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第17話 会いたい人

外出レクリエーションから数日後。


朝の体操もすっかり村の日課になっていた。


ハナは毎日参加。


エドも文句を言いながら参加。


子供達は相変わらず元気だった。


そんな中。


トーマスの様子が少しおかしかった。


「どうしました?」


体操が終わった後、悠斗が声を掛ける。


「別に」


即答だった。


だが明らかに別にではない。


何か考え込んでいる。



翌日も。


その翌日も。


トーマスはどこか落ち着かない。


「絶対何かありますよね」


悠斗が言う。


「ない」


「あるんじゃないんですか?」


「ない」


「本当に?」


子供のようなやり取りだった。



しばらくして。


観念したようにトーマスがため息を吐く。


「会いたい奴がおる」


その一言だった。



話を聞くと。


村の外れに昔からの友人が住んでいるらしい。


若い頃からの付き合い。


酒を飲み。


畑を耕し。


馬鹿なことも一緒にした。


そんな親友だった。


「最近は会えてないんですか?」


「足がな」


トーマスは自分の足を見る。


「昔ほど歩けん」


その声は少し寂しそうだった。



悠斗は少し考える。


以前の自分なら。


危ない。


無理だ。


やめた方がいい。


そう言ったかもしれない。


だが今は違う。


「どれくらい遠いんですか?」


トーマスが顔を上げる。


「行くのか?」


「どうしたら安全に行けるか考えます」


トーマスは少し驚いた顔をしていた。



その話を聞いたレオンは露骨に嫌そうな顔をした。


「無理だ」


即答だった。


「途中で疲れる」


「転ぶ」


「面倒が増える」


全部正論だった。



だが。


「それでも会いたい」


トーマスは静かに言う。


その言葉に誰も反論できなかった。



翌日。


悠斗は準備をしていた。


水筒。


予備の布。


杖の確認。


途中で休憩できる場所の確認。


第15話の下見経験が活きていた。


「そこまでやるのか」


レオンが呆れる。


「やります」


「面倒だな」


「仕事です」


「介護職か」


「そうですよ」


レオンは深いため息を吐いた。



出発する。


悠斗はトーマスの横を歩いた。


だが支えない。


必要な時だけ支える。


歩くのは本人だ。


それが自立支援だった。



途中で何度か休憩する。


水分を取る。


無理はしない。


少しずつ進む。


トーマスも文句を言わなかった。


会いたい人がいるからだ。



そして。


ようやく目的の家へ辿り着く。


小さな畑が見える。


木造の家。


その前に1人の老人が立っていた。



「……生きとったか」


トーマスが言う。


老人は鼻で笑った。


「お前こそな」


それだけだった。



感動の再会。


涙の抱擁。


そんなものはなかった。



「足悪そうじゃな」


「うるさい」


「前より背中曲がったな」


「お前もじゃ」


「まだ酒飲んどるか」


「飲んどる」



ただ。


2人とも楽しそうだった。



悠斗は少し離れた場所で見守る。


エドは笑っている。


レオンは腕を組んでいた。



「何がおかしい」


レオンが聞く。


「いえ」


悠斗は笑う。


「会えて良かったなと思って」


レオンはしばらく黙っていた。


そして。


「まあ」


小さく呟く。


「悪くないな」



帰り道。


夕日が空を染めていた。


トーマスの足取りは来た時より少し軽い。


疲れているはずなのに。


不思議だった。



「どうでした?」


悠斗が聞く。


トーマスは少し考える。


そして。


「行って良かった」


それだけ言った。


だが十分だった。



悠斗は空を見上げる。


手すりも。


杖も。


体操も。


全部同じなのかもしれない。


転ばないためではない。


生きるためでもない。


その人がやりたいことを叶えるため。


会いたい人に会うため。


行きたい場所へ行くため。


その手助けをする。


それが介護なのかもしれない。


そんなことを考えながら、悠斗はリーベル村への道を歩いていた。

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