第26話 休むということ
集会所には以前より多くの人が集まるようになっていた。
手すりが付き。
椅子も新しくなった。
子供達の遊び場にもなっている。
高齢者達が話をする場所にもなっていた。
悠斗はそんな光景を眺めながら笑う。
少しずつではあるが、この場所が村の中心になり始めている気がした。
その日の昼過ぎだった。
カイル達は外で元気に走り回っている。
ハナ達は集会所の中で話をしていた。
トーマスは子供達に畑の話をしている。
ガンツは縄を編んでいた。
「今日は暑いですね」
悠斗が呟く。
「そうだな」
レオンも額の汗を拭った。
風はある。
だが日差しは強かった。
悠斗は自然と村人達を見回した。
すると気になることに気付く。
誰も水を飲んでいない。
「皆さん、水分は取っていますか?」
声を掛ける。
だが返ってきたのは予想通りの答えだった。
「まだ喉は渇いてないよ」
ハナが笑う。
「わしも平気じゃ」
ガンツも続く。
トーマスも頷いていた。
悠斗は苦笑する。
どこか懐かしい光景だった。
元の世界でも何度も見た。
「喉が渇いてからじゃ駄目なんですけどね」
小さく呟く。
「何か言ったか?」
レオンが聞く。
「いえ、独り言です」
実際には独り言ではなかった。
介護の現場でもよくあった話だ。
飲んでくださいと声を掛ける。
大丈夫だと言われる。
そして気付けば脱水気味になっている。
何度も見てきた。
「少し飲みましょう」
悠斗は木のコップを差し出した。
だが。
「後でねぇ」
ハナは笑った。
「まだ平気じゃ」
ガンツも首を振る。
「わしもだな」
トーマスも同じだった。
悠斗は思わず天井を見上げた。
(これは飲まへんやつや……)
その時だった。
トーマスが立ち上がる。
「ハナ」
「何だい?」
「一緒に飲むぞ」
突然の言葉だった。
ハナは少し驚く。
「どうしたんだい急に」
「悠斗がうるさいからな」
トーマスは笑った。
「だったら飲んでやるか」
その言葉にハナも笑う。
「それなら私も飲もうかねぇ」
木のコップを受け取った。
悠斗は思わず瞬きをする。
さっきまで断っていたのに。
あっさりだった。
さらに。
「ガンツも飲め」
トーマスが言う。
「面倒だ」
「俺も飲む」
「だから何だ」
「付き合え」
ガンツはしばらく黙っていた。
そして深いため息を吐く。
「少しだけだぞ」
結局飲んだ。
悠斗は思わず笑ってしまう。
「何がおかしい」
レオンが聞く。
「いや」
悠斗は首を振った。
「俺が言っても飲まないのにと思いまして」
その言葉にハナ達も笑う。
「そんなもんだよ」
ハナが言った。
「長い付き合いだからねぇ」
「そういうものですか」
「そういうものじゃ」
ガンツも頷く。
悠斗は少し考える。
知識だけでは人は動かない。
関係があるから動く。
信頼があるから動く。
介護の仕事でも同じだった。
それを改めて思い出していた。
その後、悠斗は集会所の外へ出る。
木陰を見上げる。
椅子もある。
だが少し足りない気がした。
「どうした?」
エドが近付いてくる。
「休憩場所を増やしたいなと思いまして」
「まだやるのか」
レオンが呆れる。
「まだやります」
悠斗は笑った。
「人は動くだけじゃ駄目です」
「休むことも大事です」
エドは少し考える。
そして頷いた。
「確かにな」
ハナ達も木陰へ移動していた。
水を飲みながら話をしている。
子供達も遊び疲れれば戻ってくるだろう。
悠斗はその光景を見ていた。
手すり。
椅子。
そして休憩。
どれも特別なものではない。
だが、誰かが安心して過ごすためには必要なものだった。
集会所は少しずつ変わっている。
そして村も変わっている。
その変化を感じながら、悠斗は静かに笑った。
次はどんな場所にしていこうか。
そんなことを考える時間も、最近は嫌いではなかった。




