合鍵の無い山門
い、一応毎月1更新の、「6月分」のつもりで昨日慌てて投稿したのですが、内容が薄いわ見づらいわで納得いかなかったので後半に省略した会話を追加しました。猟師が軽トラから身を乗り出してゆっくり走っている件の部分になります。
川島さん、会長と三人合流して段取りを聞いていたら、勢子長の犬が頼りなくふらふらしながら坂を右に左に緩やかに曲がりながら下って来る。臭いでも取ってるのかと思ったけど、本当にふらふらしてるから、臭いを取る前のふらふら索敵なのかもしれない。
「イヌ捕まえるのもタツの仕事だかんな」
お師匠様に言われてハッとする。そりゃそうか。後ろは道路だ。
「縄ぁ持ってねだろ」
会長が投げてよこした縄は、普通の布の縄にビニールが織り込まれたような、少し変わった形をしてた。先端には首輪に書けるためのカラビナ的工具が繋がれている。
「犬捕まえるにも、鹿引っ張るにもよ、縄は便利だぞ。山来るなら持たなんばな」
お師匠様がこう言う言い方する奴は、婉曲に”持ってこい”っていうことなのかな。
他の人が割と権威主義的人格否定のニュアンスで言うところを、さりげなくプラス方向の表現で言えちゃう。そこに痺れる憧れる!
これは買わないとな。ラペリングしなきゃいけないシチュエーションとか、考えたくもないけど、そういう時に無ければ死ぬ装備かもしれない。
フェンスの付近に辿り着いた犬は、やる気なさげにフェンス伝いにこちらを確認しに来て、あっさり捕まえさせてくれる。
訓練された猟犬は自分から捕まりに来てくれるものということだろうか。やりやすくて助かる。
「やはり鳴かんなぁ」
小さい声でそんな感じの事をどちらかが言ったような気がした。
勢子長の猟犬は秋田犬に近い見た目で、真っ白。
「この色は、見つけやすくていいよな」
川島さんが頭を撫でながらさりげなく褒める。
「黒とか茶は見づらいですか」
「そりゃそうだ。一面真っ白ならともかく、今みたいに茶色が多い地面なら白は目立つ。やりやすいもんだ」
そんなことを言っていると、10分もしないうちに勢子長が降りて来る。
「だから古いっていったっぺ」
あーめんどくせ、という雰囲気を醸し出した勢子長も合流。足跡の判定は、正解だったらしい。
川島さん、勢子長と会長の車に4人で乗り込んで、順に車に乗って行く。
ああ、そうか。なんで会長が四駆の踏破性最大軽自動車じゃないのかわかった!
他二人が二人乗りっぽい車なのに対して、会長の車だけ4人乗りなのは、これのためか。納得だ。
確かに、全員二人乗りとかだとタツで待機射撃する人に合流した後の車の往復回数が酷いことになる。
その辺、さすがに無駄が無い。
車まで引き返して、今度は人家があるほうへ下る。
どうやら村を挟んで反対の山が本命らしい。
「あんたが最後だ、締めとくれ」
今度の山道もやっぱりゲート。集落を囲むようにフェンスが張られているが・・・どうも川の周りで越えられそうな隙が多数。これ微妙だよなぁ。
川島さんの指示に従って扉を閉めてる間に、車の主たちが話し合いが終わったらしく、先に勢子長が消える。
「じゃあ、一緒に山歩きでも行くか。」
山の中腹を進み、7つめくらいのカーブに、車を止める。
「よしこっちだ」
会長の車に乗り移る。
「銃口は絶対に下、エンジン側だ。どの車の時もこれは守らないとな」
カバーに覆われたライフルは。確かにエンジン方向を向いている。
エンジン爆発するんじゃと思ったけど、数km飛ぶようなものを確実に止めるためには仕方ないんだろう。
僕と川島さんも載せた会長の車が、ゆっくり、ゆっくり進んでいく。
身を乗り出して上を見上げる川島さんを気にしながら速度メーターをのぞき込むと、20km/hも出ていない。
「お前さんは、下の方見ててくれ」
メーターや川島さんに目が行っていたのを、会長にたしなめられる。
一つ目に入った山より、道から見て山の下側が比較的視界がひらけていて200m先くらいに川の気配を感じる。
特に大きなカーブに差し掛かるとほとんど止まるような速度にして、上下左右を念入りに見てから進む。
「ミラー、わかるか」
やや声を小さくして言われる。
「対向車ですか?」
「おいおい。ミラーで角の向こうの鹿をみるんだろ」
「ああ!え!?居ますか」
「いや、居ないがな、それも練習よ」
「そうですね。全然意識していませんでした」
「猟師ってなそういうもんよ。いつでもイノシシが駆け下りた跡やら、鹿の遊び場なんかないか気にしてとろとろ走っちまう」
「なるほど!」
「楽しいだろ。」
「はい!」
途中大きく曲がりながら上り坂になるところで、やや坂を上ったあたりに大きな石を川島さんが指さす。
「ここがお気に入りでな、”会長の腰かけ”だ」
なるほど、覚えやすい。
「お前さん達おいたら、オレァここに戻るからよ」
やはり、会長が腰かけるらしい。
「勢子長は最後にここに出る。岡本さんは、オレの車の所だ。暖かくして車で待ってりゃいい」
中腹に沿っていた道が、上り坂になり、一気に尾根筋に出る。
「ここの尾根が村を結んでるからよ、こっちにも門があるんだ。”三角の上行く門”って訳だ」
尾根側から来るのを防ぐ形で、幾分ごつい門が開け放たれている。勢子長が外したのだろうか。
「ここのカギは会長が持ってるがな、めんどくさい奴でよ。合鍵作れねーんだと」
高度な加工方法で作られた独特の鍵には複製が非常に困難なものがあるらしい。
「10年も前は、普通に合鍵が作れて便利だったが、まあ、悪い奴が居たんだろうな」
猟友会、消防団、営林署・・・それから、他に何が居るか気になるところだが、入口の方は鍵付きじゃなかった。
つまり、入ることはできる。
「勢子長も首を長くしてるだろう。早く行かないとな」
ノイズ交じりで何を言っているか正直分からないけれど、無線からは、ちんたらしてんじゃねーぞと聞こえた気がした。
※本作品はフィクションです。
※実在の人物、団体、事件、地名、技術、科学的根拠を保証するものではありません。
※また、取材の過程で入手した情報が一部反映されていますが、
※別の地名・時代・人物の話を複合的に盛り込んでおり、実際の出来事や法律と一致するものではありません。
※法律・植生・科学的事実について裏取りが出来ていないものを含む「創作」「ファンタジー」であることをご理解ください。
偶然書いてあることが何かに一致しても真実だったり嘘であっても著者は一切責任を負いません。
あと、猟師はせっかち。これはたぶんノンフィクションです。取材結果的に。




