第18話 役割
朝の体操を終えた後だった。
「悠斗!」
村人の1人が声を掛けてくる。
「杖の先が少し緩んでな」
「見てもらえるか?」
「分かりました」
悠斗は笑顔で答える。
最近はこういう相談も増えていた。
「悠斗さん」
「この前作った板、もう1枚作れないか?」
「悠斗」
「今度の外出も頼むぞ」
次から次へと声が掛かる。
悠斗は苦笑しながら対応していた。
その様子を。
工房の入口でエドが見ていた。
「どうしました?」
悠斗が聞く。
「別に」
即答だった。
だが何となく元気がない。
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その日。
工房の中も少し静かだった。
エドは仕事をしている。
だが会話が少ない。
(何かあったんかな)
悠斗は考える。
介護の現場でもそうだった。
元気がない。
口数が減る。
表情が違う。
そんな小さな変化は意外と分かるものだ。
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夕方。
ハナがぽつりと呟いた。
「寂しいんだろうねぇ」
「え?」
悠斗は首を傾げる。
「最近はみんな悠斗ばっかりだろ?」
「そうですか?」
「そうだよ」
ハナは笑う。
「手すりも杖も、体操に遊びもね」
「みんな悠斗に聞く」
そこで悠斗はようやく気付いた。
エドはずっと村を支えてきた。
工房を守り。
家具を作り。
村人達の生活を支えてきた。
なのに最近は。
何かあれば悠斗。
何かあれば悠斗。
もちろん悪気はない。
だが。
少し寂しく感じても不思議ではなかった。
⸻
翌日。
工房へ村人がやって来る。
「悠斗!」
そう呼ぼうとして。
悠斗は先に口を開いた。
「その修理ならエドさんの方が詳しいですよ」
村人がエドを見る。
「そうなのか?」
「当たり前じゃ」
エドは鼻を鳴らした。
「誰に言うとる」
久しぶりに見た。
少しだけ得意そうな顔だった。
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その後も。
棚の修理についてはエドへ。
椅子の相談はエドへ。
木材選びもエドへ。
工房には少しずつ活気が戻っていく。
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数日後。
杖を使っている老人が工房へやって来た。
「エドさん」
「杖の先が少し削れてな」
「見てくれんか?」
エドは杖を受け取る。
丁寧に確認する。
そして。
「まだ使える」
「じゃが少し削ろう」
慣れた手つきだった。
老人は笑う。
「助かったよ」
その言葉を聞いた瞬間。
エドの表情が少し柔らかくなった。
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帰った後。
悠斗は工房の掃除をしながら聞く。
「嬉しそうでしたね」
「何がじゃ」
「顔です」
エドは咳払いをした。
「気のせいじゃ」
明らかに気のせいではない。
「助かったって言われると嬉しいですよね」
悠斗が言う。
介護職の頃もそうだった。
ありがとう。
助かった。
それだけで頑張れた。
エドはしばらく黙っていた。
そして。
「誰かの役に立てるのは悪くない」
小さく呟く。
悠斗は笑った。
「そうですね」
工房の窓から夕日が差し込む。
木の香りが漂う。
静かな時間だった。
「悠斗」
エドが呼ぶ。
「何です?」
「まだまだ負けんぞ」
その言葉に。
悠斗は思わず笑った。
「望むところです」
エドも笑う。
年を取ることは悪いことじゃない。
出来ないことは増えるかもしれない。
だが。
まだ出来ることもある。
役割もある。
必要としてくれる人もいる。
それはきっと。
人生を豊かにする大切なものなのだろう。
夕日に照らされる工房を見ながら。
悠斗はそんなことを考えていた。




