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第19話 できること

朝の体操が終わった後だった。


子供達はいつものように広場で遊んでいる。


最近作った的当ても相変わらず人気だった。


「それっ!」


子供が布玉を投げる。


だが。


勢い余って的の支柱にぶつかった。


バキッ。


嫌な音が響く。


「あ」


全員が固まった。



支柱が折れていた。


的は傾き。


今にも倒れそうになっている。


「壊れた……」


子供達がしょんぼりする。



悠斗は近付いて確認した。


「うーん」


折れた部分を見る。


修理できなくはない。


だが上手くいく自信もない。


「エドさん」


工房へ視線を向ける。


だがエドも首を傾げた。


「木を替えた方が早いのう」


子供達から落胆の声が上がる。


その時だった。


「貸してみろ」


低い声が響いた。


振り返る。


そこにいたのはガンツだった。


普段はあまり目立たない老人だ。


体操にもたまにしか来ない。


いつも広場の端で座っている。


「直せるんですか?」


悠斗が聞く。


「見てみんと分からん」


そう言いながら支柱を手に取る。


折れた部分を確認する。


少し考える。


そして。


「縄を持ってこい」


数分後。


ガンツは慣れた手つきで縄を編み始めた。


「え?」


悠斗は思わず声を漏らした。


手が動く。


迷いがない。



まるで長年続けてきた仕事のようだった。


「若い頃は縄職人じゃった」


ガンツが言う。


「村の荷車も井戸の縄も全部作っとった」


子供達が目を輝かせる。


「すごい!」


「こういう事が出来るのって職人って言うんだよね!」


ガンツは少しだけ照れ臭そうだった。


しばらくして。


折れた支柱はしっかり補強されていた。


「これでしばらく持つ」


子供達が歓声を上げる。


「ありがとう!」


「ガンツじいちゃんすげぇ!」


ガンツは咳払いをした。


だが、どこか嬉しそうだった。


その様子を見ながら、悠斗はあることを思い付く。



翌日。


広場には子供達が集まっていた。


その中心には。


ガンツ。


「今日は縄の編み方を教える」


子供達が歓声を上げる。


最初は不器用だった。


失敗する。


ほどける。


絡まる。


それでも楽しい。


ガンツも自然と笑っていた。


「違う」


「そこはこうじゃ」


「力を入れすぎるな」


気付けば、誰よりも話していた。


その光景を見ていたハナが笑う。


「楽しそうだねぇ」


「そうですね」


悠斗も頷く。


すると。


「料理なら私も教えられるよ」


ハナが言った。


「畑なら分かるぞ」


トーマスも続く。


「木工はわしじゃな」


エドも腕を組む。


「酒の飲み方なら俺だな」


レオンが言う。


「それは教えなくていいです」


即答だった。


周囲から笑い声が上がる。



その日。


広場はいつも以上に賑やかだった。


子供達が学ぶ。


高齢者達が教える。


誰もが役割を持っていた。



帰り道。


悠斗は空を見上げる。



介護の仕事を始めた頃。


できないことばかり見ていた気がする。


歩けない。


持てない。


忘れてしまう。


そういうことばかり。


だが、今日見たのは違った。


年を取っても足腰が弱っていても出来ることは残っている。



経験も。


知識も。


技術も。


それは誰かの役に立つ。


「できないことを支える」


だけじゃない。


「できることを活かす」


ことも大切なんだ。


そんなことを考えながら。


悠斗は夕日に染まるリーベル村を歩いていた。

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