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第23話 見えない危険

集会所の掃除が終わって数日。


建物の中は見違えるほど綺麗になっていた。


窓から光が入り。


風も通る。


子供達も高齢者達も自然と集まるようになっていた。


「これで使えるね!」


カイルが嬉しそうに言う。


「まだ早いですよ」


悠斗は苦笑した。


「えー?」


「十分綺麗じゃない」


リナも不思議そうな顔をする。


確かに綺麗になった。


だが、悠斗には別のものが見えていた。


その日、集会所の入口でハナが足を止めた。


小さな段差。


ほんの数センチ。


若い人なら気にも留めない高さだった。


だが、ハナの足が少し引っ掛かった。


転倒はしない。


ただ一歩だけ体勢を崩した。


「おっと」


ハナは笑っていた。


だが、悠斗の表情は真剣だった。


「今の見ました?」


隣にいたレオンへ聞く。


「見た」


「危なかったですね」


「そうか?」


レオンは首を傾げる。


「転んでないぞ」


「今日はです」


悠斗は入口を見る。


「でも次は分かりません」


その言葉にレオンも黙った。


集会所へ入る。


悠斗は周囲を見回した。


入口の段差。


少しガタつく床。


古い椅子。


そして壁。


気になる場所はいくつもあった。


「また何か始まったな」


エドが笑う。


「始まりました」


悠斗は即答した。


村長もやって来る。


「今度は何じゃ?」


「危ないです」


「どこが?」


悠斗は入口を指差した。


「この段差です」


全員が見る。


「これくらいなら大丈夫じゃないか?」


村長が言う。


それは普通の感覚だった。


だが、悠斗は首を振る。


「若い人はそうです」


「でも高齢者は違います」


その言葉にハナ達も耳を傾ける。


「少しの段差でも転ぶことがあります」


「立ち上がった時にふらつく人もいます」


「歩いている途中で急に膝の力が抜けることもあります」


悠斗の脳裏には元の世界の光景が浮かんでいた。


歩いている途中で突然座り込んだ利用者。


立ち上がった瞬間に尻餅をついた利用者。


膝折れで転倒した利用者。


そして骨折してしまった人達。


「転んだだけで?」


リナが聞く。


「転び方によります」


悠斗は静かに答えた。


「打ちどころが悪ければ骨折します」


「大怪我になることもあります」


子供達も真面目な顔になった。


「そんなに危ないんだ」


カイルが呟く。


「はい」


悠斗は頷く。


「だから転ばない環境が大事なんです」


エドが腕を組む。


「環境か」


「そうです」


悠斗は椅子へ腰掛けた。


そしてわざと勢いよく立ち上がる。


ふらつく真似をした。


「例えばこうです」


カイルが笑う。


「変な動き!」


「笑い事じゃありません」


ミリアが注意する。


「実際にこうなる人もいます」


悠斗は真面目だった。


レオンも入口を見る。


そして。


「確かに年寄りには危ないか」


初めて素直に認めた。


「ですよね」


悠斗は少し嬉しそうだった。


「じゃあどうする?」


村長が聞く。


悠斗は壁へ視線を向ける。


「手すりを付けたいです」


沈黙。


そして。


エドが吹き出した。


「また手すりか」


「またです」


即答だった。


周囲から笑いが起きる。


「好きだな」


レオンが呆れる。


「好きというか必要です」


悠斗は真面目な顔で答える。


「掴まる場所があるだけで安心できます」


「立ち上がりも楽になります」


「転倒予防にもなります」


エドは壁を見上げる。


「作れんことはないな」


ガンツも頷いた。


「木材もある」


トーマスも言う。


「力仕事なら任せろ」


気付けば誰も反対していなかった。


悠斗は少しだけ笑う。


最初は手すりの話をしても不思議そうな顔をされた。


だが今は違う。


みんなが話を聞いてくれる。


必要だと思ってくれる。


それが少し嬉しかった。


集会所の入口を見る。


まだ段差はある。


まだ危険もある。


だが、少しずつ良くなっている。


そんな気がしていた。


そして。


「次は手すり作りですね」


その一言にレオンが深いため息を吐いた。


「まだ増えるのか」


集会所には笑い声が響いていた。

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