイドも見ていた。
だが、反応は薄い。
「そんなことをして意味があるのか?」
ぽつりと呟く。
集会所が静かになった。
だが、悠斗は気にしなかった。
「意味ですか」
「年寄りが集まって体操して」
「手すりを付けて」
「何になるんだ?」
率直な疑問だった。
馬鹿にしている訳ではない。
本当に分からないのだろう。
悠斗は少し考えた。
そして答えた。
「笑顔が増えます」
ロイドが眉をひそめる。
「それだけか?」
「それだけです」
悠斗は笑った。
「でもそれが大事なんです」
ロイドは納得していないようだった。
その時だった。
ハナが声を掛ける。
「若いの」
「何だ?」
「こっちへおいで」
ロイドは首を傾げながら近付いた。
ハナは椅子を指差す。
「座りな」
「いや、俺は」
「いいから」
押し切られる形で座る。
周囲から笑い声が起こった。
「昔のトーマスみたいだねぇ」
「やめろ」
トーマスが顔をしかめる。
「昔はもっと頑固だったじゃないか」
「否定できん」
再び笑いが起きた。
ロイドはその様子を見ていた。
誰も偉そうにしていない。
誰も命令していない。
ただ話をしているだけだ。
だが、不思議と居心地は悪くなかった。
帰る頃には日が傾いていた。
老人は満足そうだった。
「また来る」
「いつでもどうぞ」
悠斗が答える。
ロイドも立ち上がる。
そして集会所を振り返った。
「変な場所だな」
「よく言われます」
悠斗は笑う。
ロイドは少しだけ考え込む。
そしてぽつりと呟いた。
「また来てもいいか?」
その言葉にハナ達が笑顔になる。
「もちろんだよ」
「今度は体操もやりな」
「それは考えておく」
そう言いながらも、ロイドの表情は最初より柔らかかった。
二人の姿が見えなくなった後。
悠斗は空を見上げる。
村の外から人が来た。
ただそれだけのことだった。
だが、少しずつ広がっている。
自分達が作ってきたものが。
そのことが少し嬉しかった。
集会所には今日も笑い声が響いていた。




