第25話 座るということ
手すりの設置が終わった数日後。
集会所には以前より多くの人が集まるようになっていた。
子供達は遊び。
高齢者達は話をする。
雨の日でも集まれる場所ができたことで、自然と足を運ぶ人も増えていた。
そんなある日。
ハナが椅子から立ち上がろうとしていた。
「よいしょっと……」
ゆっくりと身体を前へ倒し、手を膝へ置く。
少し時間を掛けて立ち上がる。
その様子を見ていた悠斗は首を傾げた。
「どうかしました?」
「いやぁ、最近は立つのも一苦労でねぇ」
ハナは笑っていた。
だが無理をしている訳ではない。
年齢を重ねれば自然な変化でもある。
その隣ではトーマスも同じような動きをしていた。
「確かに立ちにくそうですね」
「歳だからな」
トーマスは苦笑する。
悠斗は改めて椅子を見る。
木で作られた昔ながらの椅子だった。
丈夫ではある。
だが座る人のことを考えて作られている訳ではない。
「また始まったな」
レオンが呆れたように言う。
「始まりました」
悠斗は素直に認めた。
「今度は何だ?」
「椅子です」
レオンは額を押さえた。
「手すりの次は椅子か」
「大事ですよ」
悠斗は真面目だった。
「座る場所は毎日使いますから」
その日の午後。
集会所へ村人達が集まった。
エドもいる。
ガンツもいる。
ハナやトーマスもいた。
「椅子なんてどれも同じじゃないのか?」
村長が聞く。
「実際に試してみましょう」
悠斗は用意していた低い椅子を置いた。
まず座ったのはカイルだった。
「ちょうどいい!」
勢いよく立ち上がる。
何の問題もない。
次にハナが座る。
そして立ち上がろうとする。
だが。
「おや」
身体を大きく前へ倒さなければ立てなかった。
「大変そうですね」
リナが心配そうに言う。
「少しねぇ」
ハナは笑う。
次は少し高めの椅子を試す。
こちらは立ち上がりやすかった。
「これは楽だね」
ハナが驚く。
トーマスも頷いた。
「確かに違うな」
村人達も興味深そうに見ていた。
「椅子は座れればいい訳じゃないんです」
悠斗が説明する。
「座りやすさも大事ですが、立ち上がりやすさも大事なんです」
「なるほどな」
エドが腕を組んだ。
職人として興味が湧いたらしい。
その時だった。
ハナが足をさすった。
「どうかしました?」
「夕方になると少し重くなるんだよ」
悠斗は頷く。
「むくみですね」
「むくみ?」
リナが首を傾げる。
「長い時間座ったままだったり、あまり動かなかったりすると足に水分が溜まりやすくなることがあります」
「病気なのか?」
トーマスが聞く。
「病気の場合もあります」
悠斗は慎重に答えた。
「でも長時間同じ姿勢でいることも原因になります」
村人達は真面目に聞いていた。
「だから体操も大事ですし、少し歩くことも大事なんです」
「全部繋がっているんだな」
ガンツが感心したように言う。
「そうですね」
悠斗は笑った。
「座ることも、立つことも、歩くことも全部大事です」
エドは椅子を眺めていた。
そして何かを考える。
しばらくして口を開いた。
「少し作り直してみるか」
その一言に悠斗の顔が明るくなる。
翌日から椅子作りが始まった。
エドが設計しガンツが補助をする。
トーマスは木材を運ぶ。
子供達も手伝っていた。
「これ持てばいいの?」
カイルが聞く。
「無理するなよ」
レオンが言う。
「大丈夫だって!」
元気だけは誰にも負けなかった。
数日後。
新しい椅子が完成した。
以前より少し高い。
立ち上がりやすさも考えられている。
ハナが試しに座る。
ゆっくり立ち上がる。
そして笑った。
「これは良いねぇ」
トーマスも座る。
「前より楽だな」
エドは満足そうだった。
「これなら使えるじゃろ」
集会所には笑顔が広がる。
手すりができた。
椅子も良くなった。
少しずつ。
本当に少しずつだがこの場所は誰にとっても過ごしやすい場所へ変わり始めていた。
その光景を見ながら悠斗は思う。
介護とは特別なことではないのかもしれない。
ほんの少し使いやすくする。
ほんの少し過ごしやすくする。
その積み重ねが誰かの生活を支えている。
そう考えると、不思議と嬉しい気持ちになるのだった。




