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第16話 行きたい場所

外出の日。


朝から広場はいつも以上に賑やかだった。


子供達は落ち着きなく走り回り。


ハナは朝から上機嫌。


トーマスは「別に楽しみではない」と言いながら誰よりも早く来ていた。


「水筒は持ちましたか?」


悠斗が確認する。


「持ったよ」


ハナが答える。


「帽子は?」


「持った」


トーマスが不機嫌そうに言う。


「疲れたら休憩しますからね」


「分かっとる」


「無理は」


「せん」


「本当に?」


「何じゃその顔は」


周囲から笑いが起きた。


少し離れた場所ではレオンが呆れた顔をしている。


「面倒なやつだな」


「仕事です」


悠斗は胸を張った。



しばらくして。


一行は平原へ到着した。


青い空。


風に揺れる草。


遠くに見える山々。


村の中とは違う開放感があった。


「綺麗じゃのう」


エドが呟く。


「本当だねぇ」


ハナも嬉しそうだった。


子供達は走り出そうとする。


「待ってください!」


悠斗の声が飛ぶ。


「まずは休憩場所の確認です!」


「まだ遊べないのー?」


「まだです」


不満そうな声が上がる。


レオンが吹き出した。



木陰へ移動する。


悠斗は全員を座らせた。


「何かあったらここへ戻ってください」


「ここが集合場所です」


「分かったか?」


レオンが低い声で言う。


今度は全員素直に頷いた。


元冒険者の迫力は違う。



しばらくして自由時間になった。


子供達は草原を駆け回る。


エド達は木陰で景色を眺めている。


平和な時間だった。



その時だった。


「ハナさん?」


悠斗が周囲を見回す。


姿がない。


さっきまで木陰にいたはずだった。


「おい」


レオンも立ち上がる。


周囲を探す。


少し離れた場所。


花が咲いている一角があった。


そこにハナはいた。


しゃがみ込みながら花を見ている。


「ハナさん!」


悠斗が駆け寄る。


「危ないですよ!」


ハナは振り返った。


「ごめんよ」


そう言いながら笑う。


「でもねぇ」


「見たかったんだよ」


目の前には小さな花畑。


色とりどりの花が風に揺れている。


「綺麗でしょう?」


確かに綺麗だった。



悠斗は少し言葉に詰まる。


危ない。


勝手に離れるべきではない。


それは間違いない。


だが。


「昔ねぇ」


ハナが花を見ながら言う。


「若い頃、こういう場所へよく来たんだよ」


「懐かしくてねぇ」


その言葉に悠斗は何も言えなくなる。



元の世界にもいた。


歩くのが大変でも。


転ぶ危険があっても。


どうしても行きたい場所がある人達が。


会いたい人がいる。


見たい景色がある。


だから動く。


危険だと分かっていても。



「次からは声を掛けてくださいね」


悠斗はそう言った。


ハナは少し驚く。


「怒らないのかい?」


「怒ります」


即答だった。


ハナが笑う。


「でも」


悠斗は花畑を見る。


「見たい気持ちは分かりますから」


その言葉にハナは優しく微笑んだ。



帰り道。


夕日が平原を赤く染めていた。


子供達は疲れて静かになっている。


エドも満足そうだった。


トーマスは何度も景色を振り返っている。


「楽しかったねぇ」


ハナが言う。


「そうですね」


悠斗も頷く。



隣ではレオンが歩いていた。


「どうだった」


レオンが聞く。


「大変でした」


悠斗は苦笑する。


「だろうな」


「でも楽しかったです」


その言葉にレオンは少しだけ笑う。



しばらく歩いてから。


悠斗はぽつりと呟いた。


「危ないから駄目」


「それだけじゃ駄目なんですね」


レオンは前を向いたまま答える。


「当たり前だ」


「人間は行きたい場所へ行く」


「会いたい奴に会いに行く」


「そういう生き物だ」


その言葉は妙に胸に残った。



村が見えてくる。


帰る場所がある。


そしてまた来たい場所もできた。


悠斗は夕日に染まる平原を振り返った。


安全は大切だ。


だが。


その人が何をしたいのか。


何を見たいのか。


それも同じくらい大切なのだ。


そんなことを考えながら、悠斗はリーベル村への道を歩いていった。

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